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タンザニア人の角膜球面収差の分布

浅野, 宏規 筑波大学 DOI:10.15068/00160541

2020.07.27

概要

視覚の質と網膜像
 近年の眼科臨床においては、視力だけでなく、視覚の質(Quality of Vision; QOV)の重要性が広く認識されている。視力検査における視力は、コントラストの高い2点の分解能を測定しているが、同じ視力でもクッキリ見える、にじんで見える、ダブって見えるなど、見え方の質に違いがある。眼球はカメラに例えられ、角膜および水晶体がレンズ、虹彩が光量を調節するための絞り、網膜がフィルムに相当する。クッキリとモノが見えるためには、網膜に鮮明な像が投影されることが必要である。
 網膜像の劣化をきたす原因は、大きく収差、散乱、回折の3つがある[1, 2]。収差は、1点から出た光線が透光体(レンズ)を通過した後に1点に集光しないために生じる光のゆがみである(次項参照)。散乱は、光源から発せられた光が混濁、粒子、凹凸面などに当たり、方向が拡散するために集光しない現象であり、霧視や照度低下を生じる。回折は、光が波の性質を持つことにより、光が細い部分を通過した後に回り込む現象であり、瞳孔径2mm以下で回折の影響が出て像がぼやけて見える。

波面収差
 収差とは、1点から出た光線が、位置や方向、光の波長などの違いによって、1点に集光しない光のゆがみである[1-3]。光を波として捉えた場合、光源から発せられた光は球面状に広がる。同じ時間進んだ光の位置をつなぎ合わせると波面となり、レンズを代表とする透明な物体を通過した光の波面は、像面で1点に集光するのが理想的な波面となる。
 しかしながら、多くの光学系を通った光は1点に集光せず、理想的な波面からのズレ(波面収差)が生じる。収差があると、像が不完全になるため、像のぼけ、ゆがみ、曲がりや色ずれなどが生じる。波面収差解析では、光の波面が、光学系の影響により進んだり遅れたりするのを面の位相で捉えて評価する。
 眼球光学系の他覚的評価には、古くからレフケラトメータが用いられ、低次収差の球面度数(遠視、近視)と正乱視が測定されてきた。これらは、屈折の基本成分であり、眼鏡で矯正可能である。これらを差し引いた屈折異常が不正乱視である。不正乱視があると、眼鏡で矯正してもモノの輪郭がかすんだり、にじんだり、尾を引いて見えたりする。近年は、波面収差解析装置(波面センサー)により、網膜から反射する光を面(波面)でとらえて、低次収差だけでなく、不正乱視を高次収差として定量的に評価できるようになっている。収差を表すためにZernike多項式[4, 5]が用いられており、規則性のない偏心や面のゆがみなども含めた複雑な波面を、規則性のある波面に分解して表現可能である。Zernike多項式においては、1次、2次の収差が低次収差、3次以上が高次収差(不正乱視)に該当する。各係数は独立しており、2次収差は3つ、3次収差は4つ、4次収差は5つの成分から成る。1次は面傾斜、2次のC0は球面(遠視・近視)、C-2は斜乱視、C2は直(倒)乱視、C-1は垂直方向のコマ収差、C1は水平方向のコマ収差、C0は球面収差を示す。Zernike多項式では高次収差の詳細な情報が得られるが、係数が非常に多いため、各Zernike係数をまとめて表示する方法がある。それぞれの次数の各係数を二乗平均(root-mean-square; RMS)し絶対値として表現する方法で、奇数次(3次、5次高次収差)をコマ様収差、偶数次(4次、6次)を球面様収差、3次以上の全てのRMSを全高次収差と呼ぶ。一般的に測定直径が大きくなれば、高次収差は大きくなる。
 本研究で収差の測定に用いたウェーブフロントアナライザーKR-1W(Topcon)は、眼球の高次収差を測定できる代表的な装置である。角膜形状解析装置も備えており、詳細に測定された角膜形状の結果をZernike多項式で解析することで、眼球のみならず角膜の低次収差および高次収差も定量的に評価可能である。臨床的には、屈折矯正手術、白内障、円錐角膜、ドライアイ、コンタクトレンズ処方など、見え方に関する様々な分野において有用である[3]。

コマ収差
 コマ収差は、斜光束(光軸外から斜めに入射する平行光線)が像面の1点に集束しない現象である。彗星のように尾を引いたようなぼけた像ができる。中心軸に対して非対称な収差の代表である。

球面収差
 球面収差(spherical aberration; SA)は凸レンズの中央付近と周辺部を通過する光線が、光軸の異なる場所に焦点を結ぶ現象である(図1)[2, 4, 5]。中心軸に対して対称な収差である。表面のカーブの半径が一定である球面レンズを光線が通過する場合、中心から周辺になるほど光を屈折させる力が大きいため、周辺部を通る光線は中心付近を通る光線よりもレンズ付近で集光する。この差を正のSAと呼ぶ。周辺部を通る光線が中心付近を通る光線よりもレンズから離れた部分で集光することを負のSAと呼ぶ。
 標準的な角膜は、中央よりも周辺が大きな曲率の非球面構造をしており正のSAを有する[5-7]。若年時は、角膜に起因するSAを水晶体のSAが打ち消しているが、水晶体を始めとする眼内の屈折要素が年齢変化を示すため、眼球全体のSAは加齢とともに増加する[5, 6]。眼球全体のSAが強い場合、像面では同心円状にぼやけた像となる。

眼内レンズ
 眼内レンズ(intraocular lens; IOL)は白内障手術において、水晶体の代わりに眼内に挿入する人工のレンズである。眼鏡レンズと同様にIOLにも適切な屈折度数がある。角膜曲率半径(角膜のカーブ)や眼軸長(角膜中心から網膜中心までの長さ)などの眼球の測定値から術後の予測屈折度数を計算して、度数を決定する。市場に流通しているIOLでは、角膜の高次収差の成分のうち、SAの補正が可能であり、これを補正する(打ち消す)ようにデザインされた非球面IOLが広く使用されている。有効光学径6mm前後のIOLが標準的に使用されており、非球面IOLは直径6mmの角膜SAに基づいて非球面設計され、負のSAを有する。球面IOLが挿入された場合は、角膜の正のSAに加えてさらにIOLによる正のSAが生じるため、眼球全体でのSAが増強される。一方、負のSAを有する非球面IOLが挿入されれば、標準的な角膜が有する正のSAが補正されるため、網膜像が鮮明となる[7]。

他の用語(参考)
・屈折異常:水晶体が調節しない状態で遠方を見たときに、外界からの光が網膜面上で一点に結ばない状態。網膜像が不鮮明なためにぼやけて見える。遠視、近視、正乱視など。眼鏡で矯正できない不正乱視も広義の屈折異常に含まれる。角膜や水晶体にゆがみがあると、光の曲がり方が不均一となり、網膜上に複数の焦点ができる。

・乱視:角膜や水晶体のゆがみにより、光の曲がり方が不均一となり、焦点が合わない状態。網膜像の鮮明度が低下し、物がぼやけたり像がにじんだり、2重に見えたりする。正乱視と不正乱視がある。

・正乱視:角膜や水晶体の形状がラグビーボールのような楕円形となっており、カーブの度合いが直交する方向によって異なるために、焦点を一点に合わせることができない状態。眼鏡(円柱レンズ)による矯正が可能である。

・不正乱視:角膜や水晶体の屈折値が不均一のため、焦点が合わない状態。屈折面が不規則なために、眼鏡で矯正できない。波面収差測定装置により、不正乱視を高次収差として測定可能である。

この論文で使われている画像

参考文献

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