リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「網羅的解析手法を用いたRANKL誘導性破骨細胞分化メカニズムの解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

網羅的解析手法を用いたRANKL誘導性破骨細胞分化メカニズムの解明

伊澤, 直広 東京大学 DOI:10.15083/0002001681

2021.09.08

概要

⾻代謝の恒常性は、破⾻細胞による⾻吸収と⾻芽細胞による⾻形成の調和のとれたバランスにより維持される。破⾻細胞は⾻髄マクロファージから分化し、⽣理的あるいは病的な⾻吸収に重要な役割を果たす。破⾻細胞の分化にはreceptor activator of nuclear factor κB ligand (RANKL)と macrophage colony-stimulating factor (M-CSF)の2つのサイトカインが必須である。RANKLは tumor necrosis factor (TNF)スーパーファミリーの2型膜貫通タンパク質であり、⾻芽細胞や T リンパ球を含む様々な細胞により⽣成される。そして安定した3量体を形成し、その特異的受容体である TNF 受容体スーパーファミリーに属する受容体 RANK に結合する。RANKL が結合すると、RANK は接着分⼦ TNF receptor-associated factor 6 (TRAF6)を誘導し、それにより nuclear factor (NF)-κB や mitogen-activated protein kinase、immunoreceptor tyrosine-based activation motif-containing co-activator pathway などの様々なシグナル伝達経路を活性化する。 c-Fos や NF-kB、nuclear factor of activated T cells cytoplasmic 1 (NFATc1)などの転写因⼦はこの RANKL 刺激により誘導され、破⾻細胞分化に重要な役割を果たす。

組織あるいは細胞特異的な遺伝⼦の発現メカニズムに関する知⾒のほとんどは、各々の遺伝⼦に対する遺伝⼦学的、⽣化学的な研究によりもたらされている。破⾻細胞においては、acid phosphatase 5 (Acp5)、cathepsin K(Ctsk)、dendrocyte expressed seven transmembrane protein(Dc-stamp)、integrin β3(Itgb3)、osteoclast-associated receptor(Oscar)などの破⾻細胞特異的な遺伝⼦について、近傍における制御領域が同定されており、様々な転写因⼦の関与が⽰されてきた。しかしながら、破⾻細胞に関与する遺伝⼦発現制御領域のゲノムワイドな網羅的解析はいまだおこなわれておらず、破⾻細胞特異的な遺伝⼦制御の全貌はほとんど解明されていない。

破⾻細胞分化過程における活性化制御領域
⾻髄マクロファージと破⾻細胞の活性化制御領域を同定するために、H3K27ac に対する ChIP- seq を⾏った。H3K27ac は polycomb-repressive complex 2 (PRC2)を形成して、転写を抑制する H3K27me3 に拮抗し、転写の活性化に関与する。⾻髄マクロファージ固有のピークは 14897 箇所、破⾻細胞固有のピークは 11403 箇所、共通のピークは 10729 箇所が同定された。さらにFAIRE-seq を⾏ってヌクレオソームの結合していない領域(nucleosome-free regions; NFRs)を特定し、H3K27ac と NFRs の共通領域における新規結合モチーフ解析を⾏って、⾻髄マクロファージと破⾻細胞で遺伝⼦発現制御に関わる転写因⼦の候補を探索した。⾻髄マクロファージ固有領域、破⾻細胞固有領域、共通領域のいずれにおいても PU.1 と bZIP の結合モチーフが濃縮していた。⼀⽅、PU.1-IRF 複合体や C/EBPe、MADS の結合モチーフは⾻髄マクロファージ固有領域で、NFATc1-AP1 や Sp1、GFY の結合モチーフは破⾻細胞固有領域に濃縮していた。 PU.1、PU.1-IRF8、NFATc1 の既知の結合モチーフについて、H3K27ac ピークの⾻髄マクロファージ、破⾻細胞それぞれの固有領域および共通領域について探索した。PU.1 モチーフは全ての領域で、PU.1-IRF8 モチーフは共通領域と⾻髄マクロファージ固有領域で、NFATc1 モチーフは破⾻細胞固有領域で濃縮を認めた。

⾻髄マクロファージと破⾻細胞における PU.1 結合領域
⾻髄マクロファージ固有、破⾻細胞固有、共通のいずれの H3K27ac を伴う NFRs にも PU.1モチーフを認めたため、破⾻細胞における PU.1 の役割をより詳細に検証する⽬的で PU.1 のChIP-seq を⾏った。⾻髄マクロファージ固有に 21625 箇所、破⾻細胞固有に 20821 箇所、共通には 35780 箇所の結合領域を同定した。PU.1 結合領域のうち、⾻髄マクロファージに固有のもの、破⾻細胞に固有のもの、いずれにも存在する共通のものにつきそれぞれ新規モチーフ解析を⾏った。PU.1 の ChIP-seq の結果として想定される通り、いずれにも既知の PU.1 の結合配列が強く濃縮していた。それに加え、⾻髄マクロファージ固有の PU.1 結合領域では PU.1-IRF8、BORIS、C/EBPeの結合モチーフが、共通の PU.1 結合領域では bZIP、ETS、IRF、C/EBPbの結合モチーフが、破⾻細胞固有の PU.1 結合領域では bZIP、NFAT、NFkB、STAT3 の結合モチーフが濃縮していた。この結果から、RANKL 誘導性破⾻細胞分化の過程において、PU.1 が細胞種ごとに協調する転写因⼦のパートナーを切り替えることにより、それぞれの細胞特異的な遺伝⼦発現を制御している可能性が想起された。また、bZIP の既知の結合モチーフであるTGANTCA について解析したところ、破⾻細胞固有の PU.1 結合領域では 17.7%に含まれるのに対し、⾻髄マクロファージ固有の PU.1 結合領域でこれを含むものは 9.1%にとどまった。

NFATc1 と IRF8 の結合領域
NFATc1 は破⾻細胞分化におけるマスター転写因⼦であり、⼀⽅ IRF8 は RANKL 誘導性破⾻細胞分化を抑制的に制御する。これら破⾻細胞に対して対照的な役割をもつ 2 つの転写因⼦について、RNA-seq、histone 修飾に対する ChIP-seq、およびそれぞれの転写因⼦に対する ChIPseq を⾏い、解析を⾏った。RNA-seq の結果から RANKL 誘導性破⾻細胞分化の過程では Irf8の発現は減少し、Nfatc1 の発現は増加する。また、転写を抑制的に制御するヒストン修飾である H3K27me3 に対する ChIP-seq では、⾻髄マクロファージでは Nfatc1 遺伝⼦領域にあるH3K27me3 修飾が、破⾻細胞では減少していた。これに対して、Irf8 遺伝⼦領域では⾻髄マクロファージの段階と⽐較して破⾻細胞で H3K27me3 修飾が⼤幅に増⼤した。加えて、Irf8 のプロモータ領域では、転写を亢進するH3K4me3 修飾が⾻髄マクロファージと⽐較して破⾻細胞で⼤幅に減少していた。NFATc1 の結合は Nfatc1 ⾃⾝の遺伝⼦領域に広く分布しており、その多くで PU.1 が共局在していた。興味深いことに、NFATc1 の結合は破⾻細胞での Irf8 のプロモータ領域にも認められたが、その周囲に PU.1 の結合は認めなかった。

NFATc1結合領域とIRF8結合領域の近傍の遺伝⼦群に対してGene Ontology解析を⾏った。IRF8 制御遺伝⼦群は⾻髄マクロファージにおいて免疫反応や⾃然免疫応答に関連しており、⼀⽅ NFATc1 関連遺伝⼦群は破⾻細胞において、⾻髄⽩⾎球の分化制御や蛋⽩質の折り込み、ミトコンドリア輸送、そして破⾻細胞分化制御に関連していた。

NFATc1 により制御される遺伝⼦のプロモータ領域でのヒストン修飾
NFATc1 が転写開始点から 2kb 以内に結合するものを NFATc1 制御遺伝⼦群とし、RNA-seqでこれらの遺伝⼦群の発現変化を解析した。予想される通り、RANKL 刺激により発現上昇する遺伝⼦群が存在するが、興味深いことに RANKL 刺激により発現が減少する遺伝⼦群のプロモータ領域でも NFATc1 の結合が認められた。⾻髄マクロファージあるいは破⾻細胞において、標準化した mRNA 転写を表す read per kilobases per million (RPKM)が 10 以上である 4976 遺伝⼦について、NFATc1 が転写開始点から 2kb 以内に結合し、かつ⾻髄マクロファージと破⾻細胞での発現が 2 倍以上(n=1379)、あるいは 0.5 倍以下(n-689)になる遺伝⼦群について、そのプロモータ領域でのヒストン修飾を解析した。H3K4me3 修飾についてはどちらの遺伝⼦群においても⾻髄マクロファージと破⾻細胞で⼤きな差は認めなかったが、H3K27me3 修飾については、発現が減少する遺伝⼦群では破⾻細胞において⼤きく修飾が増加していた。⼀⽅、発現が増加する遺伝⼦群では細胞間で明らかな違いを認めなかった。

PU.1 は⾻髄マクロファージにおいては IRF8 と、破⾻細胞においては NFATc1 と協調して遺伝⼦発現を制御する
⾻髄マクロファージと破⾻細胞において、ChIP-seq を⽤いて PU.1 、IRF8、NFATc1 の結合領域を同定し、これらを⽐較解析した。図 5A に⽰したヒートマップ解析の結果、⾻髄マクロファージ固有のPU.1結合領域では⾻髄マクロファージでのIRF8結合領域との重なりを認めたが、破⾻細胞固有の PU.1 結合領域ではこれを認めなかった。逆に、破⾻細胞固有の PU.1 結合領域では破⾻細胞での NFATc1 結合領域との重なりを認めたが、⾻髄マクロファージ固有の PU.1結合領域ではこれを認めなかった。また、⾻髄マクロファージあるいは破⾻細胞の PU.1 結合領域を bZIP モチーフ(TAGNTCA)の有無で分け、IRF8 と NFATc1 の結合を解析したところ、IRF8 については bZIP の有無による差異は認めなかったが、NFATc1 については、bZIP モチーフを含む PU.1 結合領域において有意に tag density が⾼い傾向があった。

結論
本研究により、RANKL 刺激が⾻髄マクロファージのエピジェネティックな環境を変化させ、Irf8 の発現を抑制し、Nfatc1 の発現を促進することを⽰した。さらに、PU.1 はパートナー転写因⼦を IRF8 から NFATc1 へ切り替えることにより結合部位を変化し、⾻髄マクロファージ特異的遺伝⼦の発現を抑制するとともに破⾻細胞特異的遺伝⼦の発現を促進した。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る