コロナ禍での財産制限にかかわる科学的知見の不定性(コロナ禍社会における法的諸問題(8))
概要
コロナ禍での財産制限にかかわる科学的知見の不定
性(コロナ禍社会における法的諸問題(8))
著者
雑誌名
号
ページ
発行年
URL
本堂 毅
判例時報
2464
118-120
2021-02-01
http://hdl.handle.net/10097/00132132
判例時報
2464号
1
1
9
感染を起こす危険が高いために行われたも
れていない段階であっても、社会全体の利
への壊滅的影響を防ぐため‘ロックダウン び「専門的知見の普遍性と不定性丘広学と
1
けるために、特定の業種に社会全体のため
数がーを越えない「適度な」対策を採り続
。
したがつて、仮
こりうる
感染制御を確実に行うことでロ
。
ックダ ウン 等 を回避する方が、国全体の経
団
済的悪影響をむしろ氏く抑えることになる
科学的
医学的知見も不十分なこのよう
・
場合があるからである。
には、無補償で我慢してもらうべきなのだ
に特別な負担を求める場合、その特定業種
。
.
この問題は、科学 ·科学論研究者で
ろうか、あるいは補償を行うべきなのだろ
うか
ある筆者の専門性を大き<超える規範的
合があることを指摘した
にため池判決が仮定するような確実な科
学
月の段階であ
3
゜
。
。
i
。
。
(8)厚生労働省「新型コロナウィルス
感染症対策専門家会議の見解等
konkyo.
pdf
1
casキgo.
jp/jp/ nfluenza/senmonka
゜
(4)長谷部恭男 1杉
1 田敦「自粛か法規
制か、冷たいようだが:・憲法学者 X
政治学者」朝日新聞 (2O20
年 7月
2日
5)
(5)宍戸常寿「『接待を伴う飲食店』
だけの問題ではないー車韮〗家に聞く‘
ニュース
営業停 止命令の是非」 Yahoo
(2O20
2)
年 9 月 2日
(6)本堂毅「感染症専門家会議の「助
言」は科 学的 ・公平であったか」「世
界」 2O20
年 8 月号 75頁
(7)内閣官房「新型コロナウィルス感
染症対策専門家会議の開催について」
(2O20
年 2 月14日) https://www.
鉛頁
どう扱うか? ー NSW 土地 環境裁判所
長官プレストン判事を迎えてー」判時
2309
号 (2ol6
年)
(2)本堂毅 1尾
1 内隆之
1平
1 田光司
11
中
島貴子編著『科学の不定性と社会|| ー
現代の科学リテラシー』(信山社、 2
ol7
年)
(3)本堂毅「科学者からみた法と法
廷」亀本洋編『現代法の動態 6 法と
科学の交錯』(岩波書店、2ol4 年)
(l)本堂毅 1渡
1 辺千原編「特集シン
ポジウム報告科学の専門知を法廷で
H0
0000の2
助)
成を受けて いる。
究」 (2
文化人類学を例にした科学技術との比較研
の繰り返し等に陥らない対策が重要である
を
益のため「予防的に」 一定業種に自粛を求
過剰に恐れて対策が不足する状況が続け
しかし、経済的影響
のではない。政府や専門家会議がイベン ト
めたり、制限を加えざるをえない場合があ と認識されている
ば、感染再拡大により再ロックダウン等を
。
自粛が社会全体の感染リスクをある程度減
らすと思いついた程度に過ぎない。実際、
避けられなくなる可能性もある
る。今 回の新型コロナウィルスに限らず、
感染症専門家を中心とする「専門家会議」 感染症の初期段階には、その感染症がどの
ような科学的性質を持つのかは十分解明さ
ウン等を避けるためには、実効再生産数が
ロックダ
においても‘イベント事業のリスクが他の
れていない。すなわち、ウィルス感染がど
。
医
のような状況で多く生ずるかの知見は乏し
れない場合でも、ある特定業種に社会全体
象業種の実際の感染発生確率は低いかもし
・
業種と比 較 し た 上 で 高 い こ と の 科 学 的
いものとならざるを得ない。そのため、対 を採り続ける必要が生じうる 。実効再生産
を越えないよう、「適度な」感染抑制策
べたように、どのような業種に自粛を要請
学的根拠はなんら示されていない。既に述
しても感 染 抑 制 効 果 は 当 然 生 ず る こ と を 考
2初
年 1月
の負担を求めざるを得ない事態は今後も起
え合わせれば、専門家会議による自粛の要
の利益のため負担を負ってもらう場合が起
医学的知見で自ずと決まった
・
請は科学 的
りうる。感染症対策としての財産権への制
(6`9)
ものでは な い こ と が 分 か る 。 そ れ に に も か
かわらず、専門家会議による提言が、さも 限は、精度の高い科学的知見の存在を前提
2O20
(I
l)
定レベルに維持するために、特定の業種に な状況下で、社会全体のために特定の業種
感染抑制策は、社会全体の経済活動を一
。
とする「ため池」条例とはこの点で質的に
医学的根拠から一意に定まったも
科学的
異なる
・
のである か の よ う に 発 信 さ れ た こ と が 、 識
。
者の科学 的 認 識 に 誤 解 を 与 え る 結 果 を 招 い
たのだろう
たとえば、政府のイベント自粛要請によ 負担を求めざるを得ない場合があること、
って数ヶ月もの期間公演中止や収容人数制 しかも科学的知見が十分に得られ ていない
音楽業 界では、
限を余儀なくされ壊滅的な打撃を受けたク 段階、不確かな段階で行わざるを得ない場
ラシック
旬現在ま で 感 染 は ― つ も 認 め ら れ て い な
2
月末から
法的論点であろう 。筆者 の知る限りでは、
年
0
的知見を感染症対策に 求めるならば、新型
2O2
環境法分野で議論が行われている「予防原
い。
感染症の多くで、何も対策が取れない事態
則」にもヒントがあるように思われれる
。
っても ‘ コ ン サ ー ト よ り 飲 食 業 の 方 が 感 染
に陥ることになる
感染症対策が、より公平かつ迅速になされ
。
jp/stf/
https:/ / w w w.m h l w.g o.
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.
盤 (A)
「科学をめぐる専門的判断の不定
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4m3
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l1
820)
性に関する 実証 的研究」 (16H01及
(9)米村滋人「感染症対策の法的ガバ
※本研究は、日本学術振興会科研費 ・基
のではないだろうか
律家の議論がいま早急に必要とされている
(
1
2
)
リスクが 遥 か に 高 い こ と は 、 そ の 時 点 の 科
ぐる意思決定は、右記の事実を踏まえ、科
したがつて感染症をめ
学的 ・医学的知見であっても議論の余地は
るためにも、社会的公平性を専門とする法
のでなければならない。科学的 ・医学的知
。
ないだろう。これらの自粛要請は飲食業を 学的 ・医学的な知見の不定性を直視したも
含めた 他の経済活動を抑制しな い代わり
対策が迅速に、公平性を
・
保った形でなし得るためには、科学的不定
に、比較すれば経済規模の小さいイベント 識を用いた判断
業界の みに社会全体のため負担を求めた政
性を踏まえた解釈、運用、制度設計が不可
。
感染症対策においては、社会全体の経済
欠なのである
治的判断なのである。
医学的知見が十分に得ら
・
社会的 活 動 の 制 限 を 必 要 と す る 感 染 症 対
策には、 科 学 的
120
2464号
判例時報
(
ほんど う つ よし ・東 北大 学 理学 研究科 准教授 )
ナンスと専 門家の役 割」 法時 ll 52
号 (2O 20年 )
。
(lo)筆 者 の研究からも、ロッ クダウ ン
と感 染爆発を繰り 返すより 「 適度 な」
持続 的感 染抑制策 によって経 済的 影響
と感 染抑制のバラ ンス を取る施 策の優
位 性 が示 さ れ て い る。 Ts
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0
5(2O 20年 )
。
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(11)佐 藤元 「 公衆 衛生政策と人 権ー'
|
私権制限を伴う政策 の正当性 評価 の基
準と手続 き」 医 療と社 会 15
巻2号、63
頁 (2oo5年 )。
(12) たとえば、吉 田克己 11マチルド・
オー トロー 11ブ トネ 編 『環境 リ スク
への法的 対応』
( 信山 社 、
2ol 7年 )
。 ...