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大学・研究所にある論文を検索できる 「草津白根火山の完新世噴火履歴の高分解能復元」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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草津白根火山の完新世噴火履歴の高分解能復元

亀谷 伸子 富山大学

2021.03.23

概要

小規模な噴火は,影響が及ぶ範囲は限定的であるものの,火口近傍では甚大な災害要因となり得る.近年では,御嶽山 2014 年噴火や草津白根山 2018 年噴火など,一般に小規模とされる水蒸気噴火による人的被害が発生している.マグマの噴出を伴わない水蒸気噴火は予測が困難とされているため,火口近傍の精密な観測だけでなく,小規模噴火を含む詳細な活動履歴(火口位置の推移,噴火の規模等)を明らかにすることが重要である.また,火山防災や長期のインフラ整備などを行うためには高精度な噴火履歴調査が必要となるが,分布が火口近傍に限られるような小規模噴火の堆積物に関する調査・研究手法を確立することも課題となっている.

本論は,草津白根火山(群馬県)を研究対象とし,テフラの詳細な地質調査と物質科学的解析から,最近約 1 万年間の噴火履歴を構成火山体レベルで明らかにするものである.草津白根火山は,有史以降,水蒸気噴火(火山爆発指数 VEI=1~2)を繰り返している白根火砕丘群と,その南方約 2 km に隣接する本白根火砕丘群からなり,これらの間には逢ノ峰火砕丘と弓池マールという小規模な火山体も存在している.本論は,噴出物の物質科学的解析から,これらの火山体の詳細な活動履歴,すなわち,いつ,どのような噴火によりこれらの火砕丘やマールが形成されたのか,最後のマグマ噴火がいつ起きたのか,近年の水蒸気噴火卓越期がいつ始まったのかを検討する.また,草津白根火山の事例をもとに,水蒸気噴火を頻発する熱水系卓越火山が形成されるマグマ―熱水系進化モデルを示す.

第 1 章では,小~中規模な噴火,特に水蒸気噴火に関する研究の意義と研究史および草津白根火山の研究史をまとめ,本論の着想に至った背景と研究目的を述べる.

第 2 章では,研究手法について記載する.本研究では,第 3 噴火期(約 16,000 年前以降)の噴出物を採取した.各火砕丘・マールを構成する溶岩・火砕物につ いては,岩石記載,全岩化学組成分析,斑晶鉱物化学組成分析,石基ガラス化学 組成分析,苦鉄質斑晶鉱物の希ガス同位体組成分析をおこなった.山麓テフラは,自然露頭調査,手掘りおよび重機を使ったトレンチ調査をおこなった.各テフラ については構成物組成分析,全岩化学組成分析,鉱物化学組成・石基ガラス化学 組成分析,熱水変質鉱物の同定をおこなった.また,噴火の年代を明らかにする ため,多数の放射性炭素年代測定を実施した.

第 3 章では,白根火砕丘群構成物,本白根火砕丘群構成物,逢ノ峰火砕堆積物および弓池火砕堆積物の岩石学的特徴について,岩石記載,全岩化学組成,鉱物化学組成,希ガス同位体組成のデータを基に議論する.これらの噴出物は類似した安山岩~デイサイト組成であるが,斑晶鉱物の組合せに違いが見られ,一部の岩石は黒雲母と角閃石の有無で区別される.全岩化学組成は,白根火砕丘群は噴出物ごとに,本白根火砕丘群は火砕丘ごとに固有の組成範囲および組成変化傾向をもつ.全岩および鉱物化学組成からは定常的なデイサイトマグマ溜りに噴火ごとに組成の異なる苦鉄質マグマが注入・混合することにより各火砕丘が形成されたこと,希ガス同位体組成からは噴火に寄与したマグマが脱ガスし,現在の噴気の揮発性成分供給源となっている可能性が示唆される.

第 4 章では,山麓テフラの層序を確立し,物質科学的解析から各テフラを堆積させた噴火様式と給源火砕丘の特定をおこない,完新世の噴火履歴を検討する.水蒸気噴火のテフラは層相が酷似しており層序対比が困難であるが,熱水変質鉱物の石英とクリストバライトの存在度に注目し,テフラの給源を特定する際の指標とした.マグマ噴火のテフラは,第 3 章の各火山体の岩石学的特徴とテフラの岩石学的特徴を比較することにより給源を特定した.物質科学的解析と年代測定を総合し,以下のような噴火履歴が明らかとなった.白根火砕丘群は約 16,000 年前以降から約 5,900 年前以降の熊倉軽石噴火までマグマ噴火を断続的に発生し,それ以降は現在まで水蒸気噴火を繰り返している.本白根火砕丘群の古本白根火砕丘は約 10,400 年前以降,鏡池火砕丘は約 4,800 年前,鏡池北火砕丘は約 1,300~1,500 年前以降にマグマ噴火により形成され,鏡池火砕丘は約 2,000 年前以降に水蒸気噴火を複数回発生している.

第 5 章では,白根火砕丘群における 3 地点での重機トレンチ調査と物質科学的解析により白根火砕丘群南麓の弓池マールおよび小火口列(白根南火口列)の活動史を検討する.トレンチにおける特徴的な堆積物は,下位より変質岩塊を伴う白色粘土質テフラ層,火山岩塊に富む火砕サージ堆積物,火砕物脈とその付随テフラである.噴出物の産状記載と物質科学的解析から,それぞれ白根火砕丘群湯釜火口起源のテフラ,弓池マール起源のテフラ,白根南火口列活動時の火道とテフラであることが明らかとなった.約 7,000 年前以降に草津白根火山における最大級の水蒸気噴火が湯釜火口で発生し,約 1,400 年前に現在の弓池マールの位置でマグマ水蒸気噴火が発生し,約 1,000 年前以降に白根南火口列で水蒸気噴火が発生した.弓池マールにおける噴火が草津白根火山における最新のマグマ噴火である.

第 6 章では,2018 年に本白根火砕丘群北部の鏡池北火砕丘周辺で発生した水蒸気噴火の噴出量計算,噴出物の記載と物質科学的解析をおこない,噴出量,噴火の推移および本白根火砕丘群の熱水系の特徴を議論する.区間積分法で噴出量を計算した結果,3.4 万トン(VEI=1)という値が得られ,2018 年噴火が有史以降に発生した草津白根火山の水蒸気噴火と同程度の規模であることが明らかとなった.また,火口近傍に堆積した噴出物について物質科学的解析を行い, 2018 年噴火が 2 つのフェーズ,すなわち,噴火開始時に表層の火砕丘構成物を破壊することで火口を開いた初期フェーズと,より深部の熱水変質帯由来の変質鉱物を大量に放出した主フェーズからなることが明らかとなった.

第 7 章では,第 1 章から第 6 章までをまとめ,完新世の噴火活動場と噴火様式の時空間的変遷について述べる.本研究により,草津白根火山では,各火砕丘がマグマ噴火を終了してから水蒸気噴火が卓越し始めるまでには約 1,000~ 3,000 年間程度のタイムギャップがあることが明らかとなった.このタイムギャップは,上昇率が低下し噴火能力を失ったマグマが熱および揮発性成分を供給することで地下浅所に熱水系・熱水変質帯を数千年間かけて成熟させ,水蒸気噴火を繰り返す熱水系卓越火山が形成されるというモデルで説明できる.

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