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大学・研究所にある論文を検索できる 「酸化ストレスによる転写因子 HOXB13 の発現誘導機構とその毒性学的意義」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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酸化ストレスによる転写因子 HOXB13 の発現誘導機構とその毒性学的意義

遠藤 直紀 東北大学

2021.03.25

概要

肺は空気中から得た酸素を体内に取り込み、老廃物である二酸化炭素を空気中に排出する役割を担う脊柱動物の器官である。肺の構造は細気管支1本から、数本の肺胞道が分岐し、その先端は数個の小部屋のような構造をした肺胞が袋状の肺胞嚢を形成している。肺胞は広い表面積を確保し、酸素および二酸化炭素の交換を効率良く行う一方で、常に高濃度の酸素の暴露、呼吸時に大気中の汚染物質に曝されることによる活性酸素種(ROS)を介した傷害を受けやすい。近年、肺で生じる活性酸素種の慢性的な暴露と間質性肺炎との関連が報告されている。とりわけ、難治疾患に指定されている特発性肺線維症(IPF)の成因においては、DNAの酸化的傷害や酸化ストレスの蓄積によるミトコンドリア機能低下を伴う細胞増殖の阻害が一つの要因となる可能性が報告された。

我々は生体防御薬学分野研究室において、メチル水銀感受性に関わるヒト遺伝子の探索から、HOXB13 の発現抑制がメチル水銀による細胞毒性に耐性を与えることを見出した。また、 HEK293 細胞を用いた検討において、HOXB13 はメチル水銀による毒性機序において、炎症性サイトカインの 1種である oncostatin M (OSM)を転写誘導し、OSM が TNFR3 を介してオートクライン 、パラクライン に細胞毒性を増強することを報告した。 OSMTNFR3 を介したメチル水銀による 細胞死の誘導機構は TNFR3 siRNA を用いた検討から、少なくともミトコンドリア 傷害を介する可能性を示唆する結果が得られている。一方、我々は以前の研究において、過酸化水素やチオール反応性求電子剤による細胞死に HOXB13 が関与していることを報告した。この知見から、HOXB13 は酸化ストレスによって引き起こされる細胞毒性の増強因子として役割を担う可能性を有している。そこで、私は本研究において、酸化ストレスによる細胞毒性増強作用における HOXB13 の役割について研究を行った。

本研究では、ヒト肺胞基底上皮腺癌由来 A549 細胞株を用いて酸化ストレスによる細胞死誘導における HOXB13 の作用機構について検討した。まず、酸化ストレス誘導剤(tert-ブチルヒドロペルオキシド 、ピオシアニン、過酸化水素)が HOXB13 の発現量に及ぼす影響を調べたところ、いずれの処理においても HOXB13 mRNA および蛋白質の量が増加し、これらの増加は転写阻害剤や抗酸化剤の前処理によってほとんど認められなくなった。 また、DNA 傷害を誘発する抗癌剤(Camptothecin、Cisplatin、Adriamycin)においても酸化ストレス誘導剤都同様に HOXB13 mRNA および蛋白質の量が誘導されたが、この作用は抗酸化剤の前処理による抑制が認められなかった 。一方で、小胞体ストレスを誘導する tunicamycin による細胞死に HOXB13 は関与しないことが示唆された。これらの結果から、酸化ストレス誘導剤によるHOXB13 の発現誘導は DNA 傷害の対する細胞死誘導に関与する可能性が推察された。

そこで、HOXB13 発現誘導機構を解明するため 、過酸化水素を HOXB13 の誘導剤として用いて HOXB13 遺伝子のプロモーター解析を行った。その結果、転写開始点から上流-250 bp〜-500 bp の領域が過酸化水素による HOXB13mRNA 量の増加に必要であることが判明した。本領域に結合する可能性のある転写因子として Sp1 および HIF-1α が見出され、Sp1 発現抑制細胞では過酸化水素による HOXB13 蛋白質レベルの増加がほとんど認められなかった。また、Sp1 発現抑制は細胞に過酸化水素 による毒性誘導に耐性を与えたが、本作用は HOXB13 の発現を抑制することによって消失した。さらに、過酸化水素処理によって Sp1 の活性化(リン酸化)および HOXB13 遺伝子プロモーターへの結合が増加した。Sp1 のリン酸化に関わり、DNA 損傷におり活性化するATMキナーゼリン酸化、あるいはDNA損傷の修復に関与するH2AX のリン酸化が過酸化水素処理によって増加したが、本因子の発現抑制によって過酸化水素による Sp1 のリン酸化および HOXB13 量の増加がほとんど認められなくなった。 また、過酸化水素による ATM キナーゼのリン酸化に続く一連の反応は抗酸化剤により消失した。以上のことから、過酸化水素は DNA 傷害を誘発することで ATM/Sp1 の活性化を介して HOXB13 の発現を誘導していることが示された。

次に HOXB13 高発現プラスミドを作製し、HOXB13 による細胞毒性誘導機構について検討したところ、HOXB13 を高発現させるだけで、細胞死が誘導されたことから、発現誘導された HOXB13 が細胞死誘導に関与している可能性が示唆された。

上述した HOXB13 高発現による細胞死誘導は抗酸化剤の存在下では ほとんど認められず、その高発現細胞では活性酸素種の量が増加していた。また、細胞膜透過性を有する PEG-catalase の処理でも HOXB13 高発現による細胞死誘導が抑制された ことから、過酸化水素の除去に関わる catalase およびglutathione peroxide 1 の mRNA 量を調べたが、少なくとも HOXB13 高発現による当該遺伝子の発現レベルの減少は認められなかった。一方で、HOXB13高発現により NADPH oxidase 1 (NOX1)の発現誘導が認められ た。その誘導について DNA-protein binding 法にて検討したところ、HOXB13 は NOX1 のプロモーター領域-1000~-1 に結合することが示唆された。また、NOX1 の発現抑制により、HOXB13 高発現に因る細胞毒性誘導作用が抑制した。これらの検討から、HOXB13 は NOX1 の誘導を介し、細胞内 ROS レベルの上昇を誘導している可能性が示唆された。そこで、HOXB13 によって誘導される細胞死の様式について 検討した。HOXB13 高発現細胞についてアポトーシスおよびネクロトーシスに関わる蛋白質レベルの変化について Immunoblot 法にて検討したところ、アポトーシスシグナル因子である caspase-3 の活性化が認められ、ミトコンドリア外膜の膜透過性亢進を介しアポトーシスを誘導する Bax 蛋白質レベルの上昇、アポトーシス抑制に関与する Bcl-2 蛋白質レベルの減少、および caspase-9の活性化が示唆された。また、HOXB13 高発現細胞に caspase 阻害剤であるZVAD を処理、あるいは HOXB13 高発現細胞の NOX1 を発現抑制することで、細胞毒性の抑制を示し、さらに NOX1 の発現抑制により活性型 caspase3 蛋白質レベルが抑制された。一方、ネクロトーシスについて、RIPK3 の基質となる MLKL 蛋白質レベルに変化は見られず、また、ネクロトーシス阻害剤 necrostatin-1 処理による細胞毒性の抑制は認められなかったことから、少なくともネクロトーシスの寄与は低いと考えられる。以上の結果から、HOXB13 による細胞死誘導は NOX1 の誘導およびミトコンドリアの機能低下を伴うアポトーシスシグナルの活性化が関与することが示唆された。本研究は、メチル水銀により誘導される細胞毒性における HOXB13 の作用機序とは異なり、酸化ストレスにより惹起された DNA 傷害、あるいは直接的な DNA 傷害の誘導を介した細胞死誘導において、HOXB13 が関与する全くの新規メカニズムを示唆した 。最近の臨床研究において、肝臓の線維症における炎症性変化の重症度と HOXB13 の発現レベルとの相関を示唆する知、あるいは細胞老化の進展にホメオドメイン蛋白質の関与を示唆する知見が報告されている。酸化ストレスに起因する DNA 傷害、あるいはミトコンドリア機能低下の関与はこれらの疾患におけるトリガーとして指摘されている。本研究で得た知見は間質性肺炎などの線維化進展を伴う難治疾患における分子メカニズムの理解、あるいは新規ターゲットとして 治療法の開発への活用が期待される。

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