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大学・研究所にある論文を検索できる 「姶良カルデラ火山のマグマ供給系進化に関する岩石学的および地球化学的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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姶良カルデラ火山のマグマ供給系進化に関する岩石学的および地球化学的研究

西原, 歩 神戸大学

2022.09.25

概要

数100km3以上の珪長質マグマを噴出する超巨大噴火は,最も破壊的な地質現象の1つである.超巨大噴火は数千年に1度程度の低頻度でしか発生しないため,超巨大噴火の推移や発生メカニズム,噴出するマグマの形成過程や蓄積深度などを理解するためには,過去に発生した事例を対象とした研究が重要であるまた,超巨大噴火の給源付近には100krn2を超える大規模なカルデラ地形が形成されることから,「supervolcano」や「カルデラ火山」と呼ばれるカルデラ火山では数十万年以上にわたり火山活動が認めれられる例が多いが,その活動のほとんどは超巨大噴火ではない火山活動である.また,それらの活動で噴出するマグマの組成も玄武岩質から流紋岩質まで多岐に渡る.したがって,カルデラ火山におけるマグマの生成過程を理解するためには,多様な規模の活動で噴出する幅広い組成のマグマがどのように生成されるのか,また超巨大噴火とそれ以外の時期でマグマ供給系が変化しているのかという長期間のマグマ供給系進化を明らかにすることが重要であるカルデラ火山のマグマ供給系進化を明らかにするために,本研究では九州南部に位置する姶良カルデラ火山の直近10万年間の噴出物を対象とした研究を実施した.姶良カルデラ火山では3万年前に超巨大噴火が発生しており,超巨大噴火に先行して2回の大規模噴火(福山噴火:9万年前,岩戸噴火:5万年前)や小~中規模の爆発的噴火,安山岩~流紋岩質溶岩の噴出などが発生したことが明らかになっているまた,超巨大噴火後はカルデラ南縁で安山岩~デイサイト質マグマを噴出する桜島火山の,カルデラ北東部で流紋岩質マグマを噴出する若尊火山の活動が発生している.このように多様な規模の噴火活動や幅広い組成を持つ噴出物が直近10万年間の姶良カルデラ火山の活動で認められることから,姶良カルデラ火山はカルデラ火山のマグマ供給系進化を明らかにする上で重要な研究対象であると考えられる以上のことから,本研究は姶良カルデラ火山における直近10万年間の噴出物を主な解析対象として岩石学的および地球化学的研究を実施することで,姶良カルデラ火山のマグマ供給系進化を明らかにすることを目的とした

本論文は5章から成る.第1章は,カルデラ火山におけるマグマ供給系モデルおよび本研究が対象とする姶良カルデラ火山の岩石学的・地球化学的先行研究のレビューを実施した.カルデラ火山においてマグマの発生から噴出までに地殻内で発生する複雑なマグマ形成過程を読み解く上で斜長石斑晶の局所領域に記録された化学組成.Sr同位体比が有効な手段であることを取りまとめ,噴出物の全岩Sr同位体比の幅が大きく,カルデラ火山に特徴的な活動が多く認められる姶良カルデラ火山を対象としてカルデラ火山のマグマ進化過程を解明する意義をまとめた.

第2章,第3章では,マグマ供給系進化を明らかにする上での基礎的かつ重要な情報である噴火史の再検討や噴出物の全岩化学組成について,地質学的および岩石学的研究を実施した第2章では,姶良カルデラ火山における現在の活動中心である桜島火山の噴火史および噴出物体積の再検討を実施した新たに実施した野外調査における地質学的記載と併せて過去40年間以上に渡り実施された自然科学研究および遺跡発掘調査において記載される桜島噴出物の地質情報をコンパイルすることで桜島火山の大規模噴火噴出物の分布を高精度に復元することができた.復元した噴出物分布をもとに各噴火の噴出量を定量的に再解析した結果,桜島火山の軽石噴出量は従来の推定値の約8割程度であることが明らかになったまた,溶岩の推定噴出星を加味したマグマ噴出量の時間変化を推定した結果,桜島火山の活動は13-8千年前の新期北岳期前半とAD764年以降の新期南岳期の活動において高い噴出率を示すことが明らかになった

第3章は,姶良カルデラ北東部で新たに発見した3層のスコリア層の記載を実施するとともにスコリアとして噴出したマグマが姶良カルデラ火山の活動においてどのような位置づけであるかを明らかにした新たに発見されたスコリア層(敷根スコリア)は姶良カルデラ北東部の限られた地域に分布することから姶良カルデラ火山起源の噴出物であると考えられ,下位から顛にSkS-I,II,IIIと命名した.既知の噴出物との層位関係から3層のスコリアは8.5-5万年前の噴出物であると考えられ,姶良カルデラ火山の既知噴出物である敷根安山岩溶岩(約6万年前)の噴出と同時期の活動による堆積物であると考えられる本質物の全岩化学組成はSkS-Iが~56Si02wt.%,SkS-IIが~59Si02wt.%,SkS-IIIが~54Si02wt.%と各層で異なるが,rhyolite-MELTS(Gualda et al., 2012)を用いた解析により,これらの成因は敷根安山岩溶岩からの分化を考えることで説明できることが明らかになったまた,敷根安山岩溶岩(6万年前),岩戸噴火(5万年前),超巨大噴火(3万年前)に噴出した苦鉄質マグマは,恥0やRbなどの液相濃集元素に富むトレンドを形成するこれらの結果は,超巨大噴火における苦鉄質マグマの形成が少なくとも噴火の3万年前から始まっていたことを示唆する

第4章は,本論文の主テーマである姶良カルデラ火山のマグマ供給系進化に関する岩石学的および地球化学的研究である.姶良カルデラ火山における過去10万年間の噴出物を対象に,微量元素およびSr-Nd-Pb同位体比の全岩組成分析,および斜長石斑晶の微小領域における元素組成とSr同位体比の分析を行い,先研究のデータのコンパイルを行い,姶良カルデラ火山のマグマとその供給系の進化について,以下の重要な結論を得た.

(1)姶良カルデラ火山のマグマの起源物質は,苦鉄質角閃岩の下部地殻(87Sr/B6Sr~0.7055),浅部地殻の堆積岩(B7Sr/86Sr>0.709; Hosonoetal., 2003),マントル(B7Sr/86Sr~0.7045),トーナル岩質と推定される中間組成上部地殻(87Sr/B6Sr~0.7050-55)の4種類である.姶良カルデラ火山のマグマ組成の多様性は,これらの4つの起源物質とし,マグマ生成時の部分溶紬度の変化,生じたマグマの混合および結晶分化により生じている

(2)マグマの生成過程は時間とともに以下のように変化した.
(2-1)10万年前から3万年前の超巨大噴火以前では,デイサイト~流紋岩質マグマと玄武岩質安山岩~安山岩質マグマが活動した.玄武岩質安山岩~安山岩質マグマは,高溶融度で下部地殻(苦鉄質角閃岩)が部分溶融して生じた苦鉄質マグマを主とし,それが上昇分離して浅部に上昇した後に浅部地殻を同化混合しつつ結晶化が進行することにより形成した.一方,デイサイト~流紋岩質マグマは,苦鉄質マグマと同一の起源物質である下部地殻が低溶融度で部分溶融してできた珪長質マグマを主とし,それに少鼠の苦鉄質マグマが混合して形成した.

(2-2)3万年前の超巨大噴火では,安山岩質マグマと流紋岩質マグマが活動した.安山岩質マグマは,超巨大噴火前の活動における玄武岩質安山岩~安山岩質マグマと岩石学的,地球化学的性質が同じであり,同じ生成過程によるものである.一方,流紋岩質マグマは,超巨大噴火前の活動におけるものと同じ流紋岩質マグマに,安山岩質マグマが混合し,さらに結晶化が進行することにより生成したものである.

(2-3)3万年前から現在までは,桜島火山のデイサイト質マグマ,カルデラ北東部の海底火山である若尊火山の流紋岩質マグマが活動した.桜島火山のデイサイト質マグマは,下部地殻(苦鉄質角閃岩)と上部地殻(中間組成トーナル岩)の部分溶融で生じた珪長質マグマとマントル起源の玄武岩質マグマが混合して形成したものである.これに対して,若尊火山の流紋岩質マグマは10-3万年前に形成された安山岩質マグマが分化することにより生成したものである

以上のように,超巨大噴火に至るまでには,10万年前から主たるマグマの生成過程,すなわち“下部地殻の部分溶融度の違いによる苦鉄質および珪長質マグマの生成”という過程は変化していない.このマグマ生成過程は,近隣のカルデラ火山(阿蘇:Kanekoetal.,2015;鬼界:西村,2019MS)で提唱されている超巨大噴火のマグマ生成過程と基本的に同じであり,カルデラ火山の普遍的なマグマ生成過程であるということができる.一方で,姶良カルデラ火山では阿蘇・鬼界カルデラ火山では報告されていない’'浅部地殻を同化した苦鉄質マグマ”の存在が示された.超巨大噴火後は大きくマグマ供給系の性質が変わり,マントル由来および前とは異なる地殻物質の関与によるマグマ供給が起こるようになった.姶良カルデラ火山10万年以降の活動において,時間とともにマグマの成因の変化はあるが,下部地殻溶融による珪長質マグマは全ての時代で関与しており,カルデラ火山で常に生産される重要なマグマであるかもしれない.これらの結論は,カルデラ火山における普遍的なマグマ供給系過程の理解に向けた璽要な知見の蓄積である.

第5章では,本研究の結論を述べた.

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