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大学・研究所にある論文を検索できる 「ドラッグ・リポジショニングによる筋萎縮性側索硬化症に対する新規治療薬の探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ドラッグ・リポジショニングによる筋萎縮性側索硬化症に対する新規治療薬の探索

藤野, 悟央 東京大学 DOI:10.15083/0002006968

2023.03.24

概要

[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 藤野 悟央
ゲノム解析技術の進歩により、家族歴のない孤発性の神経変性疾患において遺伝的要因
(リスク遺伝子)が明らかになりつつある。しかし、リスク遺伝子の詳細な分子機構は不明
な点が多く、創薬へつなげることが困難であった。近年、多因子疾患である関節リウマチに
おいて、ゲノムワイド関連解析で明らかになったリスク遺伝子の情報に、タンパク質間相互
作用(protein-protein interaction,PPI)データベースやドラッグデータベースなどの情報
を組み合わせ、ドラッグ・リポジショニングを行った、ゲノム創薬の新手法が報告された。
この手法は in silico drug screening と呼ばれ、多因子疾患において詳細な病態機序が不明
でも創薬につながる可能性があることを示したものである。本研究は、孤発例が大部分を占
める神経変性疾患である多系統萎縮症(multiple system atrophy,MSA)
、筋萎縮性側索硬
化症(amyotrophic lateral sclerosis,ALS)
、アルツハイマー病(Alzheimer's disease,AD)
を対象に in silico drug screening を実施し、治療薬候補の探索を行った。さらに、既存の
治療薬の作用機序から、標的とすれば患者での有効性が期待できる病態(グルタミン酸およ
び活性酸素種による神経毒性)が明らかになっている ALS を対象に、 in silico drug
screening で見出した治療薬候補を用いて in vitro drug screening を行い、細胞レベルで有
効性を示す既存の医薬品の探索を行った。本研究から得られた主要な知見を以下に記す。
1.in silico drug screening の解析結果
MSA、ALS、AD において、PPI データベース(InWeb,PINA)を使用し、各疾患のリ
スク遺伝子が発現するタンパク質に結合するタンパク質をコードする遺伝子(PPI 遺伝子)
を同定した。そして、ドラッグデータベース(DrugBank)に登録されている PPI 遺伝子を
抽出し、PPI 遺伝子が発現するタンパク質(PPI 遺伝子産物)を標的とする既存の承認医薬
品を同定した。これらの既存薬の中から、各疾患に対する治療薬として効果が期待できるも
のを、文献検索により見出した。その結果、MSA では脊髄小脳変性症治療薬(Protirelin)
やパーキンソン病治療薬など、MSA 患者の診療で実際に使用されている治療薬を複数見出
した。ALS では、Perampanel や Bosutinib など、非臨床試験で有効性が示され、ALS 患
者に投与されている複数の治験薬を見出した。AD では、AD に対する承認医薬品である
Donepezil および Memantine や、AD の病態モデルの実験系で有効性が確認されている既
存薬を複数見出した。これらの結果から、MSA、ALS、AD において、本スクリーニング手
法が妥当であることが確認された。一方、各疾患において、異なる疾患の病態モデルで神経
保護効果や細胞保護効果を有することが報告されている既存薬も複数見出した。これらの

既存薬は、目的とする疾患の病態モデルの実験系や患者で有効性が認められれば、新規治療
薬につながる可能性がある。
2.ALS における in vitro drug screening の解析結果
神経芽細胞腫のセルラインにおいてグルタミン酸および活性酸素種刺激で誘導される細
胞死に対し、ALS の in silico drug screening で見出した医薬品が保護的に作用するか否か
を、MTS アッセイによる細胞の生存率で評価した。その結果、in vitro でのスクリーニン
グを実施した医薬品の中で、B-Raf proto-oncogene, serine/threonine kinase(BRAF)の阻
害薬であり悪性黒色腫の治療薬である Dabrafenib のみがいずれの刺激においても、生存率
の改善効果を示した。同種の BRAF 阻害薬である Encorafenib においても同様の結果が得
られ、BRAF 阻害薬が共通して神経保護効果を有することが確認された。さらに両者は、運
動ニューロンと神経芽細胞腫のハイブリッドセルラインである NSC-34 細胞に対しても神
経保護効果を有することが確認された。
3.BRAF 阻害薬による神経保護効果の作用機序の解析結果
NSC-34 細胞に Dabrafenib もしくは Encorafenib を投与し、mitogen-activated protein
kinase(MAPK)シグナル伝達経路の活性を、ウエスタンブロット解析で検討した。その結
果、両者ともに、神経保護効果を認めた濃度で、有意な extracellular signal-regulated
kinase(ERK)の活性化を認め、c-Jun NH2-terminal kinase(JNK)や p38 の活性には変
化を認めなかった。これらの結果から、BRAF 阻害薬による神経保護効果の作用機序とし
て、ERK の活性化(BRAF 阻害薬による ERK の「Paradoxical Activation」
)が示唆され
た。
以上、本研究は MSA、ALS、AD を対象に in silico drug screening を実施し、本手法の
妥当性を確認するとともに、新規治療薬の候補として期待が可能な既存薬を複数見出した。
さらに、既存の治療薬の作用機序から、標的とすれば患者で有効性が期待できる病態が明ら
かになっている ALS を対象に、in vitro drug screening を行い、BRAF 阻害薬が ALS 病態
を模倣した実験系で神経保護効果を有することを発見した。その作用機序として、細胞の生
存・増殖に関与する ERK の活性化を認め、BRAF 阻害薬による ERK の「Paradoxical
Activation」が、ALS 治療につながる可能性を明らかにした。また、BRAF 阻害薬が有意に
神経保護効果と ERK の活性化を示す至適濃度を見出し、ALS モデルマウスや ALS 患者由
来人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を用いた試験で有効性を検討するための薬理学的な基盤を
構築した。本研究は、これまで有効な疾患修飾薬がなかった神経変性疾患に対する治療薬の
創出に重要な貢献をすると考えられる。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。

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