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大学・研究所にある論文を検索できる 「Functional and evolutionary analyses of phytohormones in the late developmental and flowering stages of rice floral organs」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Functional and evolutionary analyses of phytohormones in the late developmental and flowering stages of rice floral organs

河合, 恭甫 名古屋大学

2022.05.20

概要

植物ホルモンのジベレリン( GA)は発芽・伸長・花粉の成熟・生殖成長への転換など様々な成長過程を制御する重要な植物ホルモンである。現在までに130 種類以上のGA 類縁体が発見されているが、そのうち植物体内で生物活性をもつ活性型GAは受容体GIBBERELLIN INSENSITIVE DWARF1( GID1)に高い親和性を示し、結合可能なGA1 , GA3 , GA4 , GA7の4つのみである。物体内でGAは多段階の酵素反応を経て合成されることが知られており、イネ( Oryza sativa )やシロイヌナズナ( Arabidopsis thaliana)では生合成に関わるほぼすべての遺伝子が同定されている。そのうち、直接の前駆体GA9から活性型のGA4への酸化反応はgibberellin 3-oxidase( GA3ox)により触媒される。イネゲノム上には2つのGA3oxオルソログが存在し、そのうちOsGA3ox1は葯に特異的に遺伝子発現する一方で、OsGA3ox2は植物体全体に遺伝子発現する。このように合成された活性型GAは、不活化酵素であるgibberellin 2-oxidase( GA2ox)によりジベレリン骨格上の2位の炭素に水酸基を付加されることでGID1との結合が弱められ、不活化される。

GAは約 95年前に「馬鹿苗病」の原因である病原菌「Gibberella fujikuroi」がイネに感染して合成する原因物質として初めて単離された。「Gibberella fujikuroi」は感染した植物体内で活性型のGA3を合成する。このGA3はジベレリン骨格の1位と2位の炭素間に二重結合を持つため、上記のようなGA2oxによる不活化を受けない。そのため、馬鹿苗病を罹患したイネは恒常的なGA応答により徒長し、最終的には枯死する。植物にとって体内のGA 量を調節することは重要であるため、そのための機構がいくつか存在する。例えば、GA合成酵素のGA3oxとGA 不活化酵素のGA2oxはともに植物体内の内生 GA 量による遺伝子発現フィードバック制御を受ける場合が多い。また近年、GA 不活化酵素のOsGA2ox3は内生 GAの濃度依存的に4 量体を形成し、アロステリックにその酵素活性を調節することが本研究室の竹原博士らにより報告された。

しかしながら一方で、イネの葯には茎葉部の100倍以上の濃度の活性型GAが存在することが知られており、そのようなGID1受容に必要な量を遥かに超えた多量のGAがどのような下流応答を制御しているのか、どの酵素がそのような多量のGAを合成しているのかは未だ不明であった。イネの葯ではGAシグナル下流因子としてGAMYB 転写因子が知られている。GAMYBは花粉発達の早期において葯のタペータム細胞のプログラム細胞死およびそれに伴う花粉小胞体表面への花粉外皮成分であるスポロポレニンの供給を誘導する。このように葯と花粉におけるGAの機能は成熟の早期、すなわちsporophyticな機能が主に知られていたが、花粉の成熟後期におけるgametophyticな機能や上記のような過剰なGAの機能については不明であった。

第 2 章では上に述べたイネの葯に存在する多量のGAがどのような生理応答を制御しているのかを明らかにすることを目的に、これまで単離されていなかったosga3ox1ノックアウト変異体をCRISPR/Cas9 systemにより作出し、その表現型解析を行った。OsGA3ox1の葯での特異的な発現と一致するようにosga3ox1変異体では野生型と比較して活性型のGA4およびGA7の葯での内生量が有意に低下しており、また成熟花粉にデンプンが蓄積されないという表現型が観察された。さらに、osga3ox1変異体では野生型と比較して葯に過剰なスクロースが蓄積した。以上から、osga3ox1の葯ではスクロース分解酵素のインベルターゼに異常があるためデンプンが蓄積しないと考えられた。これを確かめるため葯および花粉の細胞成分を分画し各画分のインベルターゼ活性および酵素タンパク質量を解析したところ、細胞壁インベルターゼのcell wall invertase 3( OsCIN3)の適切な細胞壁への保持に異常があることが原因であるとわかった。これらの結果はこれまで知られていた花粉発達の比較的早期におけるsporophyticな機能とは異なり、発達後期でのgametophyticな機能を示すものである。

また第 2 章では竹原博士らとの共同研究によりOsGA3ox2の立体構造および基質、補基質との結合アミノ酸残基を明らかにした。タンパク質一次配列の比較から、 OsGA3ox1では補基質 2オキソグルタル酸と結合する1つの残基がOsGA3ox2やその他の2ODDファミリータンパク質がもつチロシンとは異なりフェニルアラニンに置換していることがわかった。このアミノ酸残基の置換によりOsGA3ox1は前駆体GA9から活性型のGA4だけでなく同じく活性型でGA2oxによる不活化を受けないGA7を多量に合成出来ることが示唆された。GA7はGA3と構造的に類似し植物体内で非常に強い生物活性を示すが、これが上記の花粉のデンプン蓄積に重要であると考えられた。以上の解析に加え、OsGA3ox1が持つ多量のGA7合成能の高さの要因を進化的観点から明らかにすることを目的にイネ属植物から単離したGA3ox1を用いて酵素活性および遺伝子発現の解析を行った。その結果、 GA3ox1はイネ( O. sativa )からO. brachyanthaの共通祖先でGA7を多量に合成するために重要なフェニルアラニンを獲得し、 GA7合成能を高める進化を遂げたことがわかった。加えて、 葯に特異的なOsGA3ox1の遺伝子発現の特異性についても、イネ属の進化の過程で得られた独自の特徴であることが明らかとなった。これらの結果から、イネは葯でのみ多量のGA4とGA7を合成し、そのような多量の活性型GAが花粉でのデンプン合成に正に作用するという特徴的な生理応答およびそれを達成可能な酵素の進化を遂げたと考察した。

osga3ox1ノックアウト変異体では花粉のデンプン蓄積の異常に加え、正常な開花が起こらず穎花が閉じたまま不稔となるという表現型も観察された。イネの穎花には内穎の基部に鱗被という器官が存在しており、日本晴では通常午前11時頃に鱗被が膨潤することで物理的に外穎を押し出し、開花が駆動される。そして開花の約 90分後には鱗被が収縮し、それに伴って穎花は閉じる。このような比較的短い時間の間に起こる鱗被のダイナミックな形態変化にはいくつかの植物ホルモンが関わることが知られている。オーキシン( IAA)不活化酵素のdioxygenase for auxin oxidation ( DAO)のノックアウト変異体のdao変異体では、第 2 章で明らかにしたosga3ox1変異体と同様に野生型で観察されるような開花が見られず、花が閉じたまま不稔となる。ジャスモン酸( JA)の合成酵素 Jasmonate resistant 1( JAR1)の変異体、jar1変異体では、開花時刻が不定となるほか開花 90分後の鱗被の収縮が起こらず、穎花が開いたままとなる。このようにイネの花と植物ホルモンとの関連はこれまでにいくつか報告されているものの、植物ホルモンがどのように開花・閉花に作用しているのかについては不明な点が多く残されている。

第 3 章ではGA、IAA、JAの関連変異体、osga3ox1、dao、jar1変異体を用いて、開花前中後における鱗被の形態変化およびRNA-seqを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行った。開花時の鱗被鱗被の形態については100年以上前から研究が行われているが、内部まで細胞レベルで立体的にとらえた研究はこれまでになかった。これを達成するため、本研究ではX 線顕微鏡( X-ray microscope, XRM)を用いた。XRMは動物分野では頻繁に用いられるものの、植物での形態観察ではほとんど用いられていない手法である。これにより、開花前中後における鱗被の断面構造を非破壊的に得ることに成功した。開花前において日本晴では鱗被の部位ごとに細胞の大きさが不均一であり、維管束は片側の鱗被に約 20本が走ることを見出した。また開花前のjar1変異体の鱗被は形態的な異常が観察されなかったものの、細胞内での糖代謝などに関連する遺伝子の発現に異常が見られた。osga3ox1変異体とdao変異体では細胞の大きさが部位により比較的均一であり、さらにCa2+シグナル関連遺伝子の発現に異常があった。以上のように各変異体の形態および遺伝子発現の異常を明らかにした。

本論文ではこれまでほとんど明であったイネの花 粉におけるGAのgametophyticな機能を明らかにした。本研究成果によりイネの花粉の発達機構の解明がより一層進展することを期待する。また、イネの葯に特異的に発現をするGA3ox1の進化に関する知見は重要な作物であるイネの生殖様式の理解に繋がり、将来の食糧危機の回避に貢献する重要な研究成果であると考える。さらに、イネ開花時の鱗被の形態変化および遺伝子発現の解析はイネの開花制御技術の開発につながるだけでなく、F1 育種や花器官内部の外環境ストレスからの保護など育種分野への貢献も期待される。さらに、本研究はXRMを用いた形態観察に成功した事例として、植物研究におけるXRM利用の先駆けにもなりうるものと考える。

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