リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「素材生産を主とする林業事業体の経営リスクと安定経営に向けた課題」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

素材生産を主とする林業事業体の経営リスクと安定経営に向けた課題

尾分, 達也 OWAKE, Tatsuya オワケ, タツヤ 九州大学

2020.03.23

概要

森林管理の担い手政策は,森林所有者から伐採を主とする素材生産林業事業体へと変化しつつある。2019 年 4 月に森林経営管理法が施行され,森林所有者が管理できない森林の経営管理権を,市町村を介し,民間の林業事業体に 15 年以上の長期にわたって分配する制度が導入された。素材生産を主とする林業事業体(以下,素材生産事業体)が林業経営者に位置づけられることは,担い手政策の大きな転換である。しかし,素材生産事業体経営の不確実性については政策的にほとんど考慮されていない。また,素材生産事業体の経営課題や長期にわたって安定経営となるための条件を明らかにした研究はみられない。本研究は,素材生産事業体の経営リスクを把握し,長期安定経営を阻害する要因を分析することによって,事業体がとりうる有効な経営対応とともに、政策支援策を明らかにすることを目的とした。

はじめに,統計資料と既往研究の整理から,現代の素材生産の中核を成しているのは,高性能な大型林業機械を導入し,生産規模を拡大した企業的な事業体であることを明らかにした。素材生産事業体は施業地の確保によって事業量を安定的に確保することが求められ,製材工場や原木市場の請負事業化が進展していた。

次に,素材生産事業体の経営リスクについてリスクマネジメントの観点から検討した。リスクマネジメントは,リスクの特定,リスクアセスメント(リスクの評価・分析),リスク対応の順で行われる。リスクの特定は,既往研究のレビューとアンケート調査を用いて行った。その結果,素材生産事業体経営では,5 つのリスクカテゴリーと 9 つのリスク(うち内的リスク 6 つ,外的リスク 3つ)を特定することができた。これらのリスクについて,素材生産量が拡大している宮崎県,大分県,熊本県の全民間認定林業事業体 255 社を対象にアンケート調査を実施し(有効回答率 18.4%), 各リスクの発現頻度と経営への影響度を 6 段階評価(0~5)のデータを収集した。「死亡事故」の発現度(平均 4.64),「機械の故障」の発現頻度(平均 3.52)が他のリスクに比べ有意に高かった。死亡事故は経営の存続に影響を与えるとわかった。機械の故障は発現頻度を抑える必要性が示唆された。その他のリスクの発現頻度および影響度は有意な差がなかったが,外的なものか内的なものかで,リスク対応策が異なることが示された。

外的リスクである木材価格下落のリスクについて,2012 年に発生した木材価格の暴落を事例に,その影響と経営対応について 3 県の事業体にアンケート調査を実施した。立木購入をして市場出荷する事業体がもっとも影響を受けたことが明らかとなった。一方で,請負で直送取引をする事業体の影響は小さかったが,出荷量の制限など影響を緩和しきれず,事業体の経営対応では限界があることを指摘した。

内的リスクでは,機械化が進んでいる中で,機械に関するリスクを低減させる意義は大きく,資産リスクである機械投資を取り上げた。機械費用を細目に分け,事業体に主観的な負担感と実際のコストに関して 3 県の認定事業体に対するアンケート調査を実施した。順序ロジスティック回帰分析等の分析によって,機械導入費は経費構成比率と負担感ともに高く,優先的にコスト削減が求められること,経費構成比率の高い「人件費」は負担感が低く,必要経費ととらえる事業体が多いことが明らかになった。機械修繕費は経費構成比率が低いものの負担感が高く,「機械の故障」リスクについては,故障と修繕の頻度を下げることで負担感の軽減につながることが明らかになった。

そこで導入費と修繕費に関して,素材生産事業体7社へ聞き取り調査を実施し,事業体努力によるコスト削減策を考察した。機械の故障と修繕頻度を下げるには,無理な扱いを控え,日々の点検と自社での修繕対応が有効と言えた。また,保険利用は修繕費用の低減の助けとなっていた。故障が減ることで機械の耐用年数を延ばし,適切な時期に更新をする仕組みが導入費を下げる鍵となっていた。機械導入台数の少ない事業体は,資金力がないため,保険がついたリースによる機械利用の有効性も示唆された。また,機械のメーカーと販売店に聞き取り調査を行い,サポート体制の現状と課題を考察した。機械メーカーはユーザーとのつながりが弱く,販売店に使用方法や修繕の知識が求められるため,関係者のネットワーク構築の必要性を指摘した。

政策的に推し進められている機械化は,内的リスクを上げ,不安定な経営にさせやすいものであり,導入促進には慎重であるべきことを指摘した。素材生産量拡大の観点から機械化を進める場合,機械メーカーや販売店,補助金を担当する行政と協力し,機械化のリスクを共有し,経営相談などのソフト対策を充実する必要がる。あるいは,高性能林業機械を導入していない小規模事業者による林業経営委託の可能性についても検討すべきである。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る