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大学・研究所にある論文を検索できる 「食道憩室を合併した食道蠕動障害患者における経口内視鏡的筋層切開術単独の有用性;後方視的単一施設研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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食道憩室を合併した食道蠕動障害患者における経口内視鏡的筋層切開術単独の有用性;後方視的単一施設研究

Kinoshita, Masato 神戸大学

2021.03.25

概要

[緒言]
 食道憩室の中でも横隔膜上憩室は食道の遠位側にできる筋層を有さない仮性憩室である。有病率は0.04から4%と低く、比較的稀な疾患である。アカラシア、ジャックハンマー食道、遠位食道痙攀症などの食道運動機能障害患者に合併しやすく、横隔膜上憩室患者の約50%以上が食道運動機能障害を合併するといった報告がある。嚥下困難や嘔吐など有症状の横隔膜±憩室患者に対して従来は外科治療として憩室切除術に加え食道の筋層切開(Heller筋層切開)と噴門形成(Dor噴門形成術)を行うことが標準治療として行われてきた。しかし既報では憩室切除術は手術時間が長い(210-313分)ことや縫合不全(8-23%).肺関連合併症(8-10%)や死亡率(0-7%)などの合併症率が比較的高いことが問題であった。一方で横隔膜上憩室を合併した食道運動機能障害に対して外科的な憩室切除を行わず筋層切開術と嘖門形成術だけでも十分な治療効果が得られたとする報告もある。
 近年、アカラシアをはじめとする食道運動機能障害に対して経口内視鏡的筋層切開術(POEM)が開発され、その低侵襲性と高い安全性と有効性から現在は治療の第一選択として広く行われるようになっている。POEMとは食道の粘膜下層に内視鏡的にトンネルを作り固有筋層を切開する治療法である。POEMはいわば内視鏡的Heller筋層切開術であることから、横隔膜上憩室を合併した食道運動機能障害に対してもPOEM単独での治療で十分な治療効果が得られるのではないかと発想した。
 そこで本研究では、横隔膜上憩室を合併した食道運動機能障害患者に対するPOEM単独での治療の安全性と有効性について後方視的に検討した。

【方法】
 神戸大学医学部附属病院において2015年4月から2018年10月の観察期間で食道運動機能障害に対しPOEMを施行した全298症例を対象とした。横隔膜上憩室の診断は2人の熟練した内視鏡医が内視鏡画像およびバリウム造影検査の画像を用いて判定した。
 POEMは通常の患者と同様の手順で行った。全身麻酔下で背臥位の体位で行ない、内視鏡からの送気はCO2ガスを使用した。5時方向で食道の粘膜切開を行い、食道から胃までの粘膜下トンネルを作成したうえで筋層を切開した。切開する韋道平滑筋の長さは術前のバリウム造影検査と内視鏡検査で異常蠕動をきたす範囲を同定し、異常蠕動をきたす最も口側から食道胃接合部を越えて胃側2-3cmまで電気メス(FlushKnife BT)を用い切開した。憩室が視認できた場合、憩室を避けて筋層切開を行なった。
 有効性については術後3か月後における自覚症状のスコアであるEckardtスコア及び食道内圧検査におけるIRPの値で評価した。Eckardtスコアとは患者の症状をスコア化したものであり、嚥下障害、胃酸逆流、胸痛の頻度及び体重減少の程:度により0〜12点で評価し、術後の点数が2点以下もしくは術前より4点以上下がったものが臨床的に効果ありと判断される。IRPはintegrated relaxation pressureの略称で積算弛緩圧(食道胃接合部圧の平均値)を示す。アカラシアでは異常蠕動のため正常上限以上の値を示し、POEMの診断及び治療効果の判定に用いられる。安全性については術中と術後の合併症の頻度で評価した。統計解析はstudent t検定、カイニ乗検定を用い、p値が0.05以下を有意差ありと判定した。

【結果】
 横隔膜上憩室を合併していたのは対象患者298例のうち男性8例、女性6例の全14例(4.7%)であった。年齢の中央値は72.5[46-85]歳、罹病期間の中央値は5.5[2·48]年であった。併存する食道運動機能障害の内訳はType lアカラシア;5例(35.7%)、Type lllアカラシア;2例(14.3%)、ジャックハンマー食道;5例(35.7%)、遠位食道痙攣症;2例(14.3%)であった。憩室の個数は1個が13例、2個が1例であった。憩室最大径の中央値は26.5[9-90]cmであった。
 POEMの施行時間の中央値は77.5[41-123]分、筋層切開長の中央値は19.5[11-25]cmであった。合併症として穿刺による脱気を要する気腹症を1例(7.1%)に認めたが、致死的な合併症は認めず、横隔膜上憩室を合併していない治療群の成績と比較して統計学的有意差は認めなかった。Eckardtスコアの中央値はPOEM施行前と治療の3か月後を比較して5から0へ有意に低下した(p<0.001)。IRPの中央値も22.5[13.9-34.3]mmHgから10.3[0.7-23.9]mmHgへ有意に改善を認めた(P<0.001)。憩室最大径の中央値は術前後比較して29(9-90]から25[5-52]cmにやや縮小していた(p=0.135)。治療後の内視鏡的な逆流性食道炎は10例(71.4%)で観察されたが症状を認めたのは1例のみで胃酸分泌阻害剤の内服により症状は自制内であった。
 憩室の最大径が3cm以上の群(6例)と3cm未満の群(8例)で比較したが上記の成績いずれにおいても統計学的な有意差は認めなかった。

【考察】
 本研究において横隔膜上憩室を有する食道運動機能障害患者は全例でPOEM単独での治療で症状が改善しており、その有効性が示された。POEM治療後の長期的な合併症として問題となる有症状の逆流性食道炎に関しても1例で認めるのみで、その症例も胃酸分泌阻害剤の経口投与でコントロール可能であった。また治療後1年の成績を評価できた8例においてもEckardt scoreの中央値は0を維持しており、治療の長期成績に関しても期待できると考えられた。
 POEMに関して、想定する筋層切開ライン上に憩室が存在した症例は3例であったが憩室の近位側から粘膜切開ラインを変えることで筋層切開術を完遂することが可能であり、横隔膜上憩室を合併していても治療に影響しないことが示された。また、横隔膜上憩室の合併していない症例と比較しても合併症の頻度に差はなく、安全性の高い治療であることが示された。
 これらの結果から横隔膜上憩室を有する食道運動機能障害患者の嚥下困難や嘔吐などの症状の多くは憩室ではなく基礎疾患となる食道運動機能障害に起因すると考えられた。このような患者では一期的な憩室切除術は必須ではなく、多くはPOEMや外科的な筋層切開術だけで症状が改善し、憩室の治療が必要となる患者は限定的であると考えられた。
 横隔膜上憩室を有する食道運動機能障害患者においてPOEM単独での治療は安全かつ有効であり、治療の第一選択とするべきであることが示唆された。

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