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大学・研究所にある論文を検索できる 「新規牽引器具エンドトラックを用いた内視鏡的粘膜下層剥離術」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

新規牽引器具エンドトラックを用いた内視鏡的粘膜下層剥離術

賀来, 英俊 神戸大学

2022.03.25

概要

背景
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD: Endoscopic submucosal dissection)は、早期の消化管癌に対する低侵襲かつ根治的な治療法として認知されている。しかし、ESD は、出血や穿孔などの有害事象のリスクが高く、依然として困難で時間のかかる治療法である。ESD の際に粘膜下層を良好に可視化するために、様々な牽引方法が検討されている。簡単に糸を結び使用することができ、牽引方向を変えることができる新たな牽引器具(エンドトラック)が開発された。この度、本研究では、早期の消化管癌に対してエンドトラックを用いた ESD の安全性と有効性について検討を行った。

方法
本研究は、2018 年 6 月から 2019 年 5 月までに岸和田徳洲会病院、内視鏡ライブイベントを通じて、食道、胃、十二指腸、大腸の早期癌に対してエンドトラックを使用して ESD を受けた 44 名(45病変)の患者を後方視的に観察した研究である。ESD の適応は、「食道癌の診断・治療ガイドライン 2017」「胃癌治療ガイドライン 2018」「大腸癌治療ガイドライン(JSCCR ガイドライン)」に準じて判断した。早期十二指腸癌に対する ESD の適応は、「胃癌治療ガイドライン 2018」に基づいて決定した。主要評価項目は、エンドトラックの準備時間、エンドトラックを用いた ESD の手技成功率、牽引方向を変更できるか否か、手術時間、一括切除率、R0 切除率、有害事象とした。準備時間は、内視鏡の抜去から病変牽引までの時間とした。手技の成功は、エンドトラックを結んだクリップによる牽引が治療終了まで病変から外れることなく付与されていたかどうかで定義した。牽引方向の変更は、ESD 中にエンドトラックのシースを押し引きすることで牽引方向を遠位または近位側に変更できるかどうかで判断した。手術時間は病変への粘膜局注開始から切除終了までとした。R0 切除は水平および垂直方向の断端に腫瘍が確認されない一括切除と定義した。有害事象として、術後出血は、1)内視鏡的止血処置を必要とした、2)ヘモグロビンが術前の最終値と比較して 2g/dL 以上低下した、3)ESD 後に大量の下血があったが他に明らかな出血源がなかった、と定義した。穿孔は、内視鏡治療中により診断されるか、単純 X 線撮影または CT で腹腔内遊離空気の存在により診断した。

エンドトラックは、先端にクリンチノットのループを持つ糸がプラスチックシースを通り、その先端に T 字型のハンドルが付いている。クリップに糸を結ぶには,ループをエンドクリップの片方の顎に引っ掛け、T 字型のハンドルを引くと結び目がシースの先端に押し出される。ハンドルを操作することで、クリップとプラスチックシース先端の距離を調整することができる。食道、胃、十二指腸の ESD 処置は、上部消化管内視鏡にキャップを使用して行われた。大腸 ESD は下部消化管内視鏡にキャップを用いて実施した.ESD はすべて FlushKnife BT-S を用いて実施した。エンドトラックを用いた ESD は以下のように行った。まず、内視鏡はエンドトラックを装着せずに挿入した、粘膜に局注後、病変部遠位側の粘膜を切開し、部分的に粘膜下層剥離を行った。その後、病変の近位側に残った粘膜を切開した。粘膜切開終了後、内視鏡を体外に引き抜き、エンドトラックのループをクリップの歯に結んた。次に、内視鏡にエンドトラックを沿わせた状態で内視鏡を消化管に挿入した。部分切除した病変の遠位縁にクリップを留置した。シースを手で引っ張ると近位側に病変が牽引される。近位側への牽引がうまくいかない場合は、シースを押して牽引方向を病変の遠位側へ変えることができる。これらの牽引により粘膜下層の視認が確立されると、容易に剥離され切除完了となる。

結果
食道 8 例、胃 21 例、十二指腸癌 4 例、大腸 12 例を含む 44 例(45 病変)が観察された。病変部位は、食道は頸部食道 3 例、胸部食道 4 例、腹部食道 1 例、胃は胃上部 6 例、胃中部 6 例、胃下部 5 例、残胃 4 例、十二指腸は第 2 部 3 例、下行部 1 例、大腸は盲腸 2 例、上行結腸 3 例、横行結腸 2 例、S 状結腸 1 例、直腸 4 例であった。病変の大きさの中央値は、食道 28(20-60)mm、胃 20(5-90)mm、十二指腸 37(22-48)mm、大腸 30(15-100)mm であった。

手術時間の中央値は食道 59(38-280)分、胃 84(19-270)分、十二指腸 64(48-102)分、大腸 83(38-188)分であり、一括切除率は全臓器で 100%であった。胃癌 1 例を除いて R0 切除が達成された。有害事象は、胃 1 例でピンホール穿孔、胃 1 例で ESD 後凝固症候群(PECS)が発生したが両症例とも保存的加療で改善した。

エンドトラックの準備時間の中央値は食道 2(2-5)分、胃 3(1-5)分、十二指腸 6(5-9)分、大腸 4(2-8)分であった。手技成功率は食道 100%(8/8)、胃 100%(21/21)、十二指腸 100%(4/4)、大腸 100%(12/12)であった。近位側・遠位側への牽引の達成率は、食道 100%(8/8)、胃 100%(21/21)、十二指腸 0%(0/4)、大腸 100%(12/12)であった。十二指腸の 4 例では,近位側への牽引は成功したが,遠位側への牽引は不可能であった。

考察
ESD では、腫瘍の位置や状況に応じて順方向や反転方向からなどさまざまな内視鏡的アプローチが必要となる。順方向アプローチでは、粘膜下層剥離の初期に内視鏡側に牽引すると、糸と内視鏡が干渉して粘膜下層への入り口が狭くなり、粘膜下層へのアクセスが困難な場合がある。このような場合、シースを押して牽引方向を内視鏡と反対方向に変えることで、入り口が広くなり、粘膜下層へのアクセスが容易になる。牽引方向を変えることは、ESD 手技を容易にするために有用であると考えられる。今回、十二指腸病変を除く全例で近位側、遠位側双方への牽引が可能であった。エンドトラックはシンプルな構造である。本研究での準備時間は 4 分と比較的短く、術者の集中力を妨げない程度と考える。簡単な操作でエンドトラックを装着でき、臓器に関係なく ESD 手技の終了まで十分な牽引力を発揮できることがわかった。また、ほとんどの症例において、シースの調整により牽引方向を遠位または近位に変更することができ、有害事象なく高い一括切除率を達成することができた。

ESD において様々な牽引法の有効性が報告され、簡便で装着しやすい方法が最も広く普及すると思われる。本研究では、エンドトラックが全例において、最後までクリップと糸を病変部に装着できることを実証した。内視鏡の挿入部が病変から遠い十二指腸や結腸近位部でも十分な牽引が可能であった。既報のエンドクリップと糸だけの方法では、糸が内視鏡に干渉してしまい、術中に外れてしまうことがある。また、牽引力のコントロールができない。エンドトラック法では、糸がプラスチックシースの中を通る構造になっている。プラスチックシースにより、病変部の牽引を妨げることなく、内視鏡の操作が容易に行える。さらに、先端のクリンチノットのループをエンドクリップにしっかりと結びつけることができる。この 2 つの理由から、術中に外れにくくなっているのだと思われる。十二指腸病変でも、近位側への牽引は可能だが、遠位側への牽引は全例で不可能であった。これは、エンドトラックのシースを押すと、胃から十二指腸の大きな空間の中でシースが S 字に曲がってしまい、十二指腸病変部まで押す力が伝わらないためである。しかし、近位側への牽引力はシースを制御することである程度調整することが可能である。

また、エンドトラックの利点として、糸を押し出す事でクリップとシース先端の距離を調節することができるため粘膜下層へのアプローチ、視認性が向上し、完全切除が容易になるとも考えられている。しかし、エンドトラックを装着するためには、内視鏡を一旦抜去し再挿入する必要がある。そのため、病変まで内視鏡の挿入が困難な深部結腸病変に対しては、再挿入を必要としない別の牽引方法が望まれる場合もある。本研究でエンドトラック法が安全で有効であることを示したとはいえ、いくつかの Limitation がある。後方視的な研究であったこと、治療病変の選択にはバイアスがかかっている可能性があり、この有効性をより強く示すためには他の牽引器具との前向き比較研究が必要である。また、一人の熟練した内視鏡医によって行われており、経験の浅い内視鏡医では成功率や有害事象率がどの程度になるかを正確に評価することは困難である。よって、さらなる前向き研究が必要である。

結語
エンドトラック法を用いた ESD は安全かつ有効であると思われる。

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