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大学・研究所にある論文を検索できる 「好中球Protein Kinase R(PKR)を介した腎臓炎症惹起メカニズムの解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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好中球Protein Kinase R(PKR)を介した腎臓炎症惹起メカニズムの解明

井上, 玲子 東京大学 DOI:10.15083/0002005047

2022.06.22

概要

好中球はヒトの末梢血中で最も数の多い白血球であり、細菌などの感染防御機能で重要な役割を果たすのみならず、非感染性の炎症性疾患においてもその病態の形成に寄与していると考えられている。腎疾患においても、溶連菌感染後糸球体腎炎や増殖性ループス腎炎の患者の腎生検組織で糸球体内に好中球が認められ、好中球依存的な動物実験モデルとして抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane, GBM)抗体型腎炎や虚血再灌流障害などが知られている。

 近年、好中球内の様々なリン酸化酵素(キナーゼ)が好中球の活性化に関与していることが明らかになってきている。本研究では、Protein Kinase R(PKR)というキナーゼに着目した。PKRは二本鎖RNAによって活性化するセリン・スレオニンキナーゼで、ウイルスに対する防御機能において重要な役割を果たす分子と考えられている。ウイルスの二本鎖RNAがPKRのRNA結合ドメインに結合すると、構造変化を起こして二量体化し、自己リン酸化する。その後、標的分子である翻訳開始因子2のαサブユニットのリン酸化を介して細胞及びウイルスの翻訳を抑制する。これまでPKRは増殖、分化にも関連すると考えられ癌分野での研究が為されてきたが、分裂促進因子活性化蛋白(mitogen-activated protein, MAP)キナーゼ経路や核内因子ҡB(nuclear factor-kappa B, NFҡB)経路にも関与していることが報告され、神経変性疾患や糖尿病などの代謝性疾患の分野でも研究が進められている。しかし、これまで好中球におけるPKRの役割に関する先行研究はなく、本研究では好中球PKRが炎症性腎疾患において果たす役割を明らかにすることを目的とした。

 まず、PKRがマウス骨髄由来好中球およびヒト由来培養細胞系好中球様細胞HL-60に、タンパク質レベルで発現していることを確認した。また、好中球刺激物質であるN-ホルミルメチオニル-ロイシル-フェニルアラニン(fMLP)によってPKRが活性化されることをウェスタンブロットで確認した。

 好中球は血管内から動員される際、血管内皮上でのローリング、接着、細胞間遊走、組織内遊走の段階を経て、組織内の炎症部位へと浸潤する。フローチャンバーを用いて血流下での内皮細胞への好中球の接着を評価した。PKR阻害薬で前処置した好中球様HL-60細胞は、対照群と比較して内皮細胞への接着が抑制されていた。また、細胞内のアクチン重合をフローサイトメトリーで定量評価したところ、PKRに対するshRNAを発現したHL-60細胞では、fMLP刺激で誘導されるアクチン重合が抑制されていた。PKRはアクチン重合を制御することで、好中球の内皮細胞への接着に関与していると考えられた。

 次に、PKRの好中球の遊走における役割を検証した。2種類のPKR阻害薬で前処置したHL-60細胞では、対照群と比較して走化性物質(fMLP)に対する遊走が抑制されていた。PKRに対するshRNAを発現したHL-60細胞およびPKRのドミナントネガティブ配列を発現したHL-60細胞でも、対照細胞と比較してfMLPや補体C5aに対する遊走が抑制されていた。PKRの酵素活性が好中球の遊走に関与している可能性が示唆された。また、fMLPおよびC5aの刺激で、MAPキナーゼの一種であるp38が活性化されるが、PKRに対するshRNAを発現した細胞ではp38の活性化が亢進していた。一方で、ドミナントネガティブ配列を発現した細胞ではp38活性化の亢進は見られず、PKR抑制によるp38の活性化亢進は、PKRの酵素活性ではなくPKR分子そのものによる効果であると考えられた。p38の阻害薬であるSB202190でHL-60細胞を前処置すると、shRNAを発現した細胞では遊走の抑制がキャンセルされたが、ドミナントネガティブ配列を発現した細胞ではp38阻害薬の効果は見られなかった。PKRが好中球の遊走を制御する分子的機序として、p38を介した経路が部分的に寄与していると考えられた。

 動物実験系では、好中球依存的腎炎モデルとして腎毒性血清(nephrotoxic serum, NTS)腎炎のマウスを用いて、PKR阻害薬の好中球の浸潤に対する効果を検証した。PKR阻害薬投与群では、糸球体における好中球の集積が対照群と比較して有意に抑制されており、アルブミン尿の程度も抑制されていた。さらに、皮下エアーパウチを用いた、tumor necrosis factor(TNF)-α誘導性の好中球集積は、PKR阻害薬投与群で抑制されていた。

 これらの実験結果から、好中球のPKRは好中球の血管内皮細胞への接着および組織内遊走を制御しており、PKRを抑制することで好中球の浸潤を抑制し腎炎の病態を改善することが示された。好中球依存的な炎症性疾患において、PKRは創薬ターゲットとなる可能性を秘めていると考えられた。

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