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大学・研究所にある論文を検索できる 「重症インスリン抵抗症におけるPIK3R1変異の同定とNa+/グルコース共役輸送担体2阻害薬を用いた治療効果の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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重症インスリン抵抗症におけるPIK3R1変異の同定とNa+/グルコース共役輸送担体2阻害薬を用いた治療効果の検討

浜口, 哲矢 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
インスリン抵抗症は、インスリン受容体遺伝子(INSR)変異によってシグナル障害が生じる A 型とインスリン受容体抗体がインスリンの受容体への結合を阻害するB 型に分類される。さらに A 型インスリン抵抗症(A 型)に類似した表現型をもつが、INSR 変異をもたない症例も存在することが知られている。そのような INSR 異常がない症例では、ファチジルイノシトール 3 キナーゼ調節サブユニット(p85a)、Akt2 をコードする遺伝子など、インスリン作用に関連する遺伝子の変異が原因となることが近年報告されている。p85a 遺伝子(PIK3R1)の変異は、重度のインスリン抵抗性を引き起こし、低身長や関節の過伸展、 Rieger 奇形として知られている前眼部の形成異常、特徴的な顔貌(三角形の顔、突出した額、小さな顎、眼球陥凹)などの身体的症状を引き起こす。SHORT 症候群は、低身長、関節の過伸展、鼠径ヘルニア、眼球陥凹、Rieger 奇形、歯牙萌出遅延を特徴とし、この症状を持つ個人において 2013 年に PIK3R1 変異が初めて確認された。以後、これらの症候と PIK3R1 の変異を持つ家族が 30 例以上報告されているが、ほとんどが白人例であり、アジア人での報告はなかった。インスリン抵抗症では多量のインスリンを用いても治療困難な場合があり、重症例では IGF-1 治療も行われることがあるが、治療が難しい場合もある。我々は 16 歳時に糖尿病と診断され、21 歳時にインスリン治療が開始されたインスリン抵抗症と考えられる症例を診療してきた。BMI 低値にも関わらずインスリン抵抗性が強く、特徴的顔貌や黒色表皮腫の合併からインスリン抵抗症が疑われたが、インスリン受容体遺伝子異常やインスリン受容体抗体は認められなかった。その後、児を出生したところ、低体重で特徴的な身体所見に加え高インスリン血症が認められた。新生突然変異によってインスリン抵抗症を発症し、その児に遺伝したと考えられ、インスリン抵抗症家系の遺伝子解析を行うこととした。

【症例】
発端者は 30 代後半の日本人女性で、妊娠 36 週で出生体重 1800g と早産、低出生体重で生まれ、21 歳時に糖尿病に対してインスリン治療が開始された。原因不明の重度のインスリン抵抗性を認め、1 日 200 単位以上のインスリンを投与していたことから、遺伝的な原因が考えられた。身長 143cm、体重 38kg、BMI 18.6kg/m2 であり腹部 MRI で評価した内臓脂肪面積は 57cm2、皮下脂肪面積は 95cm2 であり、非肥満で若年の正常耐糖能者と同程度であった。また三角形の顔、前額の突出、小顎、大きく低位にある耳を認めたが、関節過伸展や Rieger 奇形は認めなかった。妊娠 34 週で 1794g の体重で生まれた児は、小顎で、大きく低位にある耳、多毛、眼球陥凹を有しており、また血清インスリン濃度は高く、インスリン抵抗性の存在が示唆された。児以外の家族にインスリン抵抗性の糖尿病や同様の身体的特徴が見られないことから、発端者の症候は、新生突然変異によって引き起こされたものであり、その変異が児に遺伝したものと考えられた。そこで、原因遺伝子を明らかにするために発端者と発端者の両親、および児のエクソーム解析を行った。

【方法】
発端者と発端者の両親、および児に採血を行い、市販の DNA 抽出キット (FlexiGene DNA Kit、QIAGEN) を用いてゲノム DNA 抽出を行った。エクソーム解析は、常法に従い解析した。候補遺伝子の絞り込みについては、得られたバリアントのうち信頼性の低いもの(DP<8、GQ<20)を除外した後に、対照である Exome Aggregation Consortium のデータと比較して対立遺伝子頻度が 0.0001 未満と頻度の低いものを抽出し、そのうちヘテロ接合型でかつ新生突然変異のものを抽出した。これらのバリアントのうち、児も持っているバリアントを抽出し、このバリアントの中でアミノ酸配列の変化を伴っているものを抽出した後に、蛋白質機能解析ソフト(SHIFT、polyphen-2)で有害と判断されるものを抽出した。

【結果】
エクソーム解析の結果、250999 個のバリアントが得られた。そのうち信頼性の低いもの 138975 個を除外し、残ったバリアントのうち、対照である Exome Aggregation Consortiumのデータと比較して、対立遺伝子頻度が 0.0001 未満の バリアントを抽出したところ 45762個あった。そのうち、ヘテロ接合型でかつ新生突然変異のものは 219 個あり、これら 219個のバリアントのうち児にも認められるものは 38 個あった。さらに 38 個のバリアントのうちアミノ酸配列の変化を伴っているものは5個あり、そのうち蛋白質機能変化が予想されるものは PIK3R1 変異(c.1945C>T)だけであった。この変異は海外の SHORT 症候群の患者で確認されていた変異と同一の変異であった。

【治療効果の検討】
発端者は 20 代後半に1日 200 単位以上のインスリンを注射していた。経口薬としてはメトホルミンを最大量内服しており、 Na+/グルコース共役輸送担体 2(SGLT-2)阻害薬の投与を開始するまでは、メトホルミン 1日 2250mg と 約 80 単位のインスリンを投与していたが、ヘモグロビン A1c(HbA1c)は 7.0%以下にはならなかった。SGLT-2 阻害薬は、腎臓の近位尿細管でのグルコースの再吸収を抑え、尿からグルコースを排出することで血糖を降下させるという、インスリンの作用とは独立したメカニズムで血糖を降下させることから、この薬剤がインスリン抵抗症の血糖に有益な効果をもたらすのではないかと考えた。そこで、ダパグリフロジンを 1 日 5mg 開始したところ、3 か月後に HbA1c は 7.5%から 6.5%に低下し、インスリン投与量は1日約 50 単位にまで減少した。ダパグリフロジン投与開始から 5 か月後に、感冒のため一過性の HbA1c の上昇がみられたが、14 か月後の HbA1c は 6.6%、インスリン投与量は1日 50 単位であった。ダパグリフロジンの投与により、体重は 2〜3kg 減少したが、これは 2 型糖尿病患者と同程度であった。ダパグリフロジン投与中に血清中の総ケトン体濃度は上昇せず、低血糖や尿路・性器感染、多尿、口渇などの症状は認めなかった。

【考察】
我々は日本人で初めて PIK3R1 の変異によるインスリン抵抗症を確認した。この散発性インスリン抵抗症は、発端者からその児に遺伝し、エクソーム解析により原因となる遺伝子変異を特定することができた。発端者とその児の特徴的な顔貌は、既報の PIK3R1 変異がある人の顔貌と類似していた。この症例から、本症候群を疑う上で、人種を問わず、顔貌を認識することの重要性が明らかとなった。また、日本人において、INSR 異常を認めないインスリン抵抗症の報告は以前から存在しており、これら原因不明のインスリン抵抗症の鑑別診断において、PIK3R1 変異を含む必要がある事も明らかとなった。

本症例の検討から、SGLT-2 阻害薬は、重度のインスリン抵抗症に対する治療法の選択肢となる可能性が示唆された。高インスリン血症は動脈硬化の進展と関連しており、また発癌との関連も知られているが、SGTLT-2 阻害薬によりインスリン必要量が減少することが明らかとなり、これらのリスクを減少させる可能性が示唆された。SGLT-2 阻害薬によるケトアシドーシスを防ぐためには、インスリン作用が十分であることが必要であり、本症例のような痩せ型に対して SGLT-2 阻害薬を使用する場合には、インスリンが十分に補充されているかどうかを評価することが重要である。今回の症例では、治療中に血清ケトン体の増加は認められず、安全に使用することが可能であることが示唆された。

遺伝性の重度のインスリン抵抗症におけるSGLT-2 阻害薬の臨床的有用性を確認するためには、さらなる研究が必要である。

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