Terahertz electric-field drive of Weyl fermions
概要
最近、物質中の電子が光電場によってコヒーレントに駆動されることで起こる光電場駆動現象が報告されるようになった。光電場駆動は非平衡状態特有の物質相や機能性を発現させることから注目を集めている。しかし、通常の物質の電子散乱時間は10fsオーダーと非常に早く、電子散乱が光と電子のコヒーレンス性を乱すため、固体での光電場駆動現象を観測するのは非常に困難であった。そこで、本研究では電子散乱時間が数百fs-数psと比較的長いワイル半金属を用いることで、THz周波数帯での光電場駆動現象の観測を試みた。また、THz周波数帯はワイルフェルミオンの線形分散の低エネルギー領域と対応しているため、THz電場で駆動することで非平衡下でのワイルフェルミオンの性質を観測ができると考えられる。
本研究ではワイルフェルミオンのテラヘルツ電場駆動現象を観測するために強磁性ワイル半金属Co3Sn2S2での高強度THzポンプ/THz反射プローブ分光の測定を行った。その結果、THz電場はモノサイクルのAC電場に関わらず、高強度電場下でDC電流が発生した。これはTHz電場によるコヒーレントな加速によるものであると考えられる。またDC電流の電場強度依存性などから光電場によるLandau-Zener遷移が起きていると考えられる。よってワイルフェルミオンをTHz電場駆動することでオームの法則には従わない非断熱かつコヒーレントなDC電流の発生が見いだされた。
このDC電流はTHz電場の偏光に対して垂直な方向にも発生した。これは非断熱なDC電流の発生に伴う非断熱異常Hall効果であると考えられる。この垂直方向のDC成分は、THz電場の強度の3乗に比例しており、高強度THz電場によってワイルノードが変調された可能性を示唆する。さらに、第2次高調波発生(SHG)も観測され、高強度THz電場による空間反転対称性の破れを示唆している。
以上のように、本研究ではワイルフェルミオンの線形分散のエネルギー領域に対応する高強度のTHz電場を用いることで、ワイル半金属の新たな非平衡/非断熱な現象として、光電場(AC電場)による非断熱DC電流の発生と、非断熱なDC電流の発生に伴う非平衡状態での異常Hall効果を初めて観測した。これらの現象はスピン・運動量ロッキングによる長い緩和時間や線形分散による極めて小さな有効質量、Berry曲率ダイポールによる内部磁場の発生といったワイル半金属の特殊な性質が起因したものであり、高強度THzによる非平衡下でのワイルフェルミオン特有の現象といえる。さらに高強度のTHz電場によって系の空間反転対象性が破れている証拠も観測された。以上の結果は、高強度のTHz電場によるワイル半金属のトポロジカル制御の可能性に繋がる成果と考えられる。