リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Physiological analysis of adaptation mechanism on flood environment in deepwater rice」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Physiological analysis of adaptation mechanism on flood environment in deepwater rice

MORI, Yoshinao 森, 欣順 名古屋大学

2020.04.02

概要

植物は多種多様な環境に合わせた形態的、生理的な適応を行い、地球各地の様々な地域に生息している。河川や池、湖周辺などの水辺に生育している陸上植物は、生物の生存に不可欠な水分の摂取に関してメリットがある一方、過度の降雨による洪水の影響によって冠水し溺死してしまうリスクを負っている。これは水中における気体の拡散速度は大気中に比べて 10,000 倍小さく、また水中に溶存する酸素、二酸化炭素の量が空気中に比べ少ないため、呼吸や光合成のために必要な酸素や二酸化炭素などの気体の摂取が大きく制限されることに起因している。このように、冠水ストレスは植物の生育に深刻な影響を与える。

南、東南アジアでは、長期間の雨季において、水深が 1m を超えるような洪水期間が 5 ヶ月以上続き、中には最大で 6 m の水深 に達することもある。浮イネは、このように定期的に洪水が発生する地域に適応してきた。具体的には、浮イネは水位の上昇とともに節間(茎) を急速に伸長させ葉先を水面から出すことにより、大気から酸素を摂取し水面下の組織へ送り届けることにより、洪水発生地帯でも生育することができ、その節間長は 7 m に達することもある。一般的なイネは生育の後期である生殖成長期に節間伸長を行い、止め葉の葉鞘から穂を抽出させ出穂に至る。一方、浮イネは、栄養成長期の早期から節間伸長能を有し、雨季の水位の上昇に応答して節間伸長することができる。私の所属する植物遺伝子機能研究室では、これまでに浮イネの洪水に応じた節間伸長応答に着目し、節間伸長を制御する遺伝子の同定や、植物ホルモンと節間伸長との関連などの生理学的な解析が行われてきた (第 1 章)。

先に述べた浮イネの酸素摂取による洪水ストレス回避機構は、冠水時におけるイネの生理状態に関する研究から考察されている。しかしこれまでに、浮イネの節間伸長による酸素摂取と洪水ストレス回避について、総合的な研究を行った例はない。そこで本研究では、冠水状態における浮イネの酸素濃度状態の変動解析や(第 2 章)、水面上の組織から摂取された気体の水面下の組織への気体移動の可視化を行い、浮イネが節間伸長を行うことの生物学的な意義を検証した(第 3 章)。また浮イネの節間伸長が洪水応答における重要な要素であるため、浮イネの節間伸長を制御する遺伝子の機能解析(第 4 章)を行った。

まず第 2 章では、浮イネ節間内の酸素濃度状態に着目し研究を行った。初めに、完全冠水状態の浮イネ品種 C9285 と、葉先を水面上に抽出し大気との接触が保たれている部分冠水状態の C9285 において、節間内部の酸素濃度の日周変動を計測した。夜間において、冠水していない C9285 節間内の酸素濃度が 20 kPa であるのに対し、完全冠水状態の C9285 は節間内部の酸素濃度が 3-5 kPa 程度まで低下し一定に保たれた。一方、部分冠水状態の C9285 は、夜間においても完全冠水状態よりも高い 10 kPa 程度で保たれた。この結果は、浮イネは洪水時に節間伸長し、葉先が水面上に出ることで酸素を取り込み、夜間の体内酸素濃度をある程度維持していることを示唆した。さらに、完全冠水状態での浮イネの節間伸長はどのような機構によって維持されているのかについて解析を行った。この機構には、ガスフィルムという水辺環境で生育するイネ科を含む植物が持つ形質が関与していると仮定した。ガスフィルムは水中の葉表面に形成される空気層であり、水中に溶存している酸素、二酸化炭素の取り込みを促進することが報告されている。初めに、完全冠水状態においてガスフィルムを物理的に除去した C9285 節間内部の酸素濃度変動を計測した。ガスフィルムを除去した状態の植物は、夜間において酸素濃度が 0 kPa を示し、無酸素状態であった。また日中においてもガスフィルムを除去した C9285 の節間内部の酸素濃度は、ガスフィルムを保持している植物に比べ大きく減少していた。よって完全冠水状態の植物でも、ガスフィルムにより、日中夜間ともに節間内部の酸素濃度が低いながらも維持されることが明らかとなった。次にガスフィルムを除いた状態における完全冠水状態での C9285 の節間伸長を評価した結果、ガスフィルムを除いた状態では、節間伸長は有意に減少していた。よって、浮イネは完全冠水状態でもガスフィルムによって無酸素状態にならずある程度酸素濃度が維持されることにより呼吸を維持し、継続して節間伸長を行い葉先を水面に抽出させ、大気中の酸素を摂取し、体内の酸素濃度状態の維持を行っていると考えられた。

次に第 3 章では、イネの通気メカニズムについて解析を行った。イネは葉身や葉鞘、また茎や根の植物体全体に通気組織を発達させている。これらの組織を通じて水面上に抽出している組織から水面下の組織へ酸素を供給し、呼吸を維持していると考えられている。しかしこれまでにイネ体内の気体の移動を直接観察した例はない。そこで部分冠水状態における C9285 および一般的なイネ品種 T65 に、放射性同位体窒素 13 (13 N2 )を投与し、植物体体内の気体の移動について直接的な観察を行った。両品種において、水面上に抽出している葉より摂取させた 13 N2 ガスが、時間経過に従って徐々に水面下の組織へ移動していく様子が観察された。また中空のチューブを用いた対照実験との比較により、植物体内の気体移動は拡散により行われている可能性が示唆された。さらに植物体内を移動する 13 N2 ガスは、葉において同化された 11 CO2 転流産物よりも速く植物体の基部へ到達した。以上の結果よりイネは、通気組織を通じて気体の状態で酸素を輸送することにより、冠水した組織へ効率的に酸素輸送を行っているということが考えられた。

さらに第 4 章では、節間伸長を制御する遺伝子の機能解析を行った。浮イネの節間伸長は、植物ホルモンであるエチレン、アブシシン酸(ABA)、およびジベレリン(GA)によって制御されている。浮イネが冠水すると体内にエチレンが蓄積し、蓄積したエチレンが、体内の ABA 含量の減少を引き起こすことによって、植物内での GA への感受性が増加する。そして GA が節間における細胞分裂および伸長を促進することによって、節間伸長が引き起こされる。しかしこれまでに、浮イネにおいて GA に応じて節間伸長の開始を制御する遺伝子は同定されてない。そこで、GA に応答して節間伸長を誘導する遺伝子の同定および機能解析を行い、浮イネの節間伸長機構のさらなる解明を行った。これまでに T65 と C9285 の交雑に由来する雑種集団を用いた QTL 解析により、3 番染色体および 12 番染色体に、GA に応答した節間伸長を制御する QTL が検出されている。本研究では 12 番染色体の QTL に着目し、ポジショナルクローニングを行った。その結果 GA に応じた節間伸長を制御する遺伝子として DECELERATOR OF INTERNODE ELONGATION1 (DEC1)を同定した。Yeast One Hybrid Assay により、DEC1 タンパク質は転写抑制能を持つことが明らかとなった。DEC1 の過剰発現を行った形質転換体は矮化すること、また CRISPR-Cas9 により作出した dec1 変異体は節間伸長を生育の早期に誘導することから、DEC1 は節間伸長を抑制していることが明らかとなった。DEC1 は C9285 でのみ、GA 投与に応じて発現が減少することから、浮イネ特異的な DEC1 を介した GA 感受性制御機構が示唆された。さらに DEC1は冠水によって発現が低下し、また GA 合成阻害剤と共にエチレンの前駆体である ACC を投与することによっても発現の減少が見られた。過去に浮イネでは、GA の合成酵素である GA20ox2 が冠水およびエチレンに応じて特異的に発現上昇し、冠水時における節間伸長が促進されることが報告されている。これらの結果を統合して浮イネの節間伸長メカニズムを考えると、浮イネはまず冠水特異的に体内にエチレンを蓄積する。蓄積したエチレンが DEC1 の発現を冠水初期に抑制し、GA への感受性を上昇させると同時に、GA20ox2 の発現を上昇させ GA 合成を促進する。そして合成された GA が DEC1 発現を抑制し続けることにより、GA への感受性を維持し、急激な節間伸長が誘導されているという節間伸長制御機構が考えられた。

本論文では、浮イネは洪水環境にどのように適応しているのかということについて、生理学的な観点から生物学的重要性について、分子生物学的な観点から浮イネの特異的な節間伸長メカニズムと洪水適応について解析を行った。近年、シロイヌナズナやイネに加えて、コムギやトウモロコシ、ジャガイモやトマトなど多くの種における全ゲノム情報が報告されている。将来、これらの遺伝情報を有効に用いることにより、より多くの種における環境適応メカニズムが明らかとなり、生物がどのように地球上に存在してきたのかということについての一層の理解が期待される。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る