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大学・研究所にある論文を検索できる 「BRCA1 転写共役因子MED1の DNA損傷修復機構における機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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BRCA1 転写共役因子MED1の DNA損傷修復機構における機能解析

本城, 晴紀 東京大学 DOI:10.15083/0002005106

2022.06.22

概要

卵巣癌は世界全体で女性が罹患する癌のうち7番目に多く、癌による死因としては8番目である。高齢化に伴い罹患者数は増加することが予想され、世界全体での2018年の卵巣癌発症者数が295,414人、死亡者数が184,799人であったが、2035年には発症者数は371,000人、死亡者数は254,000人に急伸すると予測されている。女性性器悪性腫瘍の中で卵巣癌は最も死亡率が高く予後の悪い疾患である。本邦における卵巣癌の罹患数・年齢調整罹患率・死亡者数・年齢調整死亡率はすべて漸増傾向にある。

 卵巣癌の約15~25%は遺伝性の癌とされており、そのうち50~75%は生殖細胞系列におけるBRCA1/2遺伝子(Breast cancer susceptibility gene 1/2)の異常が関与する常染色体優性遺伝である、遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC: Hereditary breast and ovarian cancer syndrome)である。BRCA1は、放射線や複製ストレスにより生じるDNA二本鎖切断(DSB: Double strand break)の正確な修復を行う相同組換え修復経路(HR: Homologous recombination)を調節する他、細胞周期Checkpointの制御、クロマチン再構成、DNA損傷修復因子のスプライシング、転写副産物R-loop(DNA-RNA hybrid)の処理など広範な機能を担うことでゲノム安定性に寄与する。

 我々のグループでは以前に、相同組み換え修復機序の解明のためsiRNAライブラリを用いた網羅的なスクリーニングを行い、多数のmRNAプロセシング因子を新規のHR経路候補因子として同定した。本研究では、それらの新規候補因子の中で乳癌の発癌機序の関連が示唆されているメディエーター複合体(Mediator complex)の構成因子MED1(Mediator complex subunit 1)に着目し、BRCA1との相互作用、HR経路の制御能、転写副産物R-loopの処理能に関する機能解析を行った。

 まずMED1がHR経路のマスターレギュレーターであるBRCA1と細胞内において相互作用することを免疫沈降法で確認した。さらにMED1が、HBOCで高頻度に変異を認める領域であるBRCA1のBRCT領域(BRCA1 C Terminus domain)とヒト細胞内で複合体を形成することGSTpulldown法にて示した。またルシフェラーゼアッセイによりMED1過剰発現がBRCA1-BRCTの転写活性を正に制御することが確認された。

 続いて細胞周期調節への影響について検討した。FACS(Fluorescence-activated cell sorting)ではMED1をsiRNAでノックダウンした後、Double thymidine blockにて細胞周期をG1/S境界に同調させ、同調解除した細胞でG2/M期停止が生じることが示された。ウエスタンブロッティングではMED1がBRCA1依存性転写産物p21、GADD45αの発現を調節していることが示され、MED1はBRCA1の抗腫瘍的な細胞周期調節機能に寄与する可能性が示唆された。さらにMED1がDSB後の相同組換え修復にもたらす影響について検討した。MED1をsiRNAでノックダウンした細胞ではIR、CDDPの感受性が高まることから、これらの細胞ではHR機構が破綻している可能性が考えられた。MED1をsiRNAでノックダウンした後にHydroxyurea処理を施してDSBを誘導した際の、主要なHR因子のタンパク発現についてウエスタンブロッティングで観察したところ、転写制御を介したATM(Ataxia-telangiectasia mutated)、Chk2(Checkpoint kinase 2)、H2AX(H2A histone family member X)のリン酸化タンパク発現の低下を認めた。免疫染色による検討ではMED1ノックダウンによりDSB部位へのpATM(phosphor-ATM), γH2AX, RPA(Replication protein A)の集積が阻害されており、MED1はATM下流の広範囲に渡ってシグナルを制御しDSB修復に寄与していると考えられた。

 次に相同組換え修復能へ及ぼす影響をDR-GFPアッセイ(Direct-repeat GFP assay)で検討した。BRCA1ノックダウン細胞ではHR活性がコントロールに比して約1/7に、MED1ノックダウン細胞では約1/2に減弱し、MED1がHR活性に寄与する可能性が示された。免疫染色ではMED1ノックダウンによりDNA損傷部位へのRAD51、γH2AX、BRCA1の核内集積減弱が示され、DR-GFPアッセイの結果と符合した。HR経路が破綻している場合の代替修復経路として機能する、NHEJ経路(Non-homologous end-joining)の活性に対してMED1が及ぼす影響についても検討した。EJ5-GFPassayではMED1ノックダウン細胞でC-NHEJ(Canonical/Classical-NHEJ)活性が約1/2に低下していた、ウエスタンブロッティングでの検討ではDNA-PKcs(DNA-dependent protein kinase catalytic subunit)のリン酸化が著しく抑制されており、MED1はDNA損傷を認識するレベルのC-NHEJ上流域の制御に対しても影響を持つ可能性が示唆された。またMED1ノックダウン条件ではPARP1(Poly(ADP-ribose)polymerase1)のリン酸化抑制と、XRCC1(X-Ray Repair Cross Complementing 1)の転写抑制を認め、Alt-NHEJ(Alternative-NHEJ)にも支障をきたす可能性が推察された。以上よりBRCA1非依存性のDNA損傷修復路に関してもMED1はその上流域で寄与する可能性が示唆された。

 DNA損傷レベルの経時的変化に対してMED1が及ぼす影響をコメットアッセイで検討したところ、MED1ノックダウンによりIRによるDNA損傷が遷延することが示され、ウエスタンブロッティングではMED1ノックダウンによりATM、Chk2のリン酸化が遅延・遷延する現象を認めた。

 さらに、MED1がBRCA1のBRCT領域と結合し共役することから、転写副産物R-loopとMED1の関連性を検証した。BRCA1のBRCTドメインは、BRCA1がSenataxinと複合体を形成してR-loop除去を行う領域と推定されている。既知のR-loop分解酵素であるRNaseH1を併用したコメットアッセイでは、MED1ノックダウンにより生じたDNA損傷が、RNaseH1強制発現によりキャンセルされる現象が確認された。さらに免疫染色ではMED1ノックダウンによるR-loop蓄積を認め、MED1がR-loopの処理に寄与する可能性が示唆された。

 最後に、BRCA1機能失活が高頻度で生じる高異型度漿液性癌(HGSOC: High grade serous ovarian carcinoma)におけるR-loop蓄積及びその意義について臨床検体を用いて検討した。細胞及び組織におけるR-loopをS9.6抗体による蛍光免疫染色およびDRIPアッセイ(DNA-RNA hybrid immunoprecipitation)で評価した。培養細胞を用いた蛍光免疫染色、DRIPアッセイでは、BRCA1のノックダウン下で核内R-loopが増加することを示した。続いて次世代シーケンサー解析により既にBRCA1変異プロファイルが判明しているHGSOC臨床検体18例(BRCA1mut. 9例 vs. gBRCA1wt. 9例)を対象として免疫染色を行ない、腫瘍部でのR-loop蓄積を評価した。BRCA1変異陽性群において変異陰性群に比して腫瘍部におけるR-loop蓄積が優位に増加すること、BRCA1変異陽性例で正常卵管上皮から卵管上皮内癌へ移行するにつれてR-loop蓄積が増加することを示した。BRCA1変異キャリアではR-loop漸増が正常卵管上皮からSTIC、HGSOCへの発展過程において生じている可能性が示唆された。

 以上結論として、本研究では、BRCA1のC末端BRCT領域結合タンパクとして転写因子MED1を同定し、MED1が相同組換え修復の制御に寄与することを示した。さらにMED1は転写副産物R-loopの処理を行うことでゲノム恒常性に寄与するBRCA1の新規機能にも関連している可能性が示唆された。MED1は多様な発癌抑制機能をもち、薬剤感受性バイオマーカーや新規治療標的としての可能性を有すると考えられた。また、BRCA1機能失活によるR-loop過剰蓄積が、HGSOCの発癌機序において重要な役割を担う可能性が示唆された。

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