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大学・研究所にある論文を検索できる 「尿路上皮癌における免疫微小環境の意義」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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尿路上皮癌における免疫微小環境の意義

美山, 優 東京大学 DOI:10.15083/0002002341

2021.10.13

概要

生体の免疫機構が腫瘍の進展に関与することは様々な癌種で言われており、腫瘍の免疫微小環境は予後予測因子のほか、治療の標的ともなっており、その意義は大きい。尿路上皮癌における免疫療法の歴史は古く、ハイリスクの非筋層浸潤性膀胱癌に対するBCG膀胱内注入療法は現在でも標準治療である。近年では、抗PD-1/PD-L1阻害薬が国内外で承認され、脚光を浴びているが、奏効率は決して高くなく、治療予測因子としてのバイオマーカーが模索されている。そこで私は、尿路上皮癌における免疫微小環境の意義を研究のテーマとした。第2章では、上部尿路上皮癌の臨床検体を用いて炎症細胞浸潤やPD-1/PD-L1発現を免疫組織化学的に解析し、予後との関連や臨床病理学的意義について調べた。1990年から2017年の間に上部尿路上皮癌に対して行われた腎尿管全摘術の検体271症例のホルマリン固定パラフィン標本を用い、腫瘍中心部(T-core)と辺縁部(P-core)から組織マイクロアレイを作成した。各炎症細胞のマーカー(CD204、CD68、FoxP3、CD3、CD4、CD8、CD45RO、CD66b、CD20、S100)とPD-L1、PD-1、E-cadherin、CD44、CK5/6の発現を確認するため、組織マイクロアレイを用いて免疫組織化学染色を行った。各種炎症細胞マーカーの発現については画像解析ソフトを用いて定量的に解析し、解析した面積に占める炎症細胞マーカーの陽性面積密度(%)を算出した。その他の分子の発現については2名の病理医が目視で評価した。腫瘍PD-L1発現やE-cadherin、CD44、CK5/6の発現は、腫瘍全体に占める陽性細胞の割合(%)を示し、腫瘍PD-L1発現はT-coreあるいはP-coreいずれかが発現率5%以上の場合を陽性とした。間質PD-L1発現は腫瘍とその周囲間質を含めた部分を腫瘍領域とし、腫瘍領域に占めるPD-L1発現のある炎症細胞の面積和の割合(%)を示し、T-coreかP-coreいずれかが5%以上の場合を陽性とした。PD-1発現は、腫瘍領域に占める発現細胞数の程度でScore 0からScore 3(0:発現細胞なし、1:発現細胞軽度、2:発現細胞中等度、3:発現細胞高度)までの4段階で評価した。また、whole slide標本を用いて腫瘍の組織型や深達度、脈管侵襲、共存する上皮内癌の存在、リンパ節転移、腫瘍浸潤リンパ球といった病理学的評価についても目視で評価した。

 すべての炎症細胞マーカー、PD-L1、PD-1、E-cadherin、CD44、CK5/6において、T-coreとP-coreの発現率は中等度~高い正の相関を示した。画像解析により算出した炎症細胞マーカーの陽性面積密度の中央値を基準に多い群と少ない群で分け生存時間分析を行ったところ、マクロファージや制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、活性化したT細胞の浸潤が多い群では無転移生存期間と全生存期間が有意に短かった。Cox回帰モデルを用いた全生存期間の多変量解析では、腫瘍関連マクロファージの浸潤が多いことが独立した予後不良因子であった。腫瘍PD-L1発現が5%以上を陽性と評価したところ、陽性は31例(11%)であった。腫瘍PD-L1発現は間質PD-L1発現と正に相関しているほか、マクロファージや各種T細胞、樹状細胞の浸潤と正に相関していた。また、同一症例においてT-coreとP-coreで腫瘍PD-L1発現率に差がみられたものは31例中29例(94%)で、このうちP-coreで発現率が高かったのは20例(69%)、T-coreで発現率が高かったのは9例(31%)であり、腫瘍辺縁部でPD-L1発現がみられやすい傾向があった。さらに、同一症例内においてこれらT-coreとP-coreでPD-L1発現率に差(発現率差は2-63%)がみられた症例は31例中29例あり、腫瘍PD-L1発現が高いコアでは低いコアに比較して、マクロファージ、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、活性化したT細胞の浸潤が有意に多かった。腫瘍PD-L1発現の臨床病理学的意義について検討したところ、腫瘍PD-L1陽性例は扁平上皮亜型、高度の腫瘍浸潤リンパ球、リンパ管侵襲、高い深達度、リンパ節転移陽性と有意に相関した。膀胱癌の分子生物学的サブタイプであるbasal/squamous subtypeのマーカーとされるCD44の発現率は、腫瘍PD-L1陽性例で有意に高かった。生存時間分析では、腫瘍PD-L1陽性例では無転移生存期間と全生存期間が有意に短かった。さらに、血中血小板が宿主の抗腫瘍免疫を抑制することで腫瘍の転移や促進に寄与している可能性が指摘されていることから、腫瘍PD-L1と血小板が交互作用している可能性を推測した。興味深いことに、血小板数の中央値(23.4x 104/µl)を基準に血小板数が高い群と低い群に分けたところ、血小板数が高い群では腫瘍PD-L1陽性例は無転移生存期間と全生存期間が有意に短かった。一方、血小板数が低い群では腫瘍PD-L1発現は予後に影響しなかった。

 第2章の結果から、上部尿路上皮癌ではマクロファージやT細胞浸潤が多いと予後不良であり、なかでも腫瘍関連マクロファージの浸潤は独立した予後不良因子であるため、CD204陽性細胞の浸潤を検討することは臨床的な意義が大きいといえる。また、腫瘍PD-L1発現は進行例、腫瘍浸潤リンパ球が多い症例、basal/squamousサブタイプの症例にみられやすく、陽性例は予後不良であった。さらに、術前の血中血小板数と腫瘍PD-L1発現には強い交互作用がみられたことから、免疫チェックポイント阻害薬を使用する際に、腫瘍PD-L1発現に加え、血小板数を考慮することも重要であり、その予後因子としての意義は今後のさらなる検討が必要である。

 第3章では、血小板が癌細胞に及ぼす影響と、さらには癌細胞に発現するPD-L1との相互作用を確認するため、尿路上皮癌の細胞株9種類と健常人の洗浄血小板を用いた実験を行った。細胞株と血小板を共培養し形態を確認したところ、JONとRT112では胞体が大きくなり突起を伸ばすといった変化がみられた。増殖能に関する検討では、細胞株と血小板を3日間共培養し非共培養群と比較したが、両者における増殖率に大きな差はみられなかった。トランスウェルアッセイによる遊走浸潤能の検討では、血小板共培養群でJON、RT112、T24、JMSU1の移行細胞数が上昇した。スクラッチアッセイによる遊走能の検討では、血小板共培養群でRT112、T24、5637の傷修復率が上昇した。また血小板の活性化の指標として多血小板血漿にそれぞれの細胞株を添加して15分間攪拌し、凝集能を検討したところ、JON、RT112、T24、VMCUB1、J82、5637を添加した多血小板血漿に凝集がみられた。血小板と癌細胞の共培養24時間後に回収したRNAを用いたqRT-PCRによる検討では、JON、T24、RT112、JMSU1、VMCUB1、5637においてN-cadherinといった上皮間葉転換マーカーの発現が増加した。また興味深いことに、J82を除く全ての細胞株でPD-L1発現の増加を認めた。特にこれらの発現変化が大きかったJONで、セルブロックを作成し免疫組織化学的検討を行ったところ、N-cadherin、Vimentin及びPD-L1の発現増加を確認した。また、JON、RT112、T24にsiRNAを導入してPD-L1発現をノックダウンし、PD-L1発現が血小板による浸潤遊走能の影響を変化させるかどうかについても調べた。JONでは、血小板非存在下ではPD-L1発現は遊走浸潤能に影響しないものの、血小板存在下ではPD-L1発現が保たれている群の方が、ノックダウンした群と比較して遊走浸潤能が高く、血小板とPD-L1発現が相乗的に遊走浸潤能を増加させることが明らかとなった。T24では血小板の有無に関わらず、PD-L1のノックダウンにより遊走浸潤能が低下し、PD-L1発現による遊走浸潤能への影響が明らかとなったが、血小板との相乗効果は確認できなかった。RT112では血小板の有無に関わらず、PD-L1発現は遊走浸潤能に影響しなかった。前述のように、JONにおいてPD-L1発現と血小板が相乗的に腫瘍細胞株の遊走浸潤能を獲得させた結果は、第2章での臨床検体を用いた腫瘍PD-L1発現と血小板数の交互作用を裏付けており、今後はどういった機序で相互作用が起きているのかを、動物モデルを用いた研究も含め、検討していきたい。

 今後、尿路上皮癌においてPD-1/PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬がさらに普及していくと思われるが、今回の検討により腫瘍PD-L1発現と血中血小板数を組み合わせることでより優れたバイオマーカーとなることが示唆された。さらに、抗血小板薬との併用により免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めることができる可能性も考えられた。

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