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大学・研究所にある論文を検索できる 「糖尿病診療で認知機能検査を検討すべきハイリクス群の探索および酸化ストレスマーカー測定の有用性の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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糖尿病診療で認知機能検査を検討すべきハイリクス群の探索および酸化ストレスマーカー測定の有用性の検討

小林, 由佳 東京大学 DOI:10.15083/0002002378

2021.10.13

概要

【背景】
 糖尿病の存在は認知機能低下のリスクファクターであることは数多く報告されているものの、糖尿病通院患者の認知機能をどのタイミングで検査を実施すべきかの一定のコンセンサスは未だ得られていない。糖尿病診療で認知機能低下の有無を早期に発見することは治療方針を決定する上で重要な要素となる。しかし、実際の外来診療における限られた時間で全例に認知機能検査を行うことは現実的でない。そのため、糖尿病通院患者において認知症検査を積極的に行うべき認知機能低下のハイリスク群を同定することは、今後さらに増加する糖尿病の診療の質の向上に大きく寄与する。また、糖尿病と関連の深い酸化ストレスが認知機能に影響を与えるという仮説は有力であり、酸化ストレスは糖尿病合併症である動脈硬化性疾患を悪化させる。そこで糖尿病治療中の患者において認知機能低下を予測しうるバイオマーカーを探索し酸化ストレスの糖尿病合併症への影響を探索するために当科入院患者200名を対象に横断的観察研究を行った。

【研究その1】
 当科入院患者200名から同意を取得し、除外基準に該当した12名を除いた188名を対象とした。対象患者において入院時の採血、合併症の進行度、生活背景、担当医療スタッフによるアンケート、外来通院患者は過去4年分の外来採血データ等と認知機能検査(MMSE)との関連を解析した。結果、対象患者全体でMMSEと有意に正の相関を示したのがBMI、腹囲、最終学歴、体脂肪率、基礎代謝、c-LDL、補正四肢筋量(ASMI)であった。対して負の相関を示したのは年齢、退職後の年数、脳梗塞既往、アンケート(外来医、入院担当看護師、入院担当医)、酸化アルブミン27OH-Cho補正値であった。性別ごとの解析では、男性ではMMSEと正の相関を示すのがBMI、腹囲、喫煙歴なしvs過去に喫煙あり、基礎代謝、c-LDL、ASMI、eGFRであり、負の相関を示すのが年齢、退職後の年数、虚血性心疾患既往、降圧薬使用の有無、アンケート(外来医、入院担当看護師、入院担当医)であった。女性ではMMSEと正の相関を示すのはBMIのみであり、負の相関を示すのは年齢、退職後の年数、脳梗塞の既往、アンケート(入院担当看護師、入院担当医)、27OH-Cho補正値であった。性差を問わず正もしくは負の相関を認めたのは正の相関がBMI、負の相関が年齢、退職後の年数、アンケート(入院担当看護師、入院担当医)であった。アンケート以外の項目でステップワイズ解析を行いお互いに関連がある項目のうち影響の強い方を残すと、全体でMMSEと強く関連していると考えられるのは年齢と27OH-Cho/コレステロール比のみ。男性は年齢のみ。女性では退職後の年数、脳梗塞・脳出血の既往、27OH-Cho/コレステロール比であった。入院患者のうち、当科外来を4年以上通院している患者68名では、MMSEと有意に正の相関を示すのは最大BMI、最小BMI、最大dBP、最小dBPであり、負の相関を示すのは年齢であった。ステップワイズ法を用いると最小BMI、最小dBPが残るため、BMIが常に高い人または拡張期血圧が常に高い人では認知機能は低下していなかったことが言える。男女別で男性は最小BMI、最小dBPで正の有意な相関、年齢で負の有意な相関があり、こちらは全体の外来患者の解析とほぼ同じ結果となった。一方女性では最大sBPのみがMMSEと正の相関を示し、負の相関を示す項目はなかった。個々の項目のMMSEとの関連はあるものの寄与度はさほど大きくはなく、総合的には医療者の受ける印象つまりアンケートが強く認知機能と相関があることがわかった。
 解析結果で、たとえ1回のみの診察であっても総合的な医学知識を基にした外来主治医の認知症を疑う判断能力は高いということが分かった。しかし、主治医が全く認知機能低下を疑っていない症例で実際は軽度の認知機能低下がみられる患者は存在した。主治医が疑わなかった症例で認知機能低下と関連が見られたバイオマーカーは早朝収縮期血圧、脈圧、神経障害の有無、eGFRであった。外来診療内で迅速に検査が出来、なおかつ患者のコンディションによる変動幅が小さいのはeGFRであることからeGFRを用い認知機能低下が疑われる患者の絞り込みを行った。主治医に認知機能低下の可能性が10%未満と判断されeGFRが測定された80人の患者でMCI以下の認知機能低下の有無でeGFRとのロジスティック解析を行い、ROC曲線を描いた結果eGFR68ml/min/1.73m2でAUC0.718、感度0.73特異度0.69であった。真陽性11名、真陰性45名、偽陽性20名、偽陰性4名であり、主治医に認知機能低下を見落とされる可能性あった15名のうち73.3%はeGFR68ml/min/1.73m2をカットオフとして拾い上げることが可能であった。また、主治医が認知機能の低下がある可能性は10%未満であると判断した患者群で実際は認知機能低下があった患者はいずれもeGFR82ml/min/1.73m2未満であった。以上のことから
 ①  主治医が認知機能低下を疑った場合には率先して認知機能検査を行う。
 ②  認知機能低下を疑わなかった場合でもeGFR68ml/min/1.73m2以下であった場合には優先的に認知機能検査を行う。
 ③ ①②に該当しなかった場合でもeGFR82ml/min/1.73m2未満の場合には認知機能検査を検討してもよい。
以上のプロセスで限られた診療時間の中、糖尿病患者での認知機能低下を効率的に発見できることが判明した。また、オキシステロール、中でも27-OHC/コレステロール比が認知機能低下と強く関連していることが判明した。正常な細胞を攻撃する生体内の反応には大きく分けて糖化と酸化が挙げられる。糖化を示すマーカーはグリコアルブミンやHbA1cのように数種類報告されており糖尿病診療における臨床的意義が確立している。対して酸化状態のバイオマーカーは報告こそされているものの保険収載されておらず手技も煩雑になるため日常的に臨床応用されているとは言い難い。今回の研究では対象患者の一部でオキシステロールと酸化型アルブミンの測定を行った。オキシステロールは前述のように認知機能低下と関連がみられ、今後の酸化マーカーの認知症領域での可能性を示唆することができた。一方、酸化型アルブミンは認知機能との関連は見られなかったものの糖尿病診療での重要な合併症である細小血管障害および大血管障害と強く関連することが分かったため酸化型アルブミンについて解析(研究2)を行った。

【研究その2】
 研究その2では研究その1の対象患者188名のうち採血が行えなかった24名を除外した164名で酸化型アルブミンを測定し、各バイオマーカーや身体所見との関連を調べた。アルブミンは血清中もっとも豊富なタンパク質分子で、酸化型(HNA%)と還元型(HMA%)に分けられるが、採血直後から検体のマーカー分子の酸化が進むことと測定手技に要する時間の問題から、酸化ストレスマーカーとしての一般的な臨床応用はこれまで困難であった。しかし、2017年にHNA%を約10分で測定できる新測定法が開発され、安定的かつ迅速な測定が可能となった。開発直後ということもありHNA%と疾患の関連については数例規模の報告が少数あるのみで、特定の疾患を有する多数の患者を横断的に解析した報告はなく、糖尿病合併症との関連についても報告はなかった。結果として、HNA%は年齢、罹病期間、収縮期血圧など動脈硬化を引き起こすとされている因子と正の相関を認め、eGFRと負に相関した(P<0.0001)。多変量解析ではeGFR、BMI、GA/HbA1c比が特にHNA%に影響すると考えられた。糖尿病神経障害の有無、網膜症の進行、腎症病期、冠動脈疾患既往のいずれともHNA%は有意な相関を示し、重症度が上がるほどHNA%は増加する傾向がみられた。糖尿病の病態形成および合併症の進行に対する酸化ストレスの影響は、多くの基礎的知見が積み重ねられてきた一方で、臨床におけるデータの蓄積は未だ十分とは言えない。酸化ストレスの血清バイオマーカーが、代表的な糖尿病合併症である神経障害、網膜症、腎症ならびに冠動脈疾患既往と一部関連したという報告はあるものの、全てと有意に相関したとする報告は本報告が初である。この研究2により、従来の酸化ストレスマーカーおよび血糖コントロール指標(HbA1c, GA)に比べ新しい測定法による酸化型アルブミンHNA%は簡便で、なおかつ糖尿病合併症進行を予測する汎用性の高い酸化ストレスマーカーとなりうることが分かった。

【結果】
今回の研究において、糖尿病外来診療の限られた時間の中で効率的に認知機能低下患者を発見する方法を明確化した。また、糖化のバイオマーカーは臨床で幅広く応用されている一方、酸化バイオマーカーは糖化のマーカーほどは汎用されていない中、オキシステロール、酸化型アルブミン共に臨床的に測定する重要性があることが今回の研究で分かった。オキシステロール、酸化型アルブミン共に今後の更なる研究へつながる結果となった。

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