蓄積したリン酸は使えるか:一部の作物の根や微生物に溶かし出す「能力」はあるが
概要
蓄積したリン酸は使えるか:一部の作物の根や微生
物に溶かし出す「能力」はあるが
著者
雑誌名
巻
号
ページ
発行年
URL
谷 昌幸
ニューカントリー
67
2
52-53
2020-02
http://id.nii.ac.jp/1588/00004623/
前回は畑の士、 特に里山、ボ
、 残りの何iw%
15%で
る。果たして、どのような
く低い難溶態リン酸であ
フ
フ
も
あるいは 9 0 0J d
のリン酸が蓄積しているこ
とを前回説明した。これま
形態のリン酸が土にたまっ
は利用できる可能性が著し
酸が蓄積している実態につ
で印年以上にわたってリン
ているのだろうか。
キd
ロ
いて説明した。土の中に蓄
に施用してきた圃場では、
酸肥料や堆肥などを継続的
ク土には大量の難溶態リン
積しているリン酸を作物が
同程度のリン酸が蓄積して
いると考えてよい。小麦や
馬鈴しょなどの 一般的な作
物は、 1年間に刊 バ当 たり
2 キロdフ程度 のリン酸を吸収
できれば十分で、土にた
ま ったリン酸を取り出せれ
ば
、 4 0 0年 分 以 上 に な
る。まさに宝の山である。
しかし、 蓄積した多量 の
時桜丸刈
出酸
けン﹁悦服
m
溶リ
にた
‘
v
h・
fv
4dLQ
ゴライトなどの特殊な粘土
含まれるアロフェンやイモ
鍵が水に溶ける有機物の 一
2左︶。この結合を外せる
ため水に溶け出さない︵図
菌糸からクエン酸などを出
キノコやカビの仲間の菌は
る。特に菌根菌と呼ばれる
溶かし出せる種類が存在す
である。
いなくなった。これが事実
も数日後にはその菌は全く
手 粘 土鉱物
よ
し
、
に表 層土 を採取し、 含 まれ
るリン酸の形態を調べた
︵
図 1︶。無施用区は化学
肥料や堆肥を 一切施用しな
いで 4年輪作を続けた区、
化学肥料区は各作物の施肥
を施用し続けた区、堆肥連
標準量に相当する化学肥料
用区は化学肥料に加えて牛
糞バlク堆肥を刊バ当たり
1 ・5 施用し続けた区、
ト
堆肥倍ン
量区は化学肥料に加
えて同堆肥を印 バ当 たり3
J
施用し続けた区である。
卜
るが、あくまでも試
り得ないことではあ
の生産者圃場ではあ
し続けるとか、 実際
化学肥料を全く施用しな
いとか、堆肥を連用
人山儲
子
﹀一
棋
が有
乃
,
験として行われた結
イ有
図1を見ると、化
果である。
ンど
酸の
jな
売酸﹁
飢、防世
酸が増え、特に剖
のが明らかである
o
M型リン酸は凶年日
月号で説 明したよう
に、黒ボク土などに
が出すシュウ酸やクエン酸
一部の作物の根や微生物
理論的には可能でも
現実的には不可能
物け子
鉱溶位
ミウれ
凡 ユ入
アシと
のる﹀
ウ 、わ
ニ酸替
ー
ド
允
一
一
﹂
︵アルミニウム︶型
川一ン水
︵ エて リン酸が増えている
ムク っ
土口 7J
は
山 J溶
ることで無機態リン
学肥料を施用し続け
オ機
一
2 ZJ
PL
J3 ︿花、滝川断
才
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mエ O一
vr ほ 71r
k
aし 直 一 手
らお年経過した 2000年
された化学肥料や堆肥の長
期連用圃場で、試験開始か
場︶に 1975年から設置
道立十勝農業試験場︵現
在の道総研十勝農業試験
堆肥を連用すると
わずかに有効態が増加
吸収するととはできるのだ
ろうか。 できるとすれば、
どのようにすればいいのだ
ろうか。今回は畑の土に蓄
積している難溶性リン酸を
取り出す可能性について解
説する。
取り出せれば宝の山
しかし大半は難溶態
十勝地域の黒ボク土畑土
リン酸のうち、作物が利用
型︶
F
・
一一
山
下
﹄ 一鉱 山
型一
態
一
A機
一
鉱物の表面にある削と直接
種、少し難しい言葉ではあ
フルボ酸も能力持つが
は、フルボ酸と呼ばれる溶
堆肥や泥炭などの中に
供給できない。理論的には
が吸収するリン酸を十分に
力を持つが、実際には作物
溶態リン酸を溶かし出す能
N
養分を溶かし出したりし
ている。フルボ酸は土の中
存有機配位子が多く含まれ
可能でも、現実的には不可
溶存有機配位子
そばは痩せ地でもよく育
て作物に養分を供給する
にも含まれている腐植物質
能と考えた方がいい 。堆肥
などの溶存有機配位 子は難
つといわれている。そばは
る。菌根菌は養分を溶かし
能力があると知られてい
の一種で、その 一部は水の
や泥炭などに含まれるフル
期待できないレベル
︶
化学。
肥料に加えて堆肥を
根からシュウ酸という溶存
出して作物に与える代わり
中に溶け出し、クエン酸や
ボ酸も、堆肥などを連用す
し出したり、土の鉱物から
連用した場合、わずかでは
に、作物から炭水化物など
シュウ酸などと同様に難溶
ると濃度が増加するが、難
H
あるが臼型リン酸が増えて
と結
有機配位子を出し、川刷 、
合したリン酸を溶かし出し
の栄養を受け取る共生関係
態リン酸を溶かし出す能力
溶態リン酸を溶かす能力は
れるリン酸は化学肥料に含
である。実は、堆肥に含ま
の剖型リン酸が増えること
ン酸だけではなく、無機態
有機質肥料を施用している
にもかかわらず、有機態リ
驚きなのは、堆肥のような
吸収できる可能性が高い。
出してリン酸や他の養分を
は、作物の根が
い
。
一般的な農業書などに
な能力は認められていな
とんどの作物にはそのよう
ことが知られているが、ほ
溶態リン酸を溶かし出せる
ンゴ酸などの溶存有機配位
子を出すことによって、難
作物は根からクエン酸やリ
て吸収できるととが知られ
ている︵図 2右
︶
。 一部の
数の微生物がおり、特定の
る。土 の中にはもともと無
えば、現実 には不可能であ
ン酸を溶かし出せるかとい
人 工的に培養して増やし、
土の中に入れれば難溶態リ
うな能力を持った微生物を
ビ︶や細菌がいる。そのよ
力を持っている糸状菌︵カ
て難溶態リン酸を溶かす能
には溶存有機配位子を出し
かし実際の畑の士に含まれ
る水に溶けているフルボ酸
凶年2月号で解説した。 し
供給する働きがあることを
酸キレート﹂として養分を
を溶かし出し、﹁鉄|フルボ
ルボ酸が鉄などの微量元素
植物質が多く含まれてい
る。 その中でも分子サイズ
肥には、水に溶ける溶存腐
好気的な発酵を行 った堆
次回は畑の土でリン酸が
働かないのと同じである 。
収できる窒素が多かったり
を入れたり、土に作物が吸
力を発揮しない。窒 素肥料
物も微生物も持 っている 能
まりリン酸が本当に不足し
ている状態でなければ、作
るリン酸が少ない状態、つ
吸着を抑える程度である 。
あまり高くなく、リン酸の
畑の土に蓄積している難
特定の微生物だけを
増やすのはあり得ない
菌根菌以外にも、士の中
まれる水溶性リン酸やク溶
溶かし出せると書いてある
はあり得ないことなのであ
微生物を入れて増やすこと
の濃度は低く、難溶態リン
欠乏しているのか、過剰な
溶性リン酸の多くは剖型リ
のかについて説明する。図
すると、根粒菌がほとんど
土の中に作物が吸収でき
性リン酸と類似した形態
が、あくまで 一部の特殊な
る。難溶態リン酸を溶かせ
酸を溶かし、
出す能力はほと
リン酸施肥が本当に必要な
が小さくて反応性が高いフ
で、堆肥を施用しでも増え
作物だけの能力である 。
るリン酸溶解糸状菌の 一種
んど期待できないレベルで
を
るのは主に剖型リン酸なの
土の中の微生物には、ク
を土に入れる実験をしてみ
ある 。
M
根
酸
である。
エン酸などの溶存有機配位
たところ、どれだけ入れて
d
ン酸で、鉱物の表面にある
子を出して難溶態リン酸を
アルミとの結合を外す
鍵は水に溶ける有機物
剖と直接的に結合している
と呼ばれる部分で、作物が
いる。これが有効態リン酸
が成り立 って いる 。
を持っている︵図2右
︶
。
︵
図2
的に結合したリン酸で、ほ
一一
一
型一
一
瓦
一
一
︵
−
日,
PO
,
一
して、難溶態リン酸を溶か
区区区
区料用
量
用肥連倍
施学肥肥
無化堆堆﹁
図 2 粘土鉱物の表面に特異吸着されたリン酸イオンの溶存有
機配位子による溶出の可能性
と
修了。博士(農学)。同年帯広畜
産大学畜産学部助手、 2
0
0
3年同大
助教授、 1
5年から現職。 1
9
6
8年大
阪市生 まれ。
るが
1
9
9
5年筑波大学大学院農学研究科
とんど水に溶け出さず、作
リン酸量 (
gP2
05
/
k
g
)
1
2
3
4
ωバ当たり800
できる可能性が高い有効態
5
。
H,
PO,
ー
フルボ殴
リン酸の割合はた ったの 3
図 1 十勝農業試験場の連用圃場から採取し
た表層土壌における形態別無機態 リン
酸および有機態リン酸
壌では、
まさ ゆき
たに
呼ばれるものだ。
谷昌幸
物にとっては利用できない
グローバルアグロメディシン
研究センター教授
52
ニューカントリ ー2
0
2
0. ...