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コレステロール合成酵素SMの安定性を調節するフィードフォーワード型恒常性維持機構の発見とその解析

吉岡, 広大 東京大学 DOI:10.15083/0002005188

2022.06.22

概要

【序論】
 ネガティブフィードバック機構は生体の恒常性を制御する動作原理であり、生体内のコレステロール合成においてもこの動作原理が作用している。過剰なコレステロールはコレステロール合成酵素群のマスターレギュレーターであるSREBP-2(sterol-regulatory element binding protein-2)の転写を阻害し、コレステロール合成にブレーキをかける。これにより、コレステロール合成量が低下すると、SREBP-2の転写阻害が解除され、コレステロール合成酵素の発現量は定常状態へ戻る。このような転写レベルでのネガティブフィードバック制御に加え、近年では、翻訳後レベルでのネガティブフィードバック制御が存在することも明らかとなっている。一例としてコレステロール合成の律速酵素であるSM(squalene monooxygenase)のステロール依存性分解がある。SMは小胞体膜に局在する膜タンパク質であり、コレステロール合成において、最初の酸化ステップである、スクアレンのオキシドスクアレンへの変換を担う。SMはスクアレンの代謝に関与する触媒ドメイン(SM-ΔN100)と、コレステロール依存的な分解に必要十分なN末端ドメイン(SM-N100)の二つの領域からなる。触媒ドメインであるSM-ΔN100はこれまで結晶構造の報告があるものの、SM-N100は極めて高い疎水性が高く、精製タンパクによる構造解明が困難であり、具体的な構造は未解明である。よってSM-N100の機能や安定性制御に関しては未知の部分が多く、これらの解析にはこれまでとは異なる方面からのアプローチが有用であると考えられた。

【本論】
(1) SMのN末端ドメインはスクアレンにより安定化される
本研究ではSMの安定性を指標としたケミカルジェネティクススクリーニングを行い、ヒット化合物の標的タンパクからSMの安定性制御に重要な因子の同定を目指した。はじめにSMの安定性をモニターするスループットの高い評価系を構築した。SMのC末端にルシフェラーゼを融合した発現ベクターを作成し、その安定発現細胞株を樹立した。得られた細胞に対して、FDA承認薬化合物768種類のスクリーニングを行うことで、SMの安定性を変化させる化合物を得ることに成功した。ヒット化合物として得られたのはSMの阻害剤であった。強力なSM阻害剤はより強い安定化作用を示し、SMの安定化作用はSM自身の阻害を介したオンターゲットな作用であると考えられた(Fig.2)。SM阻害剤によるSMの安定化は阻害剤がSMの触媒ドメインへ結合することによるものと考えることができる。しかし、一方でSMはN末端ドメインにコレステロールにより安定性が制御される領域を有するため、N末端ドメインの寄与を考える必要がある。著者らはSMの二つの部分欠損体を用いた実験から、SM阻害剤による安定化は触媒ドメインの寄与のみならず、N末端ドメインが関与していることを見出した(Fig.3A‒C)。
N末端ドメインの安定性はステロールにより制御されるため、SM阻害剤による、コレステロール合成阻害がN末端ドメインの安定化作用として観測されていると考えた。そこで、他のコレステロール合成経路の阻害剤にもそのような作用が見られるか、確認した。興味深いことに、N末端ドメインの安定化はSM阻害剤に特異的な作用であることが判明した(Fig.4A-B)。この結果からN末端ドメインの安定化はコレステロール合成阻害では説明できないことが判明した。阻害剤処理の結果、起きうる現象として他に考えられることは、標的酵素の基質の蓄積であった。基質が他の酵素によって代謝されない限りは、その蓄積が観測できるはずである。SMの基質であるスクアレンが他の代謝酵素によって、代謝されているといった報告はこれまでにない。著者らはSM阻害の結果、蓄積するスクアレンがSM-N100の安定化に重要であると仮説を立て、検証を続けた。脂質抽出と定量を行い、スクアレンの蓄積量と安定化作用には相関関係が見られることが判明し、さらにSM阻害剤とスクアレン合成酵素の阻害剤を同時に処理することでN末端ドメインの安定化作用はキャンセルされるが、スクアレンを添加することで安定化作用がレスキューされることが判明した(Fig.4C)。これらの結果はスクアレンがN末端ドメインの安定化に重要であるという仮説を支持するものであった。

(2) スクアレンはN末端ドメインに結合する
では、スクアレンはどのようにしてN末端ドメインを安定化するのであろうか。スクアレンやその飽和体であるスクアランのような炭化水素は脂質二重膜の内葉と外葉の間に存在していることが、示唆されている。スクアレンが膜のプロパティを変えることでN末端ドメインの安定性を制御しているのであれば、スクアランもスクアレンと同様の作用を示すと考えられる。しかし、N末端ドメインの安定化作用はスクアレンに特異的な作用であった。そこで、スクアレンは膜への非特異的な作用ではなく、N末端ドメインにリガンドとして結合して、安定化を誘導しているのではないかと仮説を立て、スクアレン結合説を光親和性標識実験により検証することとした。スクアレンに対応する光親和性標識プローブSqBPY-153とスクアランに対応するSqBPY-150は、対応する炭化水素と同様の活性を示した(Fig.5A-B)。さらに、活性の有無とN末端ドメインのラベリングは対応する結果が得られ、SqBPY-153は脂質膜中でN末端ドメインに結合することが示唆された(Fig.5C)。さらにSM阻害剤を処理し、スクアレンが蓄積した状態ではSqBPY-153によるラベリングが競合されたことから、スクアレンがN末端ドメインに結合することが示唆された(Fig.5D)。以上の結果からN末端ドメインはスクアレンによる結合を介して、安定化されることが示された。

【結論】
本研究ではSMの基質であるスクアレンがSMのN末端ドメインへの結合を介して安定化を誘導するという、アロステリックなフィードフォーワード制御を見出すことに成功した。コレステロール合成経路において、基質が代謝酵素への直接結合を介してその安定性を向上させるという知見はこれまでに知られていなかった。本研究の成果はいくつもの制御因子が複雑に絡み合ったコレステロールホメオスタシスを理解する上での重要な発見であることが期待される。
さらに、本研究ではSMのN末端ドメインにリガンドが結合する可能性が示された。SMの安定性をN末端ドメイン結合リガンドによって、制御できるのであれば、N末端ドメインの不安定化誘導化合物は新たなコレステロール合成阻害剤として有望である。現段階で見出しているのは安定化誘導化合物SqBPY-153のみである。構造活性相関研究やスクリーニングにより不安定化誘導化合物を見出せる可能性があり、N末端ドメインの医薬標的としての可能性を検証することができる。

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参考文献

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