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大学・研究所にある論文を検索できる 「乳がん術後リンパ浮腫患者の体幹部における水分貯留状況と腫脹・自覚症状との関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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乳がん術後リンパ浮腫患者の体幹部における水分貯留状況と腫脹・自覚症状との関連

久野, 史椰 名古屋大学

2021.06.02

概要

①緒言
乳がん術後の合併症である続発性リンパ浮腫は、上肢だけでなく体幹部にも生じると言われている。体幹部に生じる腫脹は患者のQOLの低下に影響を与えていることは明らかになっているが、その内部構造に関しては不明点が多い。現在、乳がん術後リンパ浮腫の体幹部に対して行われているケアの一つに「徒手的リンパドレナージ(Manual lymph drainage : MLD)」がある。MLDは浮腫側に貯留した水分を排出することを目的に行われ、内部に水分貯留があることを前提に行われているにも関わらず、リンパ浮腫患者の体幹部の水分貯留状況は未だ明らかになっていない。このためMLDは、リンパ浮腫セラピストによる腫脹の定性的評価や、患者の自覚症状を参考にして、内部の水分貯留状況を推測して行われているのが現状である。そこで、本研究では、リンパ浮腫患者の体幹部の水分貯留状況を観察し、現状でケアの評価指標とされている腫脹と自覚症状との関連を明らかにすることを目的とした。

②対象及び方法
乳がん手術後の患者30名を対象とした。水分貯留状況の観察には、Magnetic Resonance Imaging(MAGNETOMVerio3T ; Siemenshealthcare Gmbh, Erlangen, German)を使用した。撮像方法は、一般的には関節液などの描写に威力を発揮し、撮影したスライスを再構成することによって対象を3次元的に観察できるThree-dimensional double-echo steady-state(3D-DESS)シーケンスと、撮像時間が短く、息止め撮影が(15〜20秒程度)可能であるHalf-Fourieracquisition single-shotturbospinecho(HASTE)シーケンスの2種類で、体幹部及び患側上肢を撮像した。MRI上で水分貯留を示す高信号の有無の判定については、Three-dimensional Maximum Intensity Projection(MIP)analysisを用いて、放射線技師を含むMRIを見慣れた3人の意見の一致によって結果を得た。体幹部の腫脹の判定には、リンパ浮腫セラピストによる定性的評価を用い、腫脹の有無によって対象者を2群に分類した。さらに、3Dスキャンシステム(3Dスキャナー:GO!SCAN50,CREAFORM、3Dリバースエンジニアリングソフトウェア:Geomagic ControlX, 3Dsystems)を用いて、背部の厚さの患側と健側の差を算出し、セラピストの定性的評価により分類された2群間に、定量的に有意な差が認められるか否かを判定した。自覚症状の調査には、Visual Analog Scale(VAS)質問用紙を用いた。体幹部の皮膚の張り、動かしにくさ、おもたさ、はれぼったさ、痛み、しびれの計6項目について、症状の有無や程度(重症度)について回答を得た。

③結果
被験者30名のうち、医師の臨床診断及び上肢の周囲径の左右差によりリンパ浮腫を診断されたのは18名であった。そのうち、MR撮像にも同意が得られたのは13名であった。MR撮像では、13名のうち8名で、患側上肢の皮下組織部に水分貯留を示す高信号が認められたにも関わらず、同一画像上において体幹部には高信号が認められなかった。残りの5名は、リンパ浮腫を診断されているにも関わらず患側上肢、体幹部ともに皮下組織部に高信号は認められなかった。体幹部の腫脹の判定では、リンパ浮腫を診断された18名は、リンパ浮腫セラピストの定性的評価によって、腫脹の有無により9名ずつの2群に分類された。この2群は3Dスキャンシステムによる背部の厚さの定量的評価においても有意な差が認められた。自覚症状では、リンパ浮腫診断の有無に関わらず、全被験者30名のうち、29名が1項目以上の自覚症状があると回答した。症状の程度(重症度)の比較では、リンパ浮腫診断がある者が、診断がない者よりも「皮膚の張り」、「おもたさ」、「はれぼったさ」の項目において、症状の程度が有意に重かった。MR撮像を行った13名の腫脹、自覚症状及び水分貯留状況の結果についてまとめると、体幹部に腫脹が認められたのは7名で、13名全員が1項目以上の自覚症状があると回答していたにも関わらず、体幹部の水分貯留はいずれの被験者にも認められなかった。

④考察
MR撮像の結果より、同一画像上において、患側上肢には水分貯留を示す高信号が認められたが、体幹部では認められなかった者が存在したことから、体幹部では上肢に貯留しているリンパ液と同質のものは存在しないことが明らかとなった。解剖学的に、上肢と体幹部で貯留する水分は同質であると考えられるため、本研究において、リンパ浮腫群の全ての被験者の体幹部で、高信号が認められなかったことから、リンパ浮腫を診断されていても、体幹部に水分貯留のない例が存在することが示唆された。腫脹の判定の結果より、これまで体幹部の腫脹はリンパ浮腫セラピストの定性的評価のみで判定されてきたが、本研究によって、リンパ浮腫を診断された患者の中に体幹部に腫脹を認めるものと認めないものが存在することが初めて定量的に示された。自覚症状の結果より、リンパ浮腫診断の有無により症状の程度は変化するものの、乳がん術後でリンパ浮腫診断のないものに関しても、ほとんどの者が体幹部に自覚症状を感じており、体幹部の自覚症状の有無だけではリンパ浮腫の評価指標としては不適切である可能性が示唆された。MR撮像を行ったリンパ浮腫群13名の腫脹、自覚症状及び水分貯留状況の結果より、体幹部に腫脹が存在したのは7名で、13名全ての被験者が体幹部に1項目以上の自覚症学位関係38字×23行状を感じていたにも関わらず、いずれの被験者にも水分貯留が認められなかったことから、体幹部の腫脹や自覚症状と水分貯留状況は必ずしも一致しないことが明らかとなった。これまでリンパ浮腫患者の体幹部に関して、その実態が明らかになっていないまま、水分貯留を前提としたMLDなどの定型的なケアがなされていたが、本研究の結果から、体幹部の皮下ドレナージの効果について検討しなおす必要性や腫脹や自覚症状に対して他のアプローチが必要であることが示唆された。

⑤結語
乳がん術後リンパ浮腫患者の体幹部において、上肢に貯留しているリンパ液と同質のものは体幹部には存在しないこと、体幹部の腫脹や自覚症状は、水分貯留状況と必ずしも一致しないことが明らかとなった。

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