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大学・研究所にある論文を検索できる 「日本のコムギ品種の倒伏抵抗性と強稈性に関する育種および栽培学的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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日本のコムギ品種の倒伏抵抗性と強稈性に関する育種および栽培学的研究

松山, 宏美 マツヤマ, ヒロミ 東京農工大学

2021.12.13

概要

コムギの倒伏は収量と子実品質の低下を招く.これまで日本のコムギの倒伏抵抗性の向上は,主に短稈品種の開発によって達成されてきており,近年の育成品種のほとんどは稈長が80cmから85cmの短稈品種である.水稲では近年,穂重型の多収品種が数多く育成されており,コムギにも多収化が求められた際には穂重型の方向へ育成される可能性がある.穂重型の品種は地上部モーメントが大きいため倒れやすく,短稈化だけでなく,強稈化による高い倒伏抵抗性を付与する必要がある.そこで本研究では,コムギの多収化のため,強稈性に着目した倒伏抵抗性の向上の育種および栽培学的な可能性を探った.

 まずは,日本のコムギの倒伏抵抗性の品種間差とそれに関連する形質を明らかにすることを目的に,在来種から近年の主要品種まで幅広い品種を含む日本のコムギコアコレクションを圃場で栽培し,倒伏の傾向や稈長,強稈関連形質等を調査した.その結果,稈長が大きいほど早期に倒伏し,稈長が93.4cm以下の短稈なグループでは稈基部が脆弱なほど早期に倒伏しやすいと示された.また一方で,圃場で発生した倒伏の状況から倒伏抵抗性が大きいと考えられた品種の中にも稈基部の強度が小さい品種は存在し,逆に倒伏抵抗性が小さいと判断された品種の中にも稈基部の強度が大きい品種は存在することが明らかになり,稈基部を強化し倒伏抵抗性を向上させたコムギ品種の育成に資する知見を得るためには,圃場における倒伏の状況だけでなく作物体の稈長や稈基部の形質を測定する必要があると示唆された.

 そこで,北海道から九州の近年の代表的なコムギ18品種に対象を絞り,倒伏抵抗性を示す倒伏指数と,挫折型倒伏および湾曲型倒伏への抵抗性に関与する強稈関連形質を比較し,品種間の相違とその要因の解析を行った.18品種のうち,「ゆめちから」は稈基部の挫折時モーメントと曲げ剛性が大きく,倒伏抵抗性が特に高いと示された.また,挫折時モーメントが大きく強稈である品種のうち,「ゆきちから」および「チクゴイズミ」は曲げ応力は大きく断面係数は中程度であった一方で,「きぬの波」および「あやひかり」は曲げ応力は中程度で断面係数は大きい特徴を持つことが明らかになった.このような異なった特徴を持つ強稈品種間で交配することによって,さらに倒伏抵抗性の大きい形質を付与できる可能性があると考えられた.

 次に,近年の代表的なコムギ18品種のうち5番目に稈基部の葉鞘付き挫折時モーメントが大きく強稈であり,温暖地向け多収コムギ品種として普及している「あやひかり」に着目し,その強稈性の由来を探るため,系譜にある17品種・系統を栽培し,倒伏抵抗性と強稈関連形質を調査した.その結果「あやひかり」の強稈性は,母であり,麺の食感に優れた低アミロース系統とて着目され交配に用いられた「関東107号」に由来すると考えられた.「関東107号」の親である「関東82号」と「関東79号」は,両方とも強稈であり,「関東107号」の強稈性は両親ともに由来する可能性が考えられた.また,「関東107号」「関東82号」「関東56号」「関東26号」「伊賀筑後オレゴン」および「埼玉29号」の6品種・系統は,稈基部の曲げ応力は中程度で断面係数は大きいという「あやひかり」と同様の強稈性の特徴を持っていた.このうち「農林26号」と「伊賀筑後オレゴン」は,「関東107号」の親である「関東79号」と「関東82号」の両方の系譜に含まれており,「あやひかり」と「関東107号」はこれらの品種・系統の強稈性に関する特徴を濃く引き継いでいると考えられた.

 続いて,倒伏抵抗性と多収性を両立させた栽培技術を開発するため,「あやひかり」と比較的弱稈である「イワイノダイチ」を用いて,茎立期を中心とした窒素追肥の施用時期の違いがコムギの収量と子実タンパクに及ぼす影響と共に,強稈性も考慮した倒伏抵抗性に及ぼす影響を検討した.その結果,GS30(Ear at 1cm)からGS32(2nd node detectable)の追肥は増収効果が高かった一方で,稈基部の挫折時モーメントを低下させ,倒伏抵抗性を低下させることが明らかになった.多収を狙った栽培では,茎立期周辺で多くの追肥を施用する必要があるため,倒伏抵抗性は強稈品種の活用や肥培管理以外によって確保されることが望ましいと考えられた.そこで,施肥と並んで重要な栽培技術である播種について,播種密度がコムギの収量と倒伏抵抗性および強稈性に及ぼす影響を検討した.その結果,強稈関連形質と倒伏抵抗性は,播種密度が低いほど強稈で,挫折型および湾曲型倒伏への抵抗性が高いと示された.また,播種密度が低いほどm2あたり穂数が少なかったが1穂粒数が多く,播種密度が低い区の収量は高い区の収量と同等かやや多かった.従って,収量性と倒伏抵抗性を両立する方法としては,播種密度の抑制が有効であることを指摘した.

 本研究より,日本のコムギ品種の育成過程における強稈化による改良は短稈化ほど明確に進んでおらず,強稈性に関わる異なった性質をもつ品種間で交配することにより強稈形質を付与できること,播種密度の抑制により強稈化し倒伏抵抗性と収量性を両立して向上できることを提案した.

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