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Syk欠失マウスにおける動脈硬化と炎症

津久井, 大輔 東京大学 DOI:10.15083/0002002413

2021.10.13

概要

動脈硬化症では脂質異常症のみならず炎症が重要な役割を果たしている。HMG-CoA還元酵素阻害薬によるLDLコレステロール低下は心血管性イベントを大きく低下させるが, 完全に消失することはなく残余リスクと呼ばれる種々の因子が考えられ, その1つとして炎症が挙げられている。動脈硬化症の発症・形成においても白血球の動員・遊走・浸潤, 炎症性サイトカインやケモカインの産生等の炎症性病態が深く関与している。複数の臨床試験から動脈硬化進展と血液における炎症反応の関連が示され, HMG-CoA還元酵素阻害薬に関しても血清脂質の改善に加えて抗炎症作用がその重要な機序であることが示唆されていた。さらに近年, ヒトを対象にした臨床試験おいて抗IL-1βモノクローナル抗体によって心血管系イベントの抑制効果が報告された。
 そこで, 我々は動脈硬化症における炎症を検討するにあたり, 炎症細胞浸潤におけるrollingや細胞接着, 細胞運動性やインフラマソーム活性化とIL-1β産生に関わることが報告されているなど, 動脈硬化の様々な点で関与すると推定されるSpleen tyrosin kinase(Syk)に注目して検討を行うこととした。Syk阻害薬は様々な疾患で臨床応用されているが動脈硬化症ではヒトを対象にした動脈硬化症や心血管系イベント抑制に関する臨床試験はなく, マウスにおけるSyk阻害薬による動脈硬化抑制の報告に限られる。Syk阻害薬を用いた動脈硬化に関する報告では, 動脈硬化巣や動脈硬化巣内のマクロファージの減少, 細胞運動性の低下, 酸化LDL貪食能低下, 骨髄由来マクロファージへの分化抑制などSykが動脈硬化促進的に作用する報告が多い。その一方で, IL-1βを始めとした炎症性サイトカイン産生についてはSyk阻害薬やSyk遺伝子欠失骨髄マクロファージを用いてSykが促進的, 抑制的に作用するとした双方の報告があり議論が分かれている。また, Syk阻害薬についてはプロテインキナーゼが高い構造的相同性を有しているため本来とは異なる標的分子に作用するoff-target効果が考えられる。そこで, 本研究ではSykが動脈硬化に及ぼす影響を検討するにあたり, Syk遺伝子欠失マウスを用いてSyk遺伝子欠失マウスによる動脈硬化抑制, マクロファージにおける細胞運動性, 泡沫細胞化やコレステロール結晶形成, IL-1β産生に注目して検討した。

(方法)
1. Sykflox/floxRosa26CreER(T2)+/+LDLR-/-マウスを作製し, 生後7-8週でtamoxifen4 mg3日間連続経口投与を行いSyk遺伝子を欠失させた。その後, 生後8週より高脂肪食を16週間投与することで動脈硬化を惹起し, 生後24週でマウスを心臓および大動脈を摘出した。心臓については凍結切片を作製, 大動脈洞における動脈硬化病変の体積を算出した。大動脈に関しては, 大動脈起始部から腎動脈分岐部までの動脈硬化病変の面積を求めた。これらに関して, Syk+/+群, Syk+/del群, Sykdel/del群で比較した。また, 生後24週における体重および脂質プロファイルについても同様に比較を行った。
2. 骨髄由来マクロファージ(BMDM)の細胞運動性をWound scratch assayを用いて細胞フリーゾーンに浸潤した細胞数および細胞の移動距離を測定しSyk+/+群およびSykdel/del群で比較した。
3. BMDMのケモカイン依存遊走への影響をTranswell migration assayを用いてCCL2刺激下においてSyk+/+群およびSykdel/del群で比較した。
4. Syk+/+群およびSykdel/del群BMDMを酸化LDL50µg/ml投与下で24時間培養後, Oil red O染色を施行し泡沫細胞化の割合を算出, またNile red染色後にフローサイトメーターで平均蛍光強度を測定することで取り込まれた脂質を算出し, 比較した。
5. Syk+/+群およびSykdel/del群由来BMDMを酸化LDL50µg/ml投与下で1, 3, 14日培養し, 偏光顕微鏡により細胞内コレステロール結晶形成を観察, 比較した。
6. Syk+/+群およびSykdel/del群BMDMを酸化LDL, LPS, コレステロール結晶, ATP, Nigericinで刺激し, 培養上清中のIL-1βおよびTNF-αをELISAで測定した。
7. Syk+/+群およびSykdel/del群BMDMをLPSで刺激後のpro-IL-1βの発現をRT-PCR, 細胞溶解液中pro-IL-1βの発現をELISAで測定し比較した。
8. Syk+/+群, Syk+/del群およびSykdel/del群のマウス腹腔内にコレステロール結晶2mg投与し, 6時間後に腹腔内に浸潤した好中球および炎症性単球+腹腔内マクロファージをフローサイトメーターで測定, 比較した。

(結果)
1. Syk遺伝子欠失による動脈硬化惹起LDLR-/-マウスにおける動脈硬化の抑制効果
 Syk遺伝子欠失は体重や血清脂質値に影響を与えず, 大動脈洞および大動脈における動脈硬化病変を抑制した。
2. Syk遺伝子欠失によるマクロファージの細胞運動性への影響
 細胞フリーゾーンに浸潤した細胞数および細胞の移動距離は共にSykdel/del群で有意に低下していた。
3. Syk遺伝子欠失によるマクロファージのケモカイン依存遊走への影響
 CCL2 100ng/mlで刺激3時間後に移動した細胞数を測定したところ, Sykdel/del群で有意に減少していた。
4. Syk遺伝子欠失による酸化LDLの貪食に対する影響
 Syk+/+群とSykdel/del群で泡沫細胞化に有意な差はみられなかったが, 取り込まれた脂質量はSykdel/del群で低下していた。
5. Syk遺伝子欠失の細胞内コレステロール結晶形成に対する影響
 Syk+/+群とSykdel/del群で細胞内コレステロール結晶の形成に有意な差は認めなかった。
6. Syk遺伝子欠失によるBMDMにおけるIL-1β産生への影響
 IL-1β産生はSignal1およびSignal2と呼ばれる2種の刺激によって制御されている。Signal1はLPS等によりTLR4等の受容体を介してNF-κBが活性化され, IL-1βの前駆体であるpro-IL-1βやNLRP3の産生を促す刺激である。Signal2はコレステロール結晶, ATP, Nigericin等によってNLRP3インフラマソームの活性化が起こりpro-IL-1βをIL-1βへと変換する刺激である。LPS1, 10, 100ng/mlで24時間刺激した後, 酸化LDLで6時間, さらにATPで1時間刺激を加えたところ, 培養上清でIL-1βの産生を認めた。同条件でSyk+/+群およびSykdel/del群を比較したところ, 予想と反してSykdel/del群でIL-1β産生が有意に上昇していた。さらに, LPS20ng/mlおよびコレステロール結晶またはATP, Nigericinで刺激したところ, 同様にSykdel/del群でIL-1β産生が有意に上昇していた。LPS刺激, NF-κB活性化により産生されるTNF-αについても同様にSykdel/del群で有意に上昇していた。
7. Syk遺伝子欠失によるBMDMにおけるpro-IL-1β産生への影響
 LPS刺激のみでIL-1β産生が認められ, かつSignal2として強力な刺激であるATPやNigericinでも同様に差がみられたことから, SykがSignal1に影響していると考え, LPS20ng/ml刺激後に, pro-IL-1βの遺伝子発現および細胞溶解液中タンパク量を評価したところ, いずれもSyk遺伝子欠失群で有意に上昇していた。
8. Syk遺伝子欠失マウスにおけるコレステロール結晶腹腔内投与による炎症細胞浸潤への影響
 好中球数はSykdel/del群で増加傾向はみられるものの有意な差はみられなかったが, 炎症性単球+腹腔内マクロファージに関してはSykdel/del群において有意な増加がみられた。

(考察)
 本研究において, Syk遺伝子欠失により大動脈洞と大動脈壁における動脈硬化抑制が認められた。またその機序として, Syk遺伝子欠失マクロファージにおける細胞運動性低下および酸化LDL貪食の低下が示された。一方で, Syk阻害薬を用いた多くの既報と異なりSyk遺伝子欠失マクロファージのIL-1β産生については抑制されず, むしろ促進する可能性が示された。細胞運動性, 酸化LDL貪食, IL-β産生などの動脈硬化に関与する機能の変化においてSykがどのように作用しているかについては今後さらなる検討を要する。

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