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大学・研究所にある論文を検索できる 「Fluorescent Probes for Visualization of Lipid Metabolism」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Fluorescent Probes for Visualization of Lipid Metabolism

梶原, 啓司 名古屋大学

2022.06.03

概要

脂質代謝は,エネルギーの貯蔵・供給や細胞内シグナル伝達などの様々な細胞機能に関与し,生命維持活動の根幹を担っている.近年の研究により,脂質代謝の異常が肥満や糖尿病に加え,ガンを含む多くの疾病と深く関連していることが明らかとなり,医学的見地からも脂質代謝機構解明の重要性が認識されるようになった.脂質代謝を解析するうえで,高い時空間分解能で細胞機能を可視化できる蛍光イメージング法は有用な技術である.しかし,現有の蛍光色素では,脂質の動態や組成を直接観察することが困難であり,脂質関連研究における大きな課題となっていた.本論文では,脂質代謝を高感度かつ高精度で解析するための新たな分子ツールの創製,およびそれらを用いた生細胞への応用についてまとめており,序論,本論三章,結言により構成されている.

第一章では,脂質の主成分である脂肪酸に着目し,脂肪酸代謝産物の分析技術の創出について論じている.脂肪酸の代謝経路は細胞機能と密接に関わるため,細胞内で脂肪酸がいつ,どこへ代謝されているかを理解することは重要な研究課題である.細胞内での脂肪酸動態を可視化する分子ツールとして,脂肪酸に蛍光色素を連結させた蛍光脂肪酸が広く用いられてきた.これらの蛍光脂肪酸は,細胞内における脂質動態のリアルタイムかつ高感度な観察を可能にしたが,代謝産物の空間的情報を光情報として取得することが困難である,さらに脂肪酸としての代謝効率が乏しいという問題点から,脂肪酸代謝物の細胞内分布を詳細に検討するには至っていない.本研究では,環境応答性色素である3a-azapyren-4-one(AP)を長鎖脂肪酸に連結させた蛍光脂肪酸 AP-C12 を開発し,これを用いた脂肪酸代謝産物の可視化・分析に取り組んだ.

AP-C12 を細胞に添加したところ,様々なオルガネラに分布される様子が観察された.この際,各オルガネラにある AP-C12 の代謝物は,局所的な極性環境の違いを反映した光物性を与えることを見出し,その特性を利用することで,脂質代謝物の分布を色の違いとして画像化する新たな分析法を確立した.

また,脂肪酸代謝に関与する酵素を阻害した際の染色パターンの分析から,AP-C12 は天然脂肪酸と同様の代謝経路によって種々のオルガネラに効率よく輸送されることがわかった.さらに,栄養飢餓状態の肝癌細胞において,脂肪滴分解による脂肪酸の放出は,リポファジー(オートファジーによる脂肪滴分解)よりもリポリシス(中性脂質の加水分解反応)経由で進行することを証明した.

第二章では,脂質代謝において脂質の貯蔵庫およびキャリアーとして機能する脂肪滴に着目し,微小な脂肪滴動態を長時間観察するための脂肪滴染色剤の開発と,これを用いた脂肪滴動態の観察法および解析法について論じている.脂肪滴は,脂質のホメオスタシスやオートファジーの制御にも深く関与する動的なオルガネラであり,その機能解明は基礎医学や創薬分野における重要な研究課題である.脂肪滴は,低極性のトリアシルグリセロール(TAG)を主成分とし,これが様々な膜タンパク質を含むリン脂質一重膜で覆われた構造体である.脂肪滴を染色する蛍光プローブとしては,Nile Red やBODIPY 493/503 などが古くから用いられてきたが,微小な脂肪滴の動態を長時間にわたって追跡することができなかった.これを実現するためには,脂肪滴特異的に蛍光を発する性質と,長時間の光照射でも褪色しない高い耐光性を併せもつ蛍光色素の開発が必要である.本研究では,[1]ベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェンを基本骨格としたドナー-π-アクセプター(D-π-A)型の蛍光色素を開発し,これを用いた微小な脂肪滴の動態のモニタリングに取り組んだ.

開発した色素の中でも,LAQ1 は D-π-A 性に起因して,トルエンなどの低極性溶媒中では強く発光するが(λem = 494 nm, ΦF = 0.84),アセトニトリルのような高極性溶媒中では,大きな長波長シフトと蛍光量子収率の低下が認められた(λem = 571 nm, ΦF = 0.24).また,架橋構造による平面固定化によって,LAQ1 は超耐光性とも形容できる圧倒的に高い耐光性を示した.次に,LAQ1 を添加した脂肪細胞を共焦点顕微鏡で観察したところ,脂肪滴特異的に染色された画像が得られた.これは,LAQ1 が低極性の脂肪滴に集積しやすいことに加え,環境応答性によって LAQ1 の非特異吸着に起因した蛍光バックグラウンドが抑制されたためである.これらの性質を利用して,超解像 STED 顕微鏡による極微小な脂肪滴の検出に成功した.さらに,LAQ1 を用いることで,生細胞内にある個々の脂肪滴の軌跡を長時間追跡することにも成功した.加えて,培養脂肪細胞に対してリポリシス誘引剤を添加したところ,脂肪滴サイズの収縮,およびそれに伴う微小脂肪滴の形成が可視化され,生成した遊離脂肪酸が小胞体膜上で再代謝される様子を観察することに成功した.

第三章では,脂肪滴内部の脂質組成,特にトリアシルグリセロール(TAG)とコレステロールエステル(CE)の組成比に着目し,それを評価するための脂肪滴蛍光プローブの開発と,蛍光寿命イメージング顕微鏡(FLIM)を用いた解析法について論じている.近年,脂肪滴内の脂質組成と脂肪滴機能の関連を示唆する研究結果が報告されるようになってきたが,適応可能な可視化ツールが存在しないために,生細胞中でこれを直接観察することができなかった.脂質組成の可視化を実現するためには,脂肪滴特異的な発蛍光特性と,脂質組成の違いがもたらすわずかな環境の違いを感受できる高い環境応答性を合わせもった蛍光プローブが必要である.本研究では,ビスホスホリル架橋型の D-π-A 型の蛍光色素 LipiCo を開発し,蛍光寿命イメージング(FLIM)による脂肪滴内の脂質組成の評価に取り組んだ.

LipiCo の光物性を評価したところ,高い環境応答性を有しており,わずかな極性の違いを蛍光寿命の違いとして変換できることがわかった.そこで,FLIM を用いてトリオレインとオレイン酸コレステロールから成る人工脂肪滴について評価したところ,オレイン酸コレステロールの割合が高くなるにつれてLipiCo の蛍光寿命が長くなることがわかった.次に,LipiCo で生細胞を染色したところ,脂肪滴特異的に赤色蛍光が検出され,脂肪滴染色剤として有用であることが示された.また,細胞種ごとに加え,同一の細胞内においても異なる蛍光寿命成分をもつシグナルが得られたことから,脂質組成にはある程度のばらつきがあることがわかり,これが脂質代謝機能の不均一性を招いていることが示唆された.

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