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インスリン抵抗症の臨床的特徴:日本における全国調査

Takeuchi, Takehito 神戸大学

2020.03.25

概要

【目的/背景】
インスリン抵抗症は、インスリン受容体(INSR)遺伝子変異が原因となる A 型とインスリン受容体に対する自己抗体が原因となるB 型に分類される。A 型インスリン抵抗症では、INSR 遺伝子変異により、インスリン受容体以降のシグナル伝達が阻害され、インスリン抵抗性をきたす。Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群も同様に、インスリン受容体遺伝子の異常が原因となるが、A 型インスリン抵抗症より重症となる。B 型インスリン抵抗症では、インスリン受容体抗体は、インスリンの受容体への結合を阻害し、インスリン抵抗性をきたすが、低血糖発作を起こす症例もある。また本疾患は様々な自己免疫疾患を併存する。B 型インスリン抵抗症の治療法は確立していないが、免疫抑制剤や免疫グロブリン、血漿交換など免疫学的な介入が多い。しかし症例報告が多いにも関わらず、インスリン抵抗症の疫学調査は行われていない。さらに A 型インスリン抵抗症に類似した表現型をもつが、INSR 遺伝子変異をもたない症例も報告されている。一部の症例にはインスリン受容体より下流の遺伝的シグナル異常が報告されているが、そうした症例は少ない。また B 型インスリン抵抗症においては、疾患頻度や性差、発症年齢のピーク、低血糖頻度や自己免疫疾患の割合、効果的な治療などの疫学的な情報が乏しい。そこで我々はインスリン抵抗症の特徴を解析するため、日本におけるこれらの疾患の全国調査を行った。

【方法】
我々は、2010 年 12 月から 2014 年 12 月までの A 型インスリン抵抗症・B 型インスリン抵抗症・Rabson-Mendenhall 症候群・Donohue 症候群の診療経験を問うアンケートを、2014年 11 月に日本糖尿病学会の評議員もしくは認定施設責任医師 1063 名、2016 年 1 月には 300 床以上の小児・新生児科のある医療機関に所属する小児科医 894 名の計 1957 名に送付し、診療経験のあった医師には、症例の詳細を問うアンケートを送付した。疾患の定義は以下の通りとした。自己免疫や肥満などの原因がないにも関わらずインスリン抵抗性があり、INSR 遺伝子変異を有する症例を、A 型インスリン抵抗症と確定診断された症例(確定診断例)と、A 型インスリン抵抗症が示唆される臨床および検査所見を呈するが遺伝子検査を行っていない症例を、A 型インスリン抵抗症が疑われる症例(疑い症例)と定義した。Rabson-Mendenhall 症候群・Donohue 症候群も同様に INSR 遺伝子の解析の有無に従い、確定診断例と疑い症例を定義した。本報告において、Rabson-Mendenhall 症候群と Donohue 症候群は、症例の特徴が非常に類似していることから、両者を合わせて扱うこととした。高血糖もしくは低血糖、あるいはその両方を伴う、インスリン受容体抗体が陽性の症例を B 型インスリン抵抗症と定義した。なお A 型インスリン抵抗症の表現型を呈し、遺伝子解析の結果 INSR 遺伝子異常を認めなかった症例をX 型インスリン抵抗症と定義した。本調査から脂肪萎縮症・脂肪萎縮性糖尿病は除外した。遺伝子解析は、調査対象医師より遺伝子解析の希望があった場合、A 型インスリン抵抗症疑い症例には INSR 遺伝子の全 22exon、X 型インスリン抵抗症の症例には PIK3R1 遺伝子の全 16exon に対し、サンガーシークエンス法を用いて行った。

【結果】
我々は 904 名から回答を得、遺伝子解析希望例に遺伝子解析を行ったところ、A 型インスリン抵抗症 23 例(確定診断例 19 例、疑い症例 4 例)であった。診断時年齢は 17.6±13.8 歳で、HbA1c は 8.0±2.6%であり、診断時空腹時 IRI は、132.0±112.4μU/ml であった。糖尿病に対して主にインスリン・メトホルミンで治療されていた。確定診断例 19 例のうち、 INSR 遺伝子について、16 例で単一の heterozygous 変異、1 例で homozygous 変異、1 例で複数の heterozygous 変異を認めた。Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群は 10 例(確定診断例 8 例、疑い症例 2 例)の情報が得られた。診断年齢は全例 1 歳未満で、HbA1c は 8.7 ± 3.0%、診断時空腹時 IRI は 2895.5±3181.5μU/ml であった。4 名が出生後 3 年以内に死亡していた。糖尿病に対して主にインスリン・IGF-1 製剤で治療されていた。確定診断例 8 例のうち、INSR 遺伝子について、1 例で単一の heterozygous 変異、1 例で homozygous 変異、6 例で複数のheterozygous 変異を認めた。X 型インスリン抵抗症は 8 例認められ、診断時年齢は 13.4±1.7 歳で、HbA1c は 7.8±0.8%であった。また診断時空腹時IRI は、145.0±141.4 μU/ml であった。糖尿病に対して主にメトホルミンで治療されていた。8 例中 5 例で、SHORT 症候群の原因遺伝子である、PIK3R1 遺伝子の変異を認め、そのうち 4 例で同遺伝子の Arg649Trp 変異を認めた。4 例中 2 例は親子例で、全例に特徴的顔貌を認めた。B 型インスリン抵抗症は 30 例の情報が得られ、診断時年齢は 59.6±16.5 歳と他の病型と比較して高齢で、HbA1c は 8.2±2.5%であり、診断時空腹時 IRI は 1122.1±3292.5μU/ml であった。30 例中 18 例で低血糖を認めた。また 17 例で自己免疫疾患を併存しており、SLE が最も多かった。自己免疫疾患の治療は 14 例で免疫抑制療法を行われており、糖尿病に対する治療はインスリン治療が最も多かった。身体所見については、黒色表皮腫と多毛症は A 型インスリン抵抗症や Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群で多く認められたが、B 型インスリン抵抗症では比較的少なかった。また皮下脂肪萎縮や特徴的顔貌は Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群で、そのほかの病型に比べ多く認められた。特徴的顔貌を認めた X 型インスリン抵抗症患者は全例 PIK3R1 遺伝子変異を有していた。診断の契機として、Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群では低出生体重が、A 型インスリ
ン抵抗症では学校検尿が最も多かった。一方 B 型インスリン抵抗症では高血糖や低血糖が診断の契機であった。

【考察/結論】
我々は A 型および B 型インスリン抵抗症・Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群について本邦における全国調査を行った。これらの疾患における同様の調査は、世界的にこれまで行われておらず、本調査が初めてのものである。INSR 遺伝子変異が同定できた症例について、A 型インスリン抵抗症の 84.2%が単一の heterozygous 変異を有し、Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群では 87.5% が複数の heterozygous 変異もしくは単一の homozygous 変異を有していた。より重篤な経過をたどる Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群では INSR 遺伝子の両アリルの異常による場合が多いとされており、本調査では 10 例で両アリルの異常を認めた(3 例:A 型インスリン抵抗症、7 例:Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群)。診断時の空腹時IRI は、Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群が最も高く、次に B 型で高かった。A 型および X 型では同程度の高インスリン血症を認めた。A 型インスリン抵抗症例の 96.3%と X 型インスリン抵抗症例で、空腹時IRI が 30μU/ml 以上であった。A 型インスリン抵抗症をきたすが、INSR 遺伝子変異を認めない症例では、インスリン受容体より下流のシグナル伝達異常の存在が示唆され、Akt2 や TBC1D4、PIK3R1 の遺伝子変異がこれまで報告されている。本調査研究では、X 型インスリン抵抗症症例 8 例のうち 5 例で PIK3R1 遺伝子変異を認めており、インスリン受容体より下流のシグナル遺伝子異常が示唆される症例において、最も多い遺伝子変異である可能性がある。本調査では B 型インスリン抵抗症において、60%の症例に低血糖を認めた。B 型インスリン抵抗症の症例には低血糖によって死亡した症例もある。本調査では全体の 23%で低血糖が診断の契機となっており、低血糖を見逃さないことが重要である。また診断年齢のピークが 60 歳代にあることから、成人で発症する疾患であること、既報では女性が多いとされているのに対し、本調査結果で男女比が 19/11 例であることは、男女比が大きくないことが示唆される。治療法として免疫抑制療法が多かったが、併存する自己免疫疾患に対する治療によって本疾患も改善しており、本疾患においては併存する自己免疫疾患の診断・治療が重要である。本研究の限界として、アンケートを基にした調査であるため、ある程度情報に正確でない部分があること、特に治療の効果が正確に推定できていないことがある。加えて、INSR および PIK3R1 遺伝子の解析において、サンガーシークエンスのみ行っているため、長い欠失を含む遺伝子異常を同定できていない可能性もある。さらに、本検討における A 型インスリン抵抗症および Rabson-Mendenhall/Donohue 症候群例には疑い症例も含まれており、実臨床では診断に際し、必ずしも遺伝子解析が行われていないことが示唆された。今回行った本邦初の全国調査により、インスリン抵抗症の疫学的に詳細な情報が収集でき、インスリン抵抗症の診療にとって有益な情報となった。

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