がん抑制遺伝子BRCA2変異体の新規機能解析法の開発

概要

［課程－２］
審査の結果の要旨
氏名 池上 政周

本研究はがん抑制遺伝子であり DNA 二本鎖切断修復能をもつ BRCA2 遺伝子のバリアン
トの機能を明らかにするため、BRCA2 欠損大腸癌細胞株である DLD1 BRCA2 (-/-)に
piggyBac トランスポゾンを用いて BRCA2 バリアントを導入し、poly (ADP-ribose)
polymerase (PARP)阻害薬への薬剤感受性を評価する実験系によって得られた結果に基
づき、ベイズ階層混合正規分布を用いてバリアントの病的意義推定を行う新規機能解
析法の開発を試みたものであり、下記の結果を得ている。
1. DLD1 BRCA2 (-/-)細胞株に piggyBac トランスポゾンを用いて 20 種類の BRCA2 バリ
アントを導入した。1 細胞に平均 10 コピーの cDNA が導入され、mRNA の発現量は生理
的な範囲であった。BRCA2 タンパク発現量にバリアント間でのばらつきはなかった。
BRCA2 変異体を導入した細胞は、そのバリアントの機能に応じて PARP 阻害薬への感受
性が変化した。一度の実験で数百種類のバリアントの機能解析を可能とする実験手法
である MANO-B 法を構築し、全 244 種類の BRCA2 バリアントの機能を解析した。ベイズ
階層混合正規分布モデルを用いて推定したバリアントの機能は、米国臨床遺伝・ゲノ
ム学会のガイドラインに基づき判定した病的意義と一致しており、信頼性がある手法
であることを示した。186 種類の病的意義不明バリアントの機能解析の結果、新たに
良性バリアントを 126 種類、病的バリアントを 37 種類同定した。
2. MANO-B 法の臨床応用例として、新規バリアントに対する迅速な病的意義判定シス
テムである Accurate BRCA Companion Diagnostic(ABCD)テストを構築した。小スケー
ルの実験系で MANO-B 法を行い、既に実施した実験結果とベイズ推定によって結果を統
合する簡便な手法であり、5 週間で病的意義を判定することができた。4 バリアントと
いう限られた数ではあるが、大規模な MANO-B 法での解析と一致する実験結果を得た。
以上、本論文は BRCA2 バリアントの新規機能解析法を開発し、163 種類のバリアント
の病的意義を明らかにした。本研究は BRCA2 に関する遺伝学的検査やクリニカルシー
クエンスに基づく個別化医療の実現に重要な貢献をなすと考えられる。
よって本論文は博士（ 医学 ）の学位請求論文として合格と認められる。

この論文で使われている画像