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Functional roles of heterorhizy in water uptake of the rice root system

渡邉, 友実加 名古屋大学

2022.06.02

概要

アジアを中心とするイネの生産現場では近年、気候変動による干ばつや洪水が頻繁に繰り返されており、イネの生産性は水不足を始めとする様々な土壌水分ストレスによって大きく制限されている。このような環境下でイネが生育を維持するためには、土壌中の限られた水を根系が効率良く吸収する必要がある。イネの根系は形態・内部組織構造などが異なる、主軸根、L 型側根および S 型側根の 3 種類の個根から構成される。主軸根は種子根と節根の総称で、L 型および S 型側根を分枝する。L 型、S 型側根はどちらも主軸根または L 型側根から分枝する側根であるが、L 型側根はさらに高次の側根を分枝するのに対し、S 型側根は分枝能力を持たない。このような種類の異なる個根(構成根)から根系が構成される現象は「異形根性」と呼ばれ、様々な植物種が有する形質であるが、イネではとくに特徴的にみられる。形態や内部組織構造が異なる構成根は、土壌からの吸水において異なる役割を担う可能性が指摘されているが、これまでの研究では主に主軸根に焦点が当てられてきたため、異形根性の機能的意義については明らかにされてこなかった。側根の表面積は成熟したイネ根系の約 7 割を占めることなどにより、側根が吸水において重要な役割を担っていると考えられる。また、L 型側根と S 型側根とでは、土壌水分ストレスに対する発育応答に差異が見られることが報告されていることから、側根の種類によって、吸水機能や根系における役割が異なる可能性がある。そこで本研究では、イネ根系の異形根性に着目し、各構成根の吸水における機能と役割を明らかにすることを目的とした。根の吸水能力は、その指標となる水通導性(Lpr)を用いて以下の式で表すことができる。

水通導性(m3 s-1 MPa-1)=出液速度(m3 s-1)/吸水の駆動力(MPa)根内部の放射方向の水流に対する駆動力は、蒸散によって生じる静水圧差と、細胞間の浸透圧差に分けられ、前者による水流は表皮から中心柱の導管に向けて、より通導報告番号 ※ 第 号Functional Roles of Heterorhizy in Water Uptakeof The Rice Root System(イネ根系の吸水における異形根性の機能的役割)渡邉 友実加 抵抗(通導性の逆数)の小さいアポプラスト経路を主に経由し、後者は細胞を介したCell-to-cell 経路を主に経由する。また、それぞれの経路には水流を制御する根系形質が存在する。本研究では、水通導性に影響を及ぼすことが報告されている、根の直径(放射方向の細胞層数 )、通気組織率、内皮・外皮におけるスベリン蓄積およびアクアポリン遺伝子とタンパク質の発現量を測定し、構成根間で比較した。
さらに、根系全体の水通導性(Lpr(根系全体))と各構成根の水通導性(Lpr(各構成根))との関係を、以下の式で表すモデルが提唱されている。Lpr(根系全体)= Σ [Lpr(各構成根)×(各構成根の表面積/根系全体の表面積)]そこで本研究では、このモデルに従って、各構成根の水通導性は根系全体の水通導性と各構成根が根系全体の表面積に占める割合から推定できると考え、解析を進めた。

以上の背景を踏まえ、第 2 章では、主軸根、L 型および S 型側根の形態学的・解剖学的諸形質の差異を整理し、根系全体の水通導性と各構成根の表面積割合から、根系全体の吸水に対する貢献度を構成根間で比較した。構成根間の内部組織構造の差異として、L 型側根は、主軸根に比べ、直径が小さく、木部導管の直径が小さく数も少ないが、根を構成する基本組織には差がないことを明らかにした。これらの根では外皮・内皮におけるカスパリー帯の形成、スベリンやリグニンの蓄積、さらに通気組織の形成が観察された。一方で、S 型側根は表皮、下皮、1-2 層の皮層柔細胞、内皮および中心柱から構成される単純な組織構造を有し、下皮への疎水性物質の蓄積および通気組織形成は観察されなかった。また、イネ 2 品種(IRAT 109、台中 65)を湛水および土壌乾燥ストレス条件下でポットを用い土耕栽培し、出穂 2 週間後の根系全体の水通導性(Lpr)をプレッシャーチャンバーを用いて測定した。各構成根の根系全体に占める表面積割合と根系全体の水通導性との相関関係を調べたところ、S 型側根で有意な正の相関が認められた一方で、主軸根と L 型側根では有意な負の相関が認められた。これらの結果から、構成根の中で S 型側根は、放射方向の水通導抵抗が小さいと考えられ、根系全体の吸水に対する貢献度が相対的に高い可能性が示唆された。

次に第 3 章では、第 2 章で明らかにした、S 型側根の表面積割合と「根系全体」の水通導性との正の相関関係を、「個根」レベルで検証するために、ルートプレッシャープローブを用いて個根の水通導性(Lpr)を測定した。まず、水耕栽培における浸透圧ストレス(10%ポリエチレングリコール 6000, -0.25 MPa)処理に対して、構成根間で表面積割合における応答が大きく異なった 3 品種(IRAT 109、Swarna、日本晴)を選抜し、対照および浸透圧ストレス条件を設けて水耕栽培したイネ個体の根系から、側根を分枝した主軸根をサンプリングして水通導性(Lpr)を測定した。その結果、その水通導性(Lpr)と、総(主軸)根表面積に占める S 型側根の表面積割合との間のみに有意な正の相関関係が認められた。したがって、S 型側根は根系全体に加え、個根レベルにおいても、相対的に高い水通導性を有することが推察された。

そこで第 4 章では、各構成根におけるスベリン蓄積およびアクアポリン遺伝子とタンパク質の発現量を定量的に解析し、S 型側根の高い吸水能力を制御する根系形質の同定を試みた。イネの根は、発達に従い外皮と内皮にカスパリー帯・スベリンラメラを形成し、アポプラストバリアとして水流を抑制すると考えられている。一方で、アクアポリンは水チャネルタンパク質として知られ、細胞・液胞膜上に存在し、細胞内外に水を透過させる働きを持つ。したがって、本章では、構成根の中で、S 型側根でスベリン蓄積量が最も少なく、アクアポリン遺伝子の発現量が最も高いという仮説を立て、検証した。実験は第 3 章と同様に、対照および浸透圧ストレス条件下で IRAT109、Swarna、日本晴を水耕栽培し、ガスクロマトグラフィー質量分析法で各構成根のスベリン量を測定した。さらに、根での特異的な発現および高い吸水機能への関わりが報告されているアクアポリン OsPIP2;4 および OsPIP2;5 について、各構成根における mRNA 量をリアルタイム PCR 法で測定した。スベリン量はいずれの構成根でも浸透圧ストレス条件下で増加する傾向を示したが、いずれの条件下でも主軸根、L型側根、S 型側根の順で高く、フルオロルイエロー染色した横断切片の蛍光顕微鏡観察結果ともよく一致した。アクアポリン遺伝子発現量には品種間差があり、IRAT 109では対照条件下の S 型側根で OsPIP2;4 の発現量が最も高く、浸透圧ストレス処理により急激に減少した。Swarna および日本晴における発現量は対照条件下では構成根間で有意な差はなかったが、浸透圧ストレス条件下では S 型側根における発現が有意に増加した。浸透圧ストレス処理による OsPIP2;5 発現量は、IRAT 109 のみで S 型側根で有意に減少した。両遺伝子において、S 型側根、L 型側根、主軸根の順で発現量が高い傾向が認められた。

第 5 章では、構成根間のアクアポリン発現量の差異を mRNA とタンパク質レベルで検討した。IRAT 109 を水耕栽培し、OsPIP2;1、OsPIP2;5 および OsTIP2;1 遺伝子の mRNA およびタンパク質の発現量、さらに免疫染色で各タンパク質の組織局在性を調べた。測定した 3 種類のアクアポリンの mRNA 相対発現量は主軸根に比べて L 型・S 型側根で有意に高く、S 型側根で最も高い値が得られた。これらはウェスタンブロッティングにより検出したタンパク質発現量の傾向とよく一致していた。また、免疫染色により、各タンパク質の局在する組織が異なることが明らかとなった。

本研究ではイネ根系を構成する主軸根・L 型側根・S 型側根の異形根性に着目し、吸水能力の指標である水通導性(Lpr)を構成根毎に評価した。さらに、各構成根の水通導性を決定づけると考えられる、放射方向の水流を制御する形質を定量し、構成根間で比較した。構成根の中で、S 型側根は、主軸根と L 型側根と比較してより単純な組織構造を有し、その表面積割合が大きいほど、根系全体および個根の水通導性が増加した。さらに、S 型側根ではアポプラストバリアとして機能するスベリン量が構成根間で最も少なく、水を透過するアクアポリン遺伝子の発現が最も高く、これらの形質が S 型側根の高い吸水能力に寄与していると考えられた。一方で、主軸根やL 型側根は、S 型側根に比べてより太い導管を多数形成し、吸収した水を効率良く地上部へ輸送する一方で、通気組織を形成して根端に酸素を供給し、根の発育や分枝による根系の表面積拡大に貢献する役割を担っていると推察された。以上より、本研究は、それぞれの構成根が、根系の水吸収・輸送機能において異なる役割を担っている実態を明らかにし、異形根性の機能的役割に関する新しい知見を提供した。

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