感染症専門家会議の「助言」は科学的・公平であったか
概要
感染症は罹患者からの接触を物理的に減らすことにより、社会的抑制を確実に行なえることが保証されている。罹患者数の抑制だけに着目すれば原理的な困難はない点で、がんなどとは根本的に異なる。したがって、感染症政策の要諦は、感染抑制の成功・不成功自体にはなく、様々な社会的影響を起こしうる感染症抑制対策を、公平性や経済などと両立させることにある。つまり、科学・医学専門家から得られる知見は用いながらも、公平性や経済などを踏まえた政策的観点からの意思決定が重要である。そのような社会的意思決定には、専門家からの見解が、その多様性 (plural) や、根拠・条件 (condition) の明確な説明を含むものであることが重要である。
二〇二〇年二月一四日、「新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行なう」ことを目的とした新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議)が内閣官房に設置された。一〇名の医師・医学者と弁護士一名、医学倫理を専門とする社会学者一名で構成され、感染症対策に支配的な影響力を与えている。この専門家会議のあり方に、様々な観点から疑問が呈されている。
本稿では冒頭に述べた観点から、専門家会議の助言の問題点を、日本学術会議の声明「科学者の行動規範」と、医学者の世界標準規範である「ヘルシンキ宣言」と比較して議論する。これにより、専門家会議を巡る問題は、政府の問題とは別に、専門家会議構成員の、科学者、医学者の規範からの逸脱によって生じていることを明らかにする。