細胞壁アンカータンパク質SasGはAドメインとLPXTGモチーフを介して黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を促進する (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
黄色ブドウ球菌はバイオフィルム形成能が高く,カテーテルや人工関節などの体内留置型医療用デバイス上にバイオフィルムを形成し,難治性の感染症を引き起こす.黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成に重要な役割を果たすことが知られている細胞壁アンカータンパク質SasG(Staphylococcus aureus surface protein G)は,N 末端にシグナル配列を有し,それに続くA ドメインとB ドメイン,およびLPXTG モチーフから構成され,LPXTG モチーフを介してペプチドグリカンと共有結合することで細胞壁にアンカリングされる.これまでに,バイオフィルム形成の促進にはSasG のB ドメイン同士の相互作用が重要であると報告されている(Conrady et al. PNAS 2013).しかし,B ドメイン以外のドメインの機能の詳細は不明であり,SasG の作用機序は十分には理解されていない.本研究では,東京慈恵会医科大学附属病院において患者から分離されたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌臨床分離株であり,タンパク質性のバイオフィルムを高度に形成するMR23株(Sugimoto et al. Sci. Rep. 2018)と,世界的に広く用いられているメチシリン感受性黄色ブドウ球菌実験室株であるRN4220株をパラレルに用い,バイオフィルム形成におけるSasG の各ドメインの機能を再検証した.
【方法・結果】
MR23株を親株として種々の遺伝子欠損株を作製し,バイオフィルム形成量を測定した.その結果,SasG の単独遺伝子欠損はバイオフィルム形成量に影響を与えなかったが,分泌タンパク質であるEap(Extracellular adherence protein)の遺伝子と同時に欠損させた場合には,バイオフィルム形成量が有意に低下することを見出した(Yonemoto et al.Infect. Immun. 2019).そこで,野生型SasG(SasG™)と各ドメイン欠損変異体SasG を発現するプラスミドをMR23 Δeap ΔsasG 株に導入し,バイオフィルム形成量の回復を調べた.その結果,SasG™ を発現するとバイオフィルムの形成量が回復したが,LPXTG モチーフを欠損させた変異体(SasGΔL)やA ドメインを欠損させた変異体(SasGΔA)を発現させた場合にはバイオフィルムの形成量は回復しなかった.予想外なことに,Bドメイン欠損変異体(SasGΔB)を発現させた場合において,バイオフィルム形成量の回復が認められた.RN4220株においても同様に,SasG™ およびSasGΔB の発現でRN4220 ΔsasG 株のバイオフィルム形成量が回復し,SasGΔA の発現ではバイオフィルム形成量の回復は認められなかった.
【結論】
以上より,黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成におけるSasG の機能には,B ドメインではなくA ドメインの機能とLPXTG モチーフを介した細胞壁へのアンカリングが重要であるという,従来の作用機序モデルに修正を迫る新しい知見が得られた.