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大学・研究所にある論文を検索できる 「口蓋突起の癒合における JAK2/STAT 経路の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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口蓋突起の癒合における JAK2/STAT 経路の役割

吉田, 尚起 大阪大学

2022.03.24

概要

【諸言】
 口蓋裂はヒトにおける顎顔面形成不全のうち最も多く認められる先天性疾患の1つであり、顎顔面の形態異常により発音障害、構音障害および審美障害が生じ患者の生活の質に大きな影響を与える。口蓋裂は二次口蓋の癒合不全により生じ、二次口蓋の癒合には口蓋突起の先端に存在するmedial edge epithelial cell(MEE細胞)が消失することが必要である。
 JAK2/STATシグナル伝達経路はサイトカインや成長因子の刺激を仲介する分子経路として、細胞の成長や分化、細胞死を調節する。JAK2/STAT経路の異常は自己免疫疾患をはじめ様々な疾患の原因となっており、の機能欠失が原因で起こる原発性免疫不全症候群の高IgE症候群では随伴症状として口蓋裂が報告されている。しかし、JAK2/STAT経路の口蓋癒合における役割は明らかになっていない。そこで本研究では、JAK2/STAT経路特異的阻害剤(AG490)を用いて口蓋突起の癒合におけるJAK2/STAT経路の役割を解析することを目的とした。

【材料および方法】
1、実験動物と口蓋組織の摘出
 妊娠したICR系統野生型雌性マウスとC57BL/6J系統野生型雌性マウスの胎仔を使用した。胎生13.0日齢(E13.0)、E13.5、E14.0、E14.5の胎仔を摘出後、口蓋組織を摘出した。
2、使用薬剤
 JAK2/STAT経路特異的阻害剤(AG490)と葉酸を用いた。薬剤の溶解にはジメチルスルホキシドを用いた。
3、口蓋組織の器官培養、回転培養、上皮接触モデルでの器官培養
 BGJb培地を用いて培養を行った。実験群はAG490を50μΜ添加し、対照群は実験群と等量のジメチルスルホキシドを添加した。器官培養はΕ13.5の口蓋組織をBGJb培地5mlを用いて37°C、5%CO2下で24または48時間培養を行った。回転培養はE13.5の口蓋組織をBGJb培地5mlを用いて37°C、50%O2、5%CO2、45%N2下で48時間培養を行った。上皮接触モデルではE14.0の左右の口蓋突起半側を摘出し、12時間器官培養を行った後、両側の口蓋突起内側縁上皮同士を接触させた状態(口蓋突起上皮接触モデル)で培養を行った。上皮接触モデルはBGJb培地1mlを用いて6、24または48時間培養を行った。
4、免疫組織化学染色
 口蓋組織から前頭断の凍結切片を作製した。一次抗体は抗Stat3抗体、抗pStat3抗体、抗pStat1抗体、抗pERK抗体、抗p63抗体、抗E-cadherin抗体、抗Ki-67抗体を用いた。二次抗体は抗マウスIgG抗体、抗ウサギIgG抗体を用いて染色を行った。
5、ウェスタンブロッティング法
 培養した口蓋組織の口蓋突起を摘出して用いた。一次抗体は抗Stat3抗体、抗pStat3抗体、抗pStat1抗体、抗pERK抗体、抗α-tubulin抗体を用いた。二次抗体は抗マウスIgG抗体、抗ウサギIgG抗体を用いた。
6、ヘマトキシリンェオジン染色
 培養した口蓋組織から前頭断のパラフィン切片を作製し、染色を行った。
7、アポトーシスの検出
 培養した口蓋組織から前頭断の凍結切片を作製し、TUNEL染色法を用いて検出を行った。
8、in situ hybridization法
 培養した口蓋組織から前頭断の凍結切片を作製し、Sox2の検出を行った。
9、レーザーマイクロダイセクションを用いた全RNA精製とRT-qPCRによるmRNAの定量
 培養した口蓋組織の口蓋突起上皮をレーザーマイクロダイセクションにて回収し、全RNA精製した。RT-qPCRによりSox2, Tgfβ3, Rn 18sのmRNAの定量を行った。

【結果】
1、口蓋突起癒合時の口蓋突起上皮においてStat3のリン酸化は増加する
 二次口蓋の癒合前であるE13.0、E14.0、E14.5の口蓋突起におけるStat3のリン酸化を観察したところ、口蓋突起癒合直前であるE14.0からE14.5にかけて口蓋突起上皮でStat3のリン酸化が増加していることが示された。
2、AG490投与により口蓋突起におけるStat3,Stat1,ERKのリン酸化は減少する
 AG490を添加したBGJb培地を用いて、E13.5から24時間器官培養を行い、口蓋突起癒合直前の口蓋組織を観察した。実験群は対照群に対して口蓋突起でStat3, Stat1, ERKのリン酸化が減少した。
3、AG490投与により二次口蓋癒合は阻害される
 AG490を添加したBGJb培地を用いて、E13.5から48時間回転培養を行い、口蓋の癒合を観察した。実験群は18匹中5匹口蓋が癒合したのに対し、対照群は18匹中16匹で口蓋が癒合した。AG490の投与により二次口蓋の癒合が阻害されることが示唆された。
4、AG490投与によりMEE細胞消失は阻害される
 AG490を添加したBGJb培地を用いて、E14.0から器官培養を行い、口蓋突起接触上皮を観察した。接触開始6時間後では実験群でMEEにおけるTUNEL陽性細胞が減少した。接触開始24時間後では実験群でMEEにおけるTUNEL陽性細胞の減少とKi-67陽性細胞の増加を認めた。接触開始48時間後では実験群でMEEが残存したのに対し、対照群ではMEEが完全に消失していた。p63はMEE消失前に消失することが知られているが、実験群では残存したMEEにp63が認められた。
5、AG490投与により口蓋突起上皮における遺伝子、热伝子発現は減少する
 ヒトではSOX2の変異により口蓋裂が生じ、Sox2⁺/⁻マウスは口蓋裂が生じることが報告されている。また、Sox2は口蓋癒合時の口蓋突起上皮で発現することが知られている。
 AG490を添加したBGJb培地を用いて、E13.5から48時間器官培養を行い、in situ hybridization法を用いてSox2を検出した。また、培養後の口蓋組織からレーザーマイクロダイセクションにて口蓋突起上皮を回収し、mRNAの定量を行った。実験群は対照群に対してSox2遺伝子の発現が約40%に低下していた。口蓋上皮の癒合において最も重要な遺伝子の一つである遺伝子の発現は実験群が対照群に対して約50%に低下していた。
6、葉酸によりAG490投与での口蓋突起癒合不全は回復する
 葉酸はStat3を活性化することが知られている。葉酸とAG490を添加したBGJb培地を用いて、E14.0から器官培養を行い、口蓋突起接触上皮を観察した。接触開始48時間後ではAG490投与群はMEEが残存したのに対し、AG490+葉酸投与群ではMEEが一部消失しており、MEEにおいてStat3のリン酸化が活性化していた。

【考察】
 本研究によりAG490を用いてJAK2/STAT経路を阻害すると、MEEが消失せずに口蓋突起の癒合不全が生じることが明らかになった。そのメカニズムは、口蓋突起癒合直前の口蓋突起上皮におけるStat3のリン酸化が抑制されることで、MEEでのSox2発現が低下するためと示唆される。Sox2発現の低下はMEEでのp63の消失、アポトーシスの増加、増殖能の減少を抑制することでMEEの消失を阻害した。さらに、葉酸によりAG490投与による口蓋突起の癒合不全を一部回復できることを示した。
 本研究結果により、JAK2/STAT経路が口蓋突起の癒合において重要な役割を持つことを示し、葉酸がJAK2/STAT経路の異常による口蓋裂の治療に有効である可能性を示した。

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