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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性腎臓病と糖尿病合併における酸化ストレスの血管石灰化への影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性腎臓病と糖尿病合併における酸化ストレスの血管石灰化への影響

Watanabe, Shuhei 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
 慢性腎臓病(CKD)において血管石灰化は心血管疾患(CVD)の発症に関わる重要な合併症である。 CKD は血管石灰化のリスク因子であることが知られているが、糖尿病(DM)もまた血管石灰化に関わる重要な病態である。さらに CKD とDM の合併患者では、それぞれの単独病態と比較し CVD発生率ならびに死亡率は高いことが知られている。このように CKD と DM の合併下における血管石灰化の発症、進展機序を解明することは重要と考えられるが、その詳細な病態機序について不明な点が多く残されている。
 酸化ストレスはCKD の進行と伴に増悪し、CVD 発症のリスク因子となることが知られている。過去に我々はCKD モデルラット、DM モデルラットを用い酸化ストレスが種々の臓器障害に関与することを報告した。
 本研究では CKD と DM の合併モデルラットを作成し、CKD と DM 合併下における血管石灰化の病態機序について酸化ストレスの観点から評価を行った。

【方法】
動物
 雄性 Sprague Dawley ラットをⅰ)コントロール群 (n=6) ⅱ)5/6 腎摘を行う群(CKD 群、n=6) ⅲ)ストレプトゾトシン(STZ)を投与する群(DM 群、n=6) ⅳ)5/6 腎摘後に STZ 投与を行う群(CKD+DM 群、n=6) ⅴ)CKD+DM 群に対しインスリン治療を行った群(CKD+DM+INS 群、 n=6) ⅵ)CKD+DM 群に対し NADPH オキシダーゼを阻害し抗酸化作用を有するアポシニンを経口投与した群(CKD+DM+APO 群、n=6)の 6 群に群分けした。全ての群に 2.0%高リン食負荷を行い 8 週後に血液、尿、大動脈を採取した。

血管石灰化の評価
 腹部大動脈下部を用いカルシウム含有量を測定した。胸部大動脈を用い von Kossa 染色を行い、その陽性面積を測定した。腹部大動脈上部を用い骨芽細胞分化マーカーである Runt-related transcription factor 2(RUNX2)、Alkaline phosphatase (ALP)の mRNA の発現をリアルタイム PCR で評価した。抗RUNX2 抗体を用い大動脈の免疫組織染色を行った。

酸化ストレスの評価
 尿中 8-OHdG 排泄を測定した。NADPH オキシダーゼ 4(NOX4)、NADPH p22 phox の大動脈における mRNA の発現をリアルタイムPCR で評価した。抗 8-OHdG 抗体を用い大動脈の免疫組織染色を行った。

統計学的評価
 各群の比較は一元配置分析の後、Tukey-Kramer 法を用いて行った。ピアソンの相関係数、スピアマンの順位相関係数のいずれかを用い相関関係を評価した。p <0.05 を統計学的に有意とした。

【結果】
動物背景
 クレアチニンクリアランスはコントロール群、DM 群と比較し CKD 群、CKD+DM 群、 CKD+DM+INS 群、CKD+DM+APO 群で有意に低値を認めた。血糖値、ならびに HbA1c 値はコントロール群、CKD 群、CKD+DM+INS 群と比較し DM 群、CKD+DM 群、CKD+DM+APO 群で有意に高値を認めた。

血管石灰化
 von Kossa 染色陽性面積、大動脈カルシウム含有量は CKD+DM 群でコントロール群、DM 群、 CKD 群と比較し有意に上上を認め、CKD+DM 群と比較し CKD+DM+INS 群、CKD+DM+APO群で有意に低下を認めた。

酸化ストレス
 尿中 8-OHdG 排泄はコントロール群、CKD 群、DM 群と比較し CKD+DM 群で有意に上上を認め、CKD+DM 群と比較し CKD+DM+INS 群、CKD+DM+APO 群で有意に低下を認めた。大動脈における 8-OHdG 陽性細胞数はコントロール群と比較しCKD 群と DM 群で有意に上上し、 CKD+DM 群ではこれらの群と比較しさらなる上上を認めた。CKD+DM+INS 群、CKD+DM+APO群では CKD+DM 群と比較し有意に発現低下を認めた。NADPH オキシダーゼの mRNA の発現は CKD+DM 群でコントロール群、CKD 群、DM 群より有意に上上し、CKD+DM+INS 群、 CKD+DM+APO 群ではCKD+DM 群と比較し有意に低下を認めた。

骨芽細胞分化マーカー
 ALP の mRNA の発現はコントロール群、DM 群、CKD 群と比較しCKD+DM 群で有意に上上し、CKD+DM+INS 群、CKD+DM+APO 群では CKD+DM 群と比較し有意に低下を認めた。 RUNX2 陽性細胞数は CKD+DM 群でコントロール群、DM 群、CKD 群と比較し有意に上上し、 CKD+DM+INS 群、CKD+DM+APO 群ではCKD+DM 群と比較し有意に低下を認めた。

酸化ストレスと骨芽細胞分化マーカー、血管石灰化との関係
 尿中 8-OHdG 排泄は、RUNX2 の mRNA 発現、RUNX2 陽性細胞数、大動脈カルシウム含有量とそれぞれ有意な正相関を認めた。

【考察】
 CKD ならびに DM は血管石灰化の進展において重要な役割を果たすが、CKD と DM の合併が血管石灰化に及ぼす影響についての検討はほとんどない。かつて我々は CKD stage4-5 の患者を対象とした観察研究で糖尿病合併例は有意に腹部大動脈の石灰化が高度であることを報告した。また血液透析患者において血管石灰化の程度と HbA1c の値が関連することが報告されており、 CKD 患者においても DM の合併が血管石灰化に重要な影響を及ぼすと考えられる。
 CKD と DM における血管石灰化の発症・進展の機序は複雑であり、様々な因子がその病態生理に関与する。その中で本研究では酸化ストレスに着目した。NADPH オキシダーゼは酸化ストレスの生成に関わり、種々の臓器障害の進展に関与する。過去に我々は糖尿病モデルラットでは血管組織におけるNADPH オキシダーゼの mRNA の発現は上上することを報告した。また CKD モデルラットでも大動脈の NADPH オキシダーゼの mRNA 発現ならびに尿中 8-OHdG 排泄は上上を示し、尿中 8-OHdG と血管石灰化の程度が有意な正相関を示したことが報告されている。本研究ではCKD+DM 群においてNADPH オキシダーゼの mRNA の発現ならびに尿中 8-OHdG 排泄は CKD 群、DM 群より有意に高値を示した。血液透析患者を対象とした臨床研究において糖尿病の合併により酸化ストレスマーカーは上上することが報告されている。また健常人を対象とした報告では NADPH オキシダーゼにより産生された酸化ストレス物質が血管石灰化の程度と関連することが示されている。これらの報告から CKD と DM の合併により上上した酸化ストレスが血管石灰化の進展に関与する可能性が示唆された。
 血管石灰化の進展機序として酸化ストレスが血管平滑筋に及ぼす作用が重要と考えられる。酸化ストレスは、血管平滑筋細胞において AKT シグナルを介し、骨芽細胞への分化マーカーの発現を誘導し石灰化を引き起こし、血管平滑筋マーカーを低下させることが報告されている。本研究においても CKD+DM 群で ALP、RUNX2 が高値を示しており、酸化ストレスによる血管平滑筋の骨芽細胞への形質転換から血管石灰化の増悪を来した可能性が考えられた。
 血管石灰化の予防は CVD 発症や生命予後を改善する可能性がある。透析患者において抗酸化剤であるアセチルシステインの投与によりプラセボ群と比較し CVD 発症が有意に抑制されたことが報告されている。本研究ではアポシニンの投与により CKD と DM の合併下において酸化ストレスの低下、血管石灰化の抑制が認められた。今回の結果より CKD と DM の合併下において、抗酸化剤は血管石灰化の抑制に有用である可能性があるが、臨床的な効果についてはさらなる検討が必要である。

【結論】
 CKD と DM の合併下では酸化ストレスの増加が血管石灰化進展の一因となり、抗酸化剤による治療は血管石灰化の進展を予防する可能性が示唆された。

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