ROCK1/AMPK axisを介した脂肪酸代謝障害による糖尿病腎症進展機構 (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
糖尿病腎症の成因として脂肪酸の利用障害が知られており,腎皮質における脂肪酸代謝酵素群の発現低下と腎機能低下との間には相関があることが示されている.しかし,そのメカニズムは十分に解明されていない.本研究では腎症進展に重要な役割を担うRho-kinase(ROCK)に着目し,脂質エネルギー代謝における意義を明らかにすることを目的とした.
【方法と結果】
主要な糖尿病モデルである高脂肪食投与マウス,db/dbマウス,STZ 誘発糖尿病マウスの糸球体では,いずれも対照と比較してTGF-βの発現が増加していた.培養メサンギウム細胞にTGF-βを投与すると,PGC-1αや P PA Rα,carnitine palmitoyltransferase 1A(CPT1A)等の脂肪酸代謝に関連する遺伝子群の発現が低下した.細胞外フラックスアナライザーを用いた検討では,TGF-βの投与によって細胞の酸素消費速度が低下し,ミトコンドリア機能障害が示唆された.ROCK の2つのアイソフォームであるROCK1とROCK2を,それぞれsiRNA を用いてノックダウンしたところ,ROCK1をノックダウンした場合にのみ,これら脂肪酸代謝酵素群および酸素消費量の回復が見られた.また,TGF-β投与によって誘導される酸化ストレス産生にもROCK1が関与していた.そのメカニズムを検討したところ,ROCK1はAMPK のリン酸化を介してPGC-1αの発現を制御し,その下流の脂肪酸代謝を調整することが明らかになった.また網羅的解析として初代培養メサンギウム細胞を用いてRNA-seq を行ったところ,野生型と比較しROCK1欠損マウス由来のメサンギウム細胞では,エネルギー代謝関連遺伝子群が最も顕著に変化していることが分かった.高脂肪食投与マウスでは尿中8-OHdG の増加,メサンギウム細胞におけるミトコンドリア断片化の指標であるaspect ratio の低下,また糸球体における脂肪酸代謝関連遺伝子の発現低下が起こっていたが,ROCK1欠損マウスではそれらの変化が抑制されていた.以上の結果から,ROCK1アイソフォームが脂肪酸の利用障害とミトコンドリア呼吸障害をもたらし,酸化ストレスの産生を促進する可能性が示唆された.
【結論】
ROCK1/AMPK シグナルは糖尿病腎症における脂質エネルギー代謝異常に重要な役割を担っている.ROCK1は糖尿病腎症における重要な治療標的に成り得る.