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大学・研究所にある論文を検索できる 「西洋医学・漢方医学統合型医療の活用を指向した漢方薬使用の実態およびeラーニングを用いた漢方医学教育の有用性に関する調査研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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西洋医学・漢方医学統合型医療の活用を指向した漢方薬使用の実態およびeラーニングを用いた漢方医学教育の有用性に関する調査研究

伊藤 亜希 Aki Ito 東京理科大学 DOI:info:doi/10.20604/00003678

2022.06.17

概要

漢方薬が保険適用され、一人の医師が日常の診療の中で西洋薬と漢方薬を使い分けたり組み合わせたりして使用している我が国の医療は、伝統医学と西洋医学を統合して実践する世界的にも数少ない状況にある。漢方医学は、西洋医学とは異なる独自の診断法すなわち証によって患者の診断を行い、証に応じた漢方薬を用いて治療にあたる日本の伝統医学であり、西洋医学的な治療で改善が見られない時や、診断がつかない時などに有効な治療手段となることも少なくない。近年の実験薬理学的な研究の成果により、漢方薬の一部の作用が複数の生薬を組み合わせることによって生じるものであることや、西洋薬とは異なる作用点を持つことが示されている。このことは、未だ完全とは言えない西洋医学を補完する手段として漢方薬を用いることの有用性を示唆しているが、漢方薬を真に有効に利用するためには、次元の異なる西洋医学と漢方医学の両面から一人の患者を診断、総合的に判断することが理想となる。しかし、現行の医療現場や医師および薬剤師を養成する教育の現場は、このような我が国独自の西洋医学・伝統医学統合型医療を活用するために十分な体制が整えられているとは言い難く、特に漢方医学については、独学で学んだ医師だけがその特徴を生かした医療を実践していると推定される。本研究では、このような現代医療および医療教育における統合医療の活用に関する問題点を明確にしつつ、漢方医学を学ぶための一戦略としてeラーニングを開発、その有用性を検証した。

第1章現行医療の中での漢方薬の使用実態と漢方医学教育における課題の抽出
がんは、西洋医学的な治療発展途上にある代表的な疾患の一つである。がん診療における漢方薬の有効性については数多く報告されているが、臨床現場で漢方薬の使用実態はあまり検討されていない。そこで、がん診療における漢方薬の処方の実態調査、漢方医学の意識調査、漢方医学の学習の実態調査を実施した。全国392のがん専門病院を対象にアンケートを依頼した。医師900人を有効回答として解析した。92.4%の医師が漢方薬を処方しており、73.4%の医師ががん患者に漢方薬を処方していた。一方、漢方医学の学習状況については、学習経験のある医師は28.7%、学習経験のない医師は70.9%であった。学習経験のない医師のうち、27.1%は機会があれば学習したいと回答した。このように医師の漢方医学の学習の実態は3割にも満たないことが明らかになった。また、漢方薬に対する期待度については、「期待する」と回答した医師の割合は31.0%、「どちらとも言えない」は36.7%、「期待しない」は31.4%であった。この結果を学習した医師を学習経験群(n=258)とし、学習経験がなく、機会があれば学習したいと回答しなかった医師を非学習意思群(n=394)として比較検証した。がん患者に対する漢方薬の期待度をみると、学習経験群では「期待する」と回答した医師の割合は49.2%、「期待しない」は18.2%であった。一方、非学習意思群では「期待する」と回答した医師の割合は16.2%、「期待しない」は45.7%であった。このように学習経験群と非学習意思群とでは、がん診療における漢方薬の期待度が全く逆の結果になった。特に漢方医学ががん領域に期待されている項目である「化学療法の副作用の軽減」「放射線療法の副作用の軽減」「免疫賦活作用」「QOL向上」についても同様の結果となった。また、漢方医学には未病という考えもあり、漢方医学の予防医学領域の期待度についても同様の結果であった。このように医師の漢方医学に対する学習の有無によって、がん診療における漢方医学に対する期待度と予防医学領域における漢方医学に対する期待度に大きな差が現れた。この差は患者に不利益になると考えられる。

一方、薬剤師についても医師と同じ施設で調査し、有効回答数708人を解析した。漢方医学の学習経験のある薬剤師は29.4%であり、医師と同様3割以下であった。また、漢方薬の処方意図が分かると回答した薬剤師は25.6%であった。医師の9割以上が漢方薬を処方しているにも関わらず、処方意図が分かる薬剤師は3割未満しかおらず、患者にとって十分な服薬指導が行われていないことが推定された。以上のことより、7割以上の医師と薬剤師が漢方医学を学習していない実態が明らかとなった。少なくともそのうち機会があれば学習したいと回答した医師と薬剤師に対して、漢方医学を学習できる環境を整える必要がある。また、漢方専門医や漢方生薬認定薬剤師との連携環境を整える必要がある。

第2章漢方医薬学教育におけるeラーニングの開発と有用性の検討
前章で7割以上の医師と薬剤師が漢方医学を学習していない実態が明らになった。その解決ために漢方医学のeラーニングを開発し、その有用性を検討した。漢方eラーニングを開発するに際し、医薬学教育と漢方医学の専門的立場である医師7人と薬剤師1人の委員会を発足させた。開発途中で医師、薬剤師、医学生、薬学生の計96人に漢方eラーニングを提供し、その内容について良かった点、改善点を調査した。調査結果により『漢方の診察と調剤』『体系的漢方医学カリキュラム』『漢方資料』『漢方クイズ』『薬用植物園』『国家試験』『アーカイブ』の7つのコースを構築した。次に構築した漢方eラーニングを用いて医学部6大学、薬学部5大学の各大学で反転授業を実施した。慶應義塾大学医学部4年生を対象とし、2015年度はパイロットスタディ、2018年度は反転授業(FC)、2019年度は2018年度のコントロール群として講義中心型の従来授業(TC)を実施した。2015年度のパイロットスタディでは、漢方授業8コマのうち、4コマ目の「消化器・呼吸器疾患の漢方治療」の授業で反転授業を行った。反転授業の1週間前に学生には事前に学習するeラーニングの項目を通知した。学生には、反転授業までに漢方eラーニング内の『漢方の診察と調剤』コースと『体系的漢方医学カリキュラム』コース内の「慢性胃炎」「食欲不振」「下痢」「便秘」の4コンテンツを受講するように指定した。また、他の全てのコースを自由に受講できるように設定した。反転授業では教員が3つの症例を提示した。学生はグループ単位で症例について話し合った後に発表し、さらに教員とディスカッションをした。その後、教員が補足説明の講義を行った。授業後、学生にWebアンケートを実施した。学生118人のうち、113人(95.8%)が漢方eラーニングに登録され、100人(84.7%)が授業に出席した。その後、88人(74.6%)がアンケートに回答した。アンケートに回答した88人について解析した。86.4%が反転授業という言葉を聞いたことがなく、83.0%の学生が今回初めて反転授業を経験したと回答した。指定された漢方eラーニングのコンテンツを全て受講した学生は35.2%、一部受講した学生は53.4%、全く受講しなかった学生は11.4%であった。反転授業に対して、86.4%が満足とし、79.6%が理解したと回答した。また、80.7%が「今後も反転授業を採用すべきである」と回答した。これまでの他の分野の報告と同様に漢方医学分野の反転授業に対しても高評価であった。慶應義塾大学医学部以外の他の医学部も薬学部も同様の結果であった。また、慶應義塾大学医学部で2018年度の反転授業(FC)と2019年度で講義中心型の従来授業(TC)の比較を行った。出席率はFC96.4%、TC57.9%で有意にFCの方が高かった(p<0.0001)。漢方医学に対する興味度(5スケール)は、授業前のプレ調査ではFC(平均3.8±1.0)とTC(平均3.2±1.4)間で差はなかったが、授業後のポスト調査ではFC(平均4.1±1.2)とTC(平均3.4±1.3)間でFCの方が、有意に興味度が高かった(p<0.01)。試験結果については、2018年度も2019年度も両方とも従来授業を実施した婦人科分野の問題に対する点数は有意差がなかったが、2018年度は反転授業(FC)、2019年度は従来の講義中心の授業(TC)を実施した感冒の問題に対する点数は有意にFCの方が高かった(p<0.05)。

まとめ
西洋医学・漢方医学統合型の医療体制を持つ我が国の医療を高度に活用することを究極の目的とし、本研究では、漢方医学教育の現状を明らかにし、現状を解決するために漢方eラーニングを開発し、その有用性を検証することを目的として研究を行った。第1章では、9割の医師が漢方薬を処方しているが、漢方医学を学習している医師、薬剤師は各3割未満である実態が明らかになった。また、がん診療における漢方薬の期待度も学習によって差があり、漢方医学教育の環境を整える必要性が明るみになった。第2章では、第1章で抽出された課題を解決するために漢方eラーニングを開発し、漢方eラーニングを用いた反転授業を複数の大学で実施した。主観的評価としての反転授業の満足度、理解度、漢方医学の興味度に対しいずれも高い効果を示した。また客観的評価として試験結果においても効果的であることを示した。以上により、本研究で開発した漢方eラーニングは、効果的に漢方医学を学ぶための教材であることが示唆できた。また、漢方eラーニングを用いた反転授業は、有用であることが確認できた。今回実施した反転授業は、授業モデルとして漢方を専門とする教員が不在の大学でも実施できる可能性がある。本研究で開発した漢方eラーニングは,効果的に漢方医学を学ぶための教材であることが示唆でき,医療従事者の漢方医学に関する習熟度向上に役立つと期待できる。

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