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大学・研究所にある論文を検索できる 「Functional Lactotrophs in Induced Adenohypophysis Differentiated From Human iPS Cells」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Functional Lactotrophs in Induced Adenohypophysis Differentiated From Human iPS Cells

三宅, 菜月 名古屋大学

2023.01.24

概要

【緒言】
プロラクチン(Prolactin: PRL)は乳汁分泌に関与するホルモンで、主に下垂体前葉で産生、分泌される。高 PRL 血症は無月経や不妊症の原因となり、また低 PRL 血症は稀であるものの、産後の乳汁分泌不全の報告例がある。近年、再生医療に関する研究が著しい進歩を遂げており、これまでにマウス ES 細胞(Embryonic Stem Cell)やヒトES 細胞、iPS 細胞(Induced Pluripotent Stem Cell)から視床下部や下垂体細胞の分化誘導法が報告されてきた。これらの先行研究では副腎皮質刺激ホルモン(adenocorticotropichormone: ACTH)や成長ホルモン(growth hormone: GH)分泌細胞の機能評価が行われていたが、PRL 産生細胞に関しては十分に評価されてこなかった。本研究では、無血清凝集浮遊培養法を用いてヒト iPS 細胞から分化させた下垂体オルガノイド中の PRL 産生細胞の形態学的および機能的評価を行った。

【対象及び方法】
既存の視床下部・下垂体分化法(the serum-free floating culture of embryoid-like aggregates with quick reaggregation method: SFEBq 法)を用いてヒト iPS 細胞(201B7 株)を分化させ、分化の過程を蛍光免疫染色で評価し、PRL 分泌を蛍光免疫染色および免疫電子顕微鏡法にて確認した。また、電気化学発光免疫測定法にて培養上清中の PRL 濃度を測定し、長期培養による分泌量の変化および、PRL 分化に影響を与えるブロモクリプチン、プロラクチン分泌促進ペプチド(prolactin releasing peptide-31: PrRP 31)、血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal peptide: VIP)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone: TRH)に対する反応を評価した。

【結果】
既報に従い、ヒト iPS 細胞を分化させ、視床下部と下垂体を含むオルガノイドを作成した(Fig. 1A)。培養 50 日を超えると、オルガノイドの表層に下垂体原基のマーカーである POU1F1 と GATA2 の発現を認めた(Fig. 1B)。培養 93 日には PRL 陽性細胞が出現した(Fig. 1C)。以上により、既報と同様の下垂体分化が再現され、PRL 産生細胞の存在が示された。ヒト iPS 細胞由来の下垂体オルガノイドでは、GH と PRL は共発現せず、異なる細胞で産生されていた(Fig. 1D)。免疫電子顕微鏡法では、ACTH 産生細胞と異なる細胞で PRL が産生され、細胞質には PRL 分泌顆粒が多数含まれていた(Fig. 1E, F)。
PRL 陽性細胞を経時的に蛍光免疫染色で観察すると、PRL 陽性細胞は培養 81 日では少数であったが、93 日、145 日と培養期間が長くなるにつれ増加した(Fig. 2A-C)。
また、培養上清中の PRL 濃度は培養 81 日から 111 日にかけて有意に上昇した(Fig. 2D)。ヒト iPS 細胞由来 PRL 産生細胞の機能を評価するため、PRL 分泌に影響を与える薬剤を添加し、培養上清中 PRL 濃度の変化を調べた。PRL 濃度はブロモクリプチンによって有意に低下し、PrRP31、VIP、TRH の添加によって有意に上昇した(Fig. 3A)。上記より、ヒト iPS 細胞由来 PRL 産生細胞は PRL 分泌促進刺激および分泌抑制刺激に対して生体内と同様の反応を示すことが分かった。さらに、オルガノイド中央の視床下部組織には tyrosine hydroxylase(TH)陽性ニューロンが存在し、PRL 産生細胞への接続が示唆された。

【考察】
我々は SFEBq 法によってヒト iPS 細胞から機能的な PRL 産生細胞を分化させた。
本研究の特筆すべき点は以下の通りである。第一に本研究で分化させた下垂体オルガノイドは PRL 分泌細胞を成熟させるためにマウスなどの動物に移植するなどの in vivoのプロセスを必要とせず、in vitro の培養のみで PRL 分泌能を獲得した。第二に、オルガノイドは in vitro の培養のみで長期間維持することが可能であった。第三に、ヒトiPS 細胞由来 PRL 産生細胞は PRL 分泌に影響を与える物質に対して生体内と同様の反応を示した。PRL 分泌細胞のヒト細胞モデルの報告は少なく、報告例は下垂体腺腫由来であるのに対し、本モデルは正常下垂体を再現しており、本研究で示された PRL産生細胞は初の非腫瘍性人 PRL 分泌細胞モデルであるといえる。
PRL の分泌制御機構は他の下垂体ホルモンとは異なり、ドパミンによって抑制性に調節されておりネガティブフィードバック機構が存在していない。バソプレシン、オキシトシン、ドパミンなど、様々な物質が PRL 分泌に影響を与えることが分かっているが、その機序は十分には解明されていない。本モデルはその調整機序の解明に有用であると考えられる。また、本モデルでは下垂体に隣接して細胞塊内部に視床下部組織が分化していることから、視床下部を介した PRL 分泌の制御機序の解明に有用であるのに加え、下垂体のみを単離することで視床下部を介さない制御機序の解明にも役立つ可能性がある。
また、高 PRL 血症は不妊症の主要な原因の一つであり、種々の薬剤の副作用で引き起こされるが、本モデルを用いて新規薬剤開発の際に副作用としての高 PRL 血症が起こるか否かの評価に用いることができると考える。
さらに、多発性内分泌腺腫症 1 型(Multiple Endocrine Neoplasia type 1: MEN1)における下垂体腺腫ではプロラクチノーマの頻度が最も高い。すでに MEN1 患者の疾患特異的 iPS 細胞が樹立されており、この iPS 細胞を用いて本分化誘導法で下垂体を分化させ、長期培養することでプロラクチノーマの発生を再現でき、腫瘍化メカニズムの解明に役立てられると考えられる。
最後に本モデルを再生医療へ応用できる可能性もある。低 PRL 血症は稀ではあるものの、乳汁分泌不全以外に免疫系や恒常性の維持にも影響することが報告されている。現在、再生医療として ACTH および GH 産生細胞の下垂体機能不全患者への臨床応用が開発されつつあり、この技術を用いて、ヒト iPS 細胞由来 PRL 産生細胞の再生医療の実現も期待される。

【結語】
本研究では、ヒト iPS 細胞から PRL 産生細胞を分化させ、分化した PRL 産生細胞は PRL 分泌促進刺激および抑制刺激に対して生体内と同様の反応を示した。ヒト iPS細胞由来 PRL 分泌細胞を用いることで、今後 PRL 産生細胞の未知の機能を探求しうる。

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