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大学・研究所にある論文を検索できる 「新型コロナ対策下の実務事前実習の運用設計と室内二酸化炭素濃度を指標とした室内換気評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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新型コロナ対策下の実務事前実習の運用設計と室内二酸化炭素濃度を指標とした室内換気評価

濱田 真向 鯉沼 卓真 戸張 裕子 堀 祐輔 東京薬科大学

2022.03.31

概要

1.背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による全社会的防疫対応は、2019年度末から大学教育活動へも影響し、新年度にかけて事態緊急事態宣言の発出が予測された。東京薬科大学(本学)では、2020年度までに大学全体の感染対策方針(TOYAKUルール)を定め、感染予防環境下での対面授業を、全てオンライン授業に置き換えるカリキュラム再編が進められた。実務実習事前学習Ⅰ(事前学習Ⅰ)および実務実習事前実習(事前実習)は、薬学部5年次の実務実習のための4年次のカリキュラムであり、対面の小グループ単位での参加型授業を前提としている。しかし、TOYAKUルールに準拠して実習実施の再構成を進め、計画的にWeb授業への置き換えが余儀なくされた(図1)(1)。
一方で、薬学部5年次の実務実習の前提となる、2020年度薬学共用試験(OSCE(Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力試験))の試験形式が感染対策のために変更されて実施される(2020/12/19)のを受け、TOYAKUルールのもとで、実施可能な対面授業となる実習形式を検討し、2020年度OSCEに対応する準備を検討した。そして感染状況の一定の環境改善もあり、例年の夏期休暇の終了後の時期(2020/8/25〜9/4)に、任意出席とする自習型の補講的実習の実施が決定され、実習室内の学生密度を極力下げるために、最大25名合計18グループで、いわゆる「3密」を避けるための対応しうる感染予防対策を施した実習を実施した(図2)(1)。さらに、OSCE前の実技の振り返り実習に相当する実務実習事前学習Ⅱは、従前の補講的実習の感染対策形式を活かして、例年通りのカリキュラム・スケジュール(2020/12/3〜12/15)で実施された。
2021年度の事前実習は、2020年度の事前実習形式を維持しつつ、通常カリキュラムで実施可能なカリキュラムに変更された。既存の全体カリキュラム内の実施可能な科目コマ数内で、1学科4グループ合計12グループとした1グループ最大39名(通常48名)単位で「3密」を避ける実習を実施した。2020年度に施行され実習よりも1グループ内学生が多いので、換気をより効果的に実施する方法により、その効果を評価する方法が検討され、実習内での換気効果の基準を定める必要性が高まった。

2.目的
2021年度事前実習では、実施科目は例年通り全て実施し、1グループ当たりの学生数をより小人数で実施し、実習室内の換気の徹底を計って一定の換気効果を得る方法が検討された。小人数とはいえ実習内容は通常通りとし、①実習室の構造、②実習内の学習内容や方法による学生の動き、③換気方法、といった条件で換気効果が異なると予想された。そこで、実習時の室内の二酸化炭素濃度を測定し、その濃度変動に着目して、①値の変動から換気効率の指標を得て換気効果を評価し、②換気方法を改善して一定の実習内での感染予防対策とし、③換気方法の基準を定める事を目的とした。

3.方法;実習実施状況と二酸化炭素濃度測測定適用方法
連続測定とデータの記録ができる二酸化炭素濃度測定器((株)FUSOデジタルCO2濃度計;MCH-383SD)を用いて、対象とした実習室の中央付近に機器を設置し、実習開始から終了までの二酸化炭素濃度を連続測定して記録した。事前実習は、3学科で、1グループ最大39名で合計12グループに分けられ、カリキュラム内で同じ科目が12回実施された。この中から、カリキュラムスケジュールに沿って、1科目2回以上の測定をおよそ230分単位で測定した。測定の結果、他の科目よりも二酸化炭素濃度の増加変動が著しい場合は、追加測定を行い、その原因の検討と改善を図った。同時に、気象庁の過去の気象データ検索(4)から、特に風速に注目して、換気への影響を考察した。
測定および記録は、時間に対する二酸化炭素濃度値(ppm)として記録され、これを測定機器からUSB経由で各測定値/時間が記録されたCSVファイル形式で取得された。これらのデータは、表計算ソフトウエアExcel上で処理し、グラフ化して可視化することで、二酸化炭素変動を概略的に評価できる様にした。特に濃度変動が大きかった「製剤」実習を対象に、実習内容(学生の動き)を時間単位で二酸化炭素濃度変動に結合する事で、学習方略および実習内の学生の動きと換気との相関を検証・観察し、実習教室と換気の課題および改善方法を検討した。さらに対策前後を比較して、対策の効果を確かめるために、二酸化炭素濃度変動を指標として再検証した。
改善方法は、①実習室の開放する窓の面積、②開放窓の数、③外気を強制的に室内に送風するための窓前の扇風機の設置、④室内への複数サーキュレーターの設置、⑤廊下フロアにある窓の開放、といった機動的に対応可能な強制的換気方法が、気候、時間帯を考慮して組み合わせられた。実習室の開放可能な窓①には、本学全体の事前対策として、網戸が設置されている。窓⑤は、開き戸で網戸の設置はないため、雨の侵入や強風時の制御は、開閉のみの対応だけである。
なお二酸化炭素濃度の基準値は、1500ppm(文部科学省指針(5))であるが、本研究調査の測定は、室内の確定的な二酸化炭素濃度測定を目的とせず、換気量の指標に用いる。実習室内の二酸化炭素濃度の実際の確定には、検知管法との比較が必要だと考えている。また、室内の換気量については、気流測定する事でより正確な測定ができると考えられるが、本調査研究では、二酸化炭素濃度の実習室使用前後(学生の在室有無)での相対的な変量の観測で換気された状態かを判断した。

4.結果
先行的試験測定の実施と結果
実際の実習時の実習室内で、実習の動きと共に二酸化炭素濃度がどのように変動するかを知るため、先行的な測定試験を実施した。これによって変動の幅を観測し、変動最高値と実習の中での学生の動きや換気状態を観察することで、換気の上限を計測し、その後の基準の目安とした。
図3は、調剤系の「計数」実習の実習説明とペーパーワーク、情報系の「薬局受付」の実習のロールプレイが含まれた実習で、事前実習の初回から実施された実習であることもあり先行的な測定対象とした。測定の結果、実習内容の進行に合わせ二酸化炭素濃度が上昇し、どちらも1000ppm(赤ライン)が上限となることが示された。また、実習の学生の動きが落ちつき、サーキュレーターの調整などにより、上昇点から徐々に低下することも確認された。この結果から、1000ppmを基準として他の実習内の二酸化炭素濃度の変動の目安に利用した。
結果−1)調剤系の実習
調剤系の実習の測定対象事例として、4F「散剤」、5F「無菌」、を対象として測定された結果が、図4に示されている。濃度変動は、600〜800ppmの範囲で実習の進行にともなった増加する傾向が見られるが、ピークが出現するなどの急な変動も観測されなかった。「散剤」の実習室では、実習用に散剤を計量調剤するため、電子天秤が常設され、各種散剤や薬包紙が配置されている。そのためサーキュレータの様な強い流量の風で換気する仕組みを避けている。「無菌」の実習室は、模擬的な無菌操作を実習するために、無菌用調剤ベンチが設置されており、強制的な風による排気は行われていない。これらいずれの実習室も窓やドアの開閉によって換気されている。また学生は、1名ずつ専用の調剤ブース(一人用の調剤棚と調剤台のセット)、または調剤ベンチ(ガラス仕切りの無菌用ベンチ)内で調剤操作の練習を実施し、学生同士のディスカッションや会話はない。

結果−2)情報系の実習
調剤系の実習の測定対象事例として、6F実習室で実施された「患者心理」と「初回面談」および4Fで実施の「服薬説明」の結果が、図5に示されている。これらの実習では、学生間ディスカッションや、模擬患者とのロールプレイが複数回実施される。情報系の実習では、会話によるコミュニケーションが必須であるため、実習室内の換気補助システムとして、扇風機や各ブース毎にサーキュレーターが設置されるなど、事前の準備が整えられた。「患者心理」の実習では、スモールグループディスカッション形式に実習が進行するため、学生間の会話の頻度が高い状態である。換気方法は、窓や扉の開閉による自然換気に、床置き型の扇風機の設置で補助する形式であった。
「初回面談」実習では、壁サイドにコンパートメント化された複数の模擬病室のベットブースが常設されており、模擬患者とのロールプレイは、そのブース内で実施される。実習室全体は、窓や扉の開閉による自然換気に、出入口付近に設置した床置きの扇風機で補助する形式であった。さらに、ベッドブース内全てにサーキュレーターが設置されており、ロールプレイブースの中も測定対象として観測した(図5-d)。この結果、600ppm前後の実習室中央部の値と比べて、ベッドブース内は800ppmと高い値を示しているが、平衡状態を保ち、目安の1000ppmを越える値には至っていない。


結果−3)実験系の実習
実験系の実習の測定対象事例として、6F「製剤」の実習室の1回目の測定結果が、図6−aに示されている。さらに、図6−bは2回目の測定の結果であるが、実習内容および進行は、ほぼ同じ状態であったにもかかわらず、二酸化炭素濃度の上昇が著しく高まり、スタートポイントの600ppmから一貫して上昇し、最高値1500ppm(図6−c)まで達して、ほぼ実習終了時まで継続した状態が記録されている。図7は、測定日(5/18)の気象データ(図7−a)と測定場所の「製剤」実習室のがある本学教育5号館6Fの位置を示す概略図(図7−b)を示している。
二酸化炭素濃度がピークに達する時間帯(図6−bのc)で、風向が北(図7−a)となり風速が3.6m/sの二酸化炭素濃度変化グラフは、図4-aで示されたデータのグラフから同様の変化パターンの変動で推移しているが、濃度強度が大きく、1000ppmに達した。測定日(2021/05/21)の気象データは、測定時間帯(9:00〜13:00)で風速平均2.7m/s、風向は北西から北の間(図7−c方向からの風)で概ね推移した。「散剤」の実習室は、6Fに位置する「製剤」の実習室の真下の4Fに位置しており、また隣接の建屋に窓が面する状態である。このため、窓を開放していも自然換気量が減る条件にあったものと考えられる。また、担当者へのインタビューで、該当の測定日は、出入口の開放が不十分であり、その後必ず開放する様に改善した旨を聞き取った。これらの測定時の環境要因に、図8-aに示された測定結果は一致すると思われた。図8-bは、出入口の開放を十分にする改善後の測定結果(2021/05/25)のグラフで、気象データは、測定時間帯(9:00〜13:00)で風速平均3.6m/s、風向は北東から南東に推移して(図7−c方向からの風がd側に推移)おり、前半の風の条件は事前換気量が減る条件で、図8-aに類似している。しかし、二酸化炭素濃度の大きな上昇は無く、換気の流路の確保によって濃度に差が生じることが示された。

結果−5)換気の補助による改善
図9は、本学教育5号館の6Fの概略図で、「製剤」の実習室のフロア上の位置と、実習室内部を概略して示している。図9−aには、開放できる網戸設置の窓が3箇所あるので、ここからの自然換気を補助する3台の扇風機(図9−b)および廊下側に風を送り出す(図9−c)扇風機1台を設置した。さらに、天候に合わせて開き戸(図9−d,e)を開放してフロア全体の自然換気を促した。これらを、換気の改善として全て実施し、二酸化炭素濃度を測定して図10−bの濃度推移のグラフが得られた。気象データは、測定時間帯(13:00〜17:00)で風速平均3.0m/s、風向は南南東(図7−d側方向からの風)であったが、実習室内での体感では、ほとんど風の吹き込み感じられない状態であった。一方で、二酸化炭素濃度の上昇パターンはこれまでと類似してるが、1000ppmを下回る状態(図10−b)が記録されており、効果的な換気状態が示されたと考えられる。

5.考察
考察−1)換気の指標としての二酸化炭素濃度の利用の有用性
二酸化炭素測定器を用いて、実習室内の換気効果の指標とするため、実習実施内容からペーパーワーク、スモールグールプワーク、個人ブース単位の実習、会話をともなうロールプレイおよび実習室の窓や入口の配置構造から推察される二酸炭素濃度変化の実測し、その変動を直接観察できた。先行的な試験測定を繰り返した過程で、1000ppmが一定の基準となり得ると想定し、各実習内での測定が実施された。実際のデータ観察から、概ね妥当な基準である事が確かめられた。また、実習内での学生の動きに応じて、二酸化炭素濃度が変動する事が示され、実習内容に対応する換気方法を改善する事で、濃度上昇といった変動が管理できる事が示された。図3−bでは、1000ppmより十分低い範囲でロールプレイが開始され、その後学生の動きが始まると濃度上昇が起こっているが、事前に準備されたサーキュレータの稼働により、濃度を低下させる事ができており、換気の補助作業を二酸化炭素濃度変動から観察できる事が示され、換気指標としての有用性が示された。

考察−2)調剤系実習の換気状態
学生個別の調剤ブースが設置されている調剤系実習の「散剤」や「無菌調剤」の結果−1から、換気の状態が一定であれば,自然換気で十分な換気が得られる事が示された。一方で、「散剤」の実習の建屋内での場所と気象および換気通路の条件が重なると、十分な換気できない事が結果−4から示され、同時に換気通路を確保できれば、十分な換気効率が得られる事が示された。これは、フロア構造として、これらの実習室の建屋の南北対称に位置する場所に窓があるための効果と考えられる(図12)。

考察−3)情報系実習の換気状態
情報系実習の観察対象であった「患者心理」と「初回面談」および「服薬説明」では、実習内で実施される学生の会話によって、二酸化炭素濃度が高まると事前に想定されており、そのための換気補助が準備されていた。測定からも、学生のロールプレイ時や個別ブース内での濃度上昇が結果−2で示されたが、1000ppm以下で十分制御されていることが確かめられ、換気の補助の有効性が確認された。また、使用した実習室は、窓対出入口が直線で結ばれ、かつ建屋の南北対称に位置する場所に窓がある構造(図12)で、実習室の建屋内での配置が有効に機能したと考えられる。

考察−4)実験系実習の二酸化炭素濃度上昇の原因と換気改善実験系実習である「製剤」の実習は、図11−aで示されるに、ワークブックに記された課題と手順をこれでの基礎実習で学んできた手順を応用しながら、自由選択した器具や製剤原料を選択して実習時間内で製剤する。この結果、学生が自由に動き、共有器具や材料を使い回したり、ペアーと協力するなど、実習内の学生の活動度が高まるように学習プログラムされている。このため、換気が低下すると二酸化炭素濃度が、他の実習よりも著しく高く観測されたことが結果−3で示されたと考えられる。また、建屋内での実習室の配置が、窓対出入口が直角方向である事が、換気通路の障害として更に大きく影響したと考えられる。さらに、他の実習室と異なり、唯一建屋の南北対称に位置する場所に窓ない事が影響している(図12)。これらの観測結果を参考に、換気補助を進めた結果、他の実習よりも二酸化炭素濃度が高い方向に変動し易いが、1000ppmを下回る制御が可能な事が、結果−5から示された。図11−bは、同類の「配合変化」の実習の課題と手順リストで、項目数は少ないが、作業手順にはpH測定、アンプルカット、器具の取り回しなど、「製剤」同様に学生の活動度が高い実習である。しかし、「製剤」の実習での改善後に実施され測定の結果、二酸化炭素濃度の変動範囲は、いずれの実施日でも600〜800ppmとなり、換気が有効に機能したと判断された。

6.結論;
二酸化炭素濃度測定により、①感染予防対策として実施された実習室の換気の徹底を、数値化して確認できる事を証明した。②実習内容によって想定された換気の補助の必要性とその準備が、有効に機能する事や③改善できることを証明した。一方、これらの結果から大学施設としての建屋の換気に関わる基本構造(図12)や機能として持つべき換気能は、現状では十分ではない可能性が示唆されたたので、今後の改善に本研究の手法が活かされれば、改善できると考えられる。

参考文献

1)東京薬科大学研究紀要, 24, 81-84 (2021)

2)東京薬科大学研究紀要, 23, 69-74 (2020)

3)東京薬科大学研究紀要, 23, 51-54 (2020)

4)https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/hourly_a1.php?prec_no=44&block_no=0366&year=2021&month=05&day=25&view=p1

5)https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/04062201/026.htm 補遺:図表の公開 URL:http://www.ps.toyaku.ac.jp/~hamada/2021kiyo/

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