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大学・研究所にある論文を検索できる 「ティッシュエキスパンダーを用いた即時乳房再建における陰圧閉鎖ドレーンの長期留置を予防する因子の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

ティッシュエキスパンダーを用いた即時乳房再建における陰圧閉鎖ドレーンの長期留置を予防する因子の検討

Tokiyoshi, Takahiro 神戸大学

2020.03.25

概要

はじめに
人工物を用いた乳房再建手術において、持続陰圧閉鎖ドレーンは効果的と考えられよく用いられている。ドレーンを抜去するタイミングは多くの場合その排液量を参考に決定されているが、基準値に達しない場合はドレーン留置期間が長期化する。ドレーン留置期間の長期化は人工物の感染や入院の長期化の原因となる可能性がある。しかしドレーン留置の長期化の予測因子についての報告はあるものの、これを予防する因子に関してはほとんど報告されていない。

本研究はティッシュエキスパンダーを用いた即時乳房再建における持続陰圧閉鎖ドレーンの留置期間の長期化の因子を明らかにすることを目的とした。またこの長期化を予防する因子を明らかにするために本検討には手術的にコントロール可能な因子を含んで検討を行った。

対象と方法
2013 年 4 月から 2016 年 3 月の間に四国がんセンターでティッシュエキスパンダー(ナトレル®133;アラガン社)を用いた即時乳房再建を行った患者を対象とした。

手術手技
ティッシュエキスパンダーのサイズは患者の健側乳房の幅から決定した。ティッシュエキスパンダーには生理食塩水を注入した後に、大胸筋下に作成したポケットに留置した。大胸筋ポケットの外側は分層前鋸筋弁を用いて覆った。また大胸筋ポケットの尾側では腹直筋前鞘を切開した。持続陰圧閉鎖ドレーンは大胸筋ポケット内と、ポケット上にそれぞれ留置した。また腋窩リンパ節郭清を行った患者にはその郭清部に追加で 1 本留置した。

術後管理
各ドレーンの排液は別々に測定し、24 時間量で 50ml以下をドレーン抜去基準とした。テ ィッシュエキスパンダー内の生理食塩水は全ドレーンを抜去するまで追加注入しなかった。ドレーン抜去までの間、患側上肢を運動制限した。

データ集積
全データを診療記録から入手した。採集したデータはドレーン留置期間、年齢、BMI、喫煙歴、糖尿病の有無、術前放射線照射の有無、術前化学療法の有無、乳房切除手技(乳房全摘もしくは皮下乳腺全摘)、腋窩手術(腋窩リンパ節郭清もしくはセンチネルリンパ節生検)、ティッシュエキスパンダーのサイズ、ティッシュエキスパンダーの初期生理食塩水注入量、術中出血量、手術時間だった。

カットオフ値の設定
ドレーン留置期間の長期化を全患者の留置期間の 75%値以上と定義した。以下の因子は 2グループに分割した:年齢(60 歳以上、60 歳以下)、BMI(25 kg/m2 以上、25 kg/m2 以下)、乳房切除手技(皮下乳腺全摘、乳房切除)、腋窩リンパ節郭清(施行、非施行)、ティッシュエキスパンダーのサイズ(500ml 以上、500ml 未満)、初期生理食塩水注入量(33%以上、33%未満)、術中出血量(100ml 以上、100ml 未満)、手術時間(180 分以上、180 分未満)。

統計学的解析
ドレーン長期留置に関連する因子を求めるために単変量、多変量ロジスティック回帰分析を行った。統計学的検討に耐えないとして、8 例以下の因子は統計解析から除外した。p <0.1 を満たす因子を求めるために単変量ロジスティック回帰分析を行い、これを満たす因子のみを多変量解析に含めた。p <0.05 を統計学的有意とした。

結果
患者因子
期間中に 99 患者、99 乳房に手術を行った。ドレーン排液量に影響を与える可能性から以下の合併症を認めた症例を対象から除外した:ティッシュエキスパンダーの破損(n=1)、術後血腫(n=2)、乳輪乳頭の全壊死(n=2)、インプラント周囲の感染(n=4)。よって計 89 例、89 乳房を調査対象とした。

ドレーン長期留置と定義した留置期間の 75%値は 9 日間(範囲 5-14 日間)だった。32 例(36%)でドレーンの長期留置を認めた。12 例(13%)が 60 歳以上(範囲 22-72 歳)、18 例(20%)でBMI25 kg/m2 以上(範囲 17.1-38.3 kg/m2)、8 例以下のため解析から除外された因子は糖尿病歴、術前放射線照射、術前化学療法だった。

手術因子
全例が乳がん手術による乳房再建だった。乳房切除が 74 例;83%、センチネルリンパ節生検が 72 例;81%だった。16 例(18%)に腋窩リンパ節郭清を行っており、その全例で腋窩に追加ドレーンを留置していた。ティッシュエキスパンダーのサイズは250-700ml で、17 例(19%)が 500ml 以上だった。術中出血量は 10-370ml で 23 例(26%)が 100ml 以上だった。手術時間は 64-224 分で 11 例(12%)が 180 分以上だった。

解析
9 変数を解析した。単変量ロジスティック回帰分析では BMI ≥ 25 kg/m2 (p < 0.001), 腋窩リンパ節郭清 (p = 0.019), ティッシュエキスパンダーのサイズ≥ 500 ml (p < 0.001),術中出血量 ≥ 100 ml (p < 0.001), 手術時間 ≥ 180 分 (p = 0.004)がドレーン留置期間 9 日以上に関連していた。

多変量ロジスティック回帰分析では以下の因子がドレーン留置期間 9 日以上に有意に関連していた(BMI ≥ 25 kg/m2 (p = 0.005; オッズ比 [OR]: 8.02), ティッシュエキスパンダーのサイズ ≥ 500 ml (p < 0.001; OR: 14.10), 術中出血量 ≥ 100 ml (p = 0.008; OR: 5.57))。

考察
本研究は単施設におけるティッシュエキスパンダーを用いた即時乳房再建における持続陰圧閉鎖ドレーンの長期留置に関連する因子を調査したものである。本研究結果から BMI ≥ 25 kg/m2, ティッシュエキスパンダーのサイズ ≥ 500 ml, 術中出血量 ≥ 100 ml が独立したドレーン長期留置のリスク因子だった。つまり高い BMI と大きなティッシュエキスパンダーサイズはドレーン長期留置の予測因子であり、出血量はドレーン留置期間を制御する因子である可能性が示唆された。また先行研究で腋窩リンパ節郭清はドレーン排液量に負の影響を与えるとされているが、我々の結果は郭清された腋窩に追加のドレーンを留置すれば腋窩リンパ節郭清はドレーン留置期間を延長させないものだった。ゆえに、出血量を減じることと腋窩リンパ節郭清された腋窩に追加でドレーンを留置することが我々の患者群ではドレーン長期留置を予防した可能性があった。我々の渉猟した限りではこれまでにドレーン長期留置とこれを外科的に予防し得る因子の関係は報告されていない。

腋窩リンパ節郭清後の腋窩ドレナージに関して具体的なガイドラインはなく、外科医それぞれの判断に委ねられている。しかし我々はティッシュエキスパンダーを用いた即時乳房再建患者の腋窩郭清後には持続陰圧ドレーンを追加で留置することが必須と考えている。この追加のドレーン留置は術後漿液腫を予防するのみならず、乳房再建時のドレーン長期留置を予防する。同様の手術で腋窩郭清後に追加のドレーンを留置していない先行研究ではドレーン排液の増加と留置期間の長期化が報告されている。腋窩郭清後のドレーン留置が漿液腫の予防に効果的であることは広く報告されているが、これが乳房再建手術において早期に排液を減じることを示唆した報告はこれまでに認めない。

本研究結果は術中出血量がドレーン留置期間の制御因子である可能性を示唆しているが、我々は制御因子であるというよりも外科的外傷の指標であると考えている。手術侵襲が大きくなると多くの血管が損傷され、それに伴って多くのリンパ管も損傷される。その結果ドレーン排液は増量され、ドレーン留置期間が延長する。ゆえに術中出血量は手術侵襲の指標となりうる。本研究での術中出血量の範囲は 10-370ml で、出血量が多い症例では手術侵襲が過大だった可能性がある。更なる手術侵襲及び術中出血量の低減が望まれる。

先行研究ではインプラントを用いた乳房再建におけるドレーン長期留置の予測因子が報告されている。ベッカーインプラントを用いた乳房再建患者群の多変量解析においてはインプラント幅が唯一の因子だったとする報告がある。また切除乳房量および体重がエキスパンダーを用いた乳房再建においてドレーン排液量の予測因子だったとする報告もある。腋窩の手術では高い BMI が排液量と相関すると報告されている。本研究結果は大きなティッシュエキスパンダーのサイズと高い BMI がドレーン長期留置の予測因子であることを示唆しており、これらは先に述べた先行研究の結果と類似していた。

本研究の制限の一つはドレーン抜去の基準値(24 時間量 50ml以下)が最もよく用いられ ている 24 時間量 30ml 以下と異なる点である。しかしいずれのドレーン抜去の基準値もエ ビデンスに乏しく、術者が経験的に用いているにすぎない。実際、我々の患者群において術 後漿液腫を認めなかったし、4%(4 例・99 例)の術後感染率も過去の報告と比べて高値では なかった。また本研究は後ろ向きのチャートレビューであり、研究デザインとして強固なも のではない。さらに本研究の患者群はアジア人のみであり、その他の人種は含まれていない。最後に本研究の患者群では人工真皮マトリックスをティッシュエキスパンダーの被覆に用 いておらず、これを用いた患者に対しては本研究結果を適用できない可能性がある。

まとめ
渉猟する限り本研究はティッシュエキスパンダーを用いた即時乳房再建における持続陰圧ドレーン長期留置を予防する因子を評価した初めての報告である。ドレーン長期留置の予防において腋窩リンパ節郭清後の腋窩に追加で持続陰圧閉鎖ドレーンを留置すること、また手術侵襲を抑えて術中出血量を減じることを推奨する。また本研究では高 BMI 及び大きなティッシュエキスパンダーサイズがドレーン長期留置の予測因子であることも示した。

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