Transforming Growth Factor β1 signaling links extracellular matrix remodeling to intracellular lipogenesis upon physiological feeding events
概要
[目的(Purpose)〕
脂胞細胞で生理的な摂食により脂胞蓄積が誘導されることはこれまでは主にインスリン作用によるとされてきたが、それ以外の因子によるメカニズムについてはほとんど知られていない。本研究は生理的な脂胞蓄積に関わる新規の脂胞細胞由来分泌因子(アディポサイトカイン)を同定しその機能を解析することを目的として研究を開始した。
〔方法ならびに成績(Methods/Results))
公開されたマウスヒトの脂胞組織トランスクリプトームを用いて、摂食状態で誘導される分泌因子を抽出したところ、Transf orming Growth Factor be ta 1 ( TGF 8 Dが眩当した。TGF 61 は本来細胞外基質( ECM) のリモデリングに主要な因子であることが知られており、ECMリモデリングに必要であるコラーゲンやMMP、ADAMといった遺伝子群も摂食により脂胞組織で誘導されていた。
次に脂胞細胞におけるTGF61の生理的機能について検討した。TGF6受容体はヒトとマウスともに脂胞組織において多く発現しており、TGFB受容体阻害剤を野生型マウスへ投与すると、脂胞重量が減少し、細胞外基質リモデリング関連遺伝子とlipogenesis関連遺伝子の発現が共に低下した。これまでTGF81の脂質代謝への関与は全く知られておらず、TGFB1によるlipogenesis経路の直接制御を考え、分化後の3T3-L1脂胞細胞にTGF61タンパクを添加したところ、細胞外基質リモデリング関連遺伝子と共にlipogenesis関連遺伝子が誘導された。反対にsiRNAを用いてTGF 81をノックダウンするとそれらの遺伝子発現は減少した。以上より脂胞細胞由来TGF B1は細胞自律的に細胞外基質リモデリング関連遺伝子とlipogenesis関連遺伝子の発現を共に制御することが示唆された。
詳しい分子メカニズムを調べたところ、TGFB1添加後の脂胞細胞ではSMAD3のリン酸化に遅れて、ECMリモデリングに関連したFAK/AKTシグナルが増✃することがわかった。3T3-L1脂胞細胞においてSMAD3/ECM/FAK/AKTのシグナル経路を阻害剤によりそれぞれ遮断すると、TGF61誘導性のHpogenesis経路は阻害された。またMMPs/ADAMsの阻害剤を添加したときもTGF8誘導性のlipogcnesisは阻害された。最後に脂胞細胞におけるTGFB1の発現調節機構について検討した。摂食により誘導される代表的なホルモンであるインスリンは、3T3-L1脂胞細胞でTGFB1遺伝子発現を誘導し、インスリンシグナル阻害剤の共添加でその誘導は阻害された。また興味深いことに、インスリンによるlipogenesis経路の誘導はTGFS1作用を阻害することで部分的に遮断されており、インスリンによるlipogenesis経路の一部をTGFB1が担っていることが示唆された。
〔総括(Conclusion)〕
本研究では摂食時にインスリンによって脂胞細胞で誘導され分泌されたTGFB1が細胞自律的に作用し、かつ細胞外の細胞外基質リモデリングを介して、FAK/AKTシグナルを誘導することで、細胞内のlipogenesis経路を正に制御することを初めて見出した。これは摂食時に脂胞組織でアディポサイトカインにより行われる生理的適応メカニズムと考えられ、これまで肥満脂胞組織の線維化を引き起こす悪玉サイトカインとしてのみ認知されてきた脂胞細胞由来TGF81が、生理的な摂食過程においてインスリンと共に脂胞細胞代謝の恒常性を保つ重要な役割を果たしている可能性が示された。