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大学・研究所にある論文を検索できる 「ラン藻のアンモニア耐性におけるPIIの機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ラン藻のアンモニア耐性におけるPIIの機能解析

坂本, 貴之 名古屋大学

2022.05.20

概要

光合成は無機物質から有機化合物を合成する反応であり、地球上の生態系の物質的な基盤を支える過程である。光合成生物の生存にとって CO2 と窒素源である硝酸イオンやアンモニアの同化のバランスを制御することは重要であり、様々な環境条件や栄養条件に応じて、物質輸送系や代謝系の遺伝子発現と活性制御を通して光合成機能の最適化が行われている。PII タンパク質は真正細菌とアーキアを含めた原核生物に普遍的に存在し、窒素と炭素のバランスを検出して窒素同化系を制御している。PII は真正細菌である藍藻類だけでなく、真核藻類、および高等植物に至るまですべての光合成生物に存在しており、光合成における窒素、炭素同化バランスを決定する重要な因子であるが、その重要性ゆえに変異株を用いた解析が困難であり、藍藻からはその遺伝子( glnB)の純粋な欠損株が得られていない。その一因として PII が相互作用する調節タンパク質の一つである PipX が、PII 欠損により脱制御状態になって強い毒性を発揮することが推測されているが、PipX が毒性を示す機構は不明である。さらに PipX が欠損していても、PII 欠損に起因する他の障害があり、これらが解析を一層困難にしている。本学位論文は PII の欠による不具合が酸化ストレスに起因することを明らかにし、それを緩和した条件下で PII の単独変異株の作製法を開発して、PipX のもつ細胞毒性の本質を解析したもので、以下の3つの内容から構成されている。

1. PII 欠損に起因するアンモニア感受性の遺伝学的解析
PII 欠損株は、遊離の PipX の毒性による生育阻害を受ける。窒素制限条件下では PipX は NtcA と結合するためにその毒性が低下するが、アンモニアが存在する窒素充足条件下では NtcA から解離して特に強い生育阻害を引き起こす。PII と PipX の二重欠損株( PD4) ではアンモニアの毒性は緩和されるが、それでも依然としてアンモニアに対する感受性が見られることから、PipX とは無関係に PII の欠によって引き起こされるアンモニア感受性が推定された。そこで、アンモニア培地での生育が改善した PD4 の擬似復帰変異株を単離し、その変異遺伝子を解析して、9 種類の遺伝子の変異を見つけた。これらの 変異を改めて PD4 に導入してアンモニア耐性を付与するか否かを確認し、さらに欠株の性質と比較した結果、細胞内へのアンモニアの 吸収に関わる輸送体 Amt1 の機能喪失変異、推定プロテアーゼの 1 アミノ酸置換、機能未知の2種のタンパク質の 1 アミノ酸置換に加えて、細胞外へのプロトン排出輸送体 PxcAの機能昂進が PD4 にアンモニア耐性を付与することが確認された。これらのことからPII がアンモニア吸収の 抑制およびプロトン排出の活性化を通じて細胞内イオン環境恒常性の維持に関与している可能性が示された。

2. PII 欠
3. 株のアンモニア感受性における ROS の関与の解明
PII 欠損が光合成機能に及ぼす影響を調➴るため、親株である NA3、PipX 欠損株 PX2、および PipX/ PII 二重欠損株 PD4 の光化学系 II( PSII)の活性を比較した。硝酸イオンを窒素減とした場合には、これらの 株の PSII 活性の間に差は見られなかった。培養液に 15 mM のアンモニアを添加すると、2 時間後には 3 株全てで 30〜40%程度の PSII活性の低下が見られたが、その 後 NA3 株と PX2 株の PSII 活性はほとんど変化しなかったのに対し、PD4 株の PSII 活性は継続して減少し、アンモニア添加後 4 時間では他の株と比➴て有意に低下していた。これらの結果は、PII の欠損により PSII 活性の アンモニアに対する感受性が増大することを示していた。光照射下での PSII の活性低下は「光阻害」として知られる現象で、この過程には活性酸素(ROS)が関与することが知られている。そこでスーパーオキシドアニオン( O2 -)、過酸化水素( H2 O2 )およびヒドロキシルラジカル( •OH) の3 種の ROS を一括して蛍光試薬 5- (and 6-) chloromethyl-2,7-dichlorodihydrofluorescein diacetate (CM-H2DCFDA) を用いて 測定した。また一重項酸素( 1 O2 )はヒスチジンと不可逆的に反応して消去されるため、ヒスチジンの有無によるラン藻培養液の酸素発生速度の差から一重項酸素の生成速度を測定した。結果、NA3 ではアンモニア添加時にも有意な ROS が検出されなかったのに対し、PD4 ではアンモニア添加によって ROS の生成が誘導されることが示された。抗酸化剤としてフリーラジカルや 1 O2 の消去能力をもつα-トコフェロールを培地に加えたところ、アンモニアによる PD4 株の増殖阻害は解消された。以上のことからアンモニア存在下での PD4 株の生育阻害は、ROS による酸化傷害を介するものであることが示された。

4. PⅡ 単独欠
5. 株の作製と、それを用いた PipX の有害性の解析
PⅡ を欠損すると遊離した PipX の毒性に加えて「PII 欠損により引き起こされる PipX非依存的な障害」の 2 つが顕在化する。このため、PII 欠損株を単離しようとすると、通常は pipX にも変異の 入った二重変異株しか得られない。窒素制限条件で PipX が転写調節因子 NtcA と結合することに着目し、硝酸イオン輸送体の欠株( NA3 株)を親株として、野生型 pipX 遺伝子を保持した PII 欠損株( PD3 株)が、窒素制限条件下で作出されているが( Chang et al. 2013) 、これまで野生株を遺伝的背景とした単純な PII 欠損株は得られていなかった。今回、α-トコフェロールによって「PII 欠損により引き起こされる PipX 非依存的な障害」を緩和できることが明らかになったので、窒素十分条件で生育させた野生株( SPc 株)を親株とし、α-トコフェロール存在下でglnB 遺伝子の不活性化を試み、初めて PII 単独欠損株( PD1X)の作出に成功した。 PD1X は寒天培地上では微小なコロニーを生成したが、液体培地での培養が困難であったので、顕微鏡に取り付けられたパルス変調( PAM)蛍光分光器を用いてクロロフィルの蛍光収率を測定することで、固体培地上の コロニーの光合成活性を調➴た。結果、PD1X では、PSII の電子受容体である QA の還元が極めて遅く、加えて還元された QA の再酸化も遅いことが判明した。この 形質は PipX の欠損株では観察されなかったことから、PipX が光合成電子伝達鎖を、QA の上流側においても下流側においても阻害することが判明した。

以上、本学位論文は、藍藻において PII が光照射下で ROS の発生を防ぐ上で重要な役割を果たしていることを明らかにした。続いて抗酸化剤であるα -トコフェロールの存在下で PipX を保持したまま PII を欠損させることに成功し、さらに、得られた PII 単独欠株の 顕微蛍光解析により、遊離の PipX が光合成電子伝達反応を強く阻害することを明らかにした。自然界では、窒素の欠乏だけでなく、その過剰が光合成生物の 生育を阻害する例が多く知られている。実験室で用いられる藍藻はアンモニアに耐性のものが多いが自然界にはアンモニア感受性の藍藻も多い。本研究により、アンモニアが藍藻に対してもつ毒性とそれに対する防御機構の一端が明らかとなった。

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