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大学・研究所にある論文を検索できる 「ピロリ菌CagA発現細胞における液性因子の誘導とその細胞増殖誘導能に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ピロリ菌CagA発現細胞における液性因子の誘導とその細胞増殖誘導能に関する研究

先山, 奈津紀 東京大学 DOI:10.15083/0002002339

2021.10.13

概要

Helicobacter pylori(ピロリ菌)は、ヒトの胃粘膜に感染するグラム陰性微好気性らせん状桿菌であり、その持続感染は様々な胃粘膜病変を引き起こす。なかでも、cagA遺伝子を有するcagA陽性株のピロリ菌感染と胃がん発症に強い相関が見られたことから、cagA陽性ピロリ菌の産生するCagAタンパク質は、胃がん発症の最大の危険因子と考えられている。ピロリ菌体内で産生されたCagAタンパク質は、IV型分泌機構を介して胃上皮細胞内に直接注入される。胃上皮細胞内でCagAは、複数の宿主タンパク質と相互作用し、細胞増殖能および細胞運動能の亢進、ならびに上皮細胞極性の破壊などを引き起こすことから、ピロリ菌CagAタンパク質の注入された胃上皮細胞は、細胞自律的(cell-autonomous)な発がん活性を獲得すると考えられている。
 一方、CagAの長期発現により、細胞周期阻害因子p21が蓄積し、細胞の形態が扁平化するとともに細胞老化マーカーであるSA-β-galが発現することが示され、CagAが早期細胞老化を誘導することが示されている。この現象は、p21の発現を抑制した条件では起きないことから、CagAによるp21の蓄積が早期細胞老化の誘導を決定づけると考えられる。従って、宿主胃上皮細胞のジェネティックまたはエピジェネティックな変化に伴うp21誘導能の有無が、CagA発現細胞の早期細胞老化または細胞自律的な発がん活性の獲得という相反する表現型を決定することになると考えられる。
 細胞老化は細胞増殖を阻害する現象であることから、これまでがん抑制的な機能をもつと考えられてきたが、近年、様々な液性因子を分泌するSASP(Senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる分泌現象を起こすことで発がん促進的な微小環境を形成する可能性が示唆されている。これらの知見から、胃上皮細胞にCagAを長期発現させるとSASPが誘導され、発がん促進的な微小環境の構築に寄与する可能性があると考えた。しかし、CagA陽性細胞が周囲の微小環境へ与える影響、即ち細胞非自律的(non-cell-autonomous)な発がん活性を示す可能性については不明であった。そこで本研究では、CagAの長期発現が液性因子の分泌を誘導するという仮説をたて、液性因子を介したCagA発現細胞の細胞非自律的な発がん活性の検討を試みた。

 はじめに、CagA発現細胞が液性因子の分泌を介して、周囲の細胞へ影響をもたらすか否かを検討した。ヒト正常胃上皮由来不死化細胞株GES-1細胞に、CagAを発現するレンチウイルスを感染させ、翌日に再播種した後6日間培養し、その培養上清を回収した。回収した培養上清を親株のGES-1細胞の培養液に添加して72時間培養し、MTSアッセイにより細胞増殖能への影響を調べた。その結果、CagA発現細胞の培養上清は、コントロール細胞の培養上清に比べて細胞増殖を有意に促進した。以上の結果から、CagA発現細胞が培地中に細胞増殖を促進する液性因子を分泌する可能性が示唆された。
 次に、この現象の責任分子をスクリーニングするために、メンブレン抗体アレイによるCagA発現細胞培養上清の解析、およびDNAマイクロアレイによるCagA発現細胞の遺伝子発現解析を行ったところ、CagAの長期発現により複数の液性因子の発現増加が認められた。これらの結果から、CagAの長期発現により液性因子が分泌され、それらを介して細胞増殖が促進される可能性が示唆された。

 次に、細胞増殖の責任分子を絞り込むため、CagAの長期発現により発現増加が示された液性因子について、組換えタンパク質を用いて細胞増殖誘導能を検証した。その結果、IL-22ならびにIFNα17の添加により、細胞増殖が有意に亢進した。続いて、胃がん患者におけるこれらの分子の発現量と予後の相関を解析するため、胃がん患者(n=876)のデータベースを用いてKaplan-Meier曲線解析を行ったところ、IL22ならびにIFNA17の高発現群は、低発現群と比較して全生存率が有意に低いことが示された。これらの結果から、CagAにより誘導されるIL-22ならびにIFNα17は細胞増殖を促進し、胃がんの予後不良に影響する可能性が示唆された。このうちIFNα17による細胞増殖の促進はユニークな知見であり、IFNA17の高発現が胃がんの予後不良と関連することからも興味深い現象であると考えた。そこで本研究では、IFNα17が示す細胞増殖亢進作用に着目し、細胞増殖を担う下流シグナルの解明、および胃発がんにおける生物学的意義の解明を目指した。

 IFNα17は、ヒトIFNαの13種類のサブタイプの一つである。IFNαを含むI型IFNは2つの受容体鎖で構成されるI型受容体に結合し、受容体に会合するJAKファミリーチロシンキナーゼの活性化を介して、シグナル伝達因子かつ転写活性化因子であるSTATファミリー分子のチロシンリン酸化を引き起こし、標的遺伝子の転写を活性化する。そこで、CagA発現細胞上清により各種STAT分子がリン酸化を受けるか否かを検討するため、GES-1細胞にCagA発現細胞上清を添加し、各種リン酸化型STAT(pSTAT)の発現レベルの変化を解析した。その結果、CagA発現細胞上清の添加により、pSTAT1(Y701)およびpSTAT3(Y705)の発現レベルが増加した。同様に、IFNα17の添加によってもpSTAT1およびpSTAT3の発現レベルが増加したことから、CagA発現細胞の上清添加によるpSTAT1およびpSTAT3の増加がIFNα17に起因する可能性が示唆された。
 次に、STAT1ならびにSTAT3の活性化が細胞増殖へ与える影響を調べるため、STAT阻害剤およびsiRNAを用いて、STAT1ならびにSTAT3を抑制した。その結果、STAT1の抑制によりCagA発現細胞上清による増殖促進効果は抑えられるが、STAT3の抑制では増殖促進効果は抑えられないことが明らかとなった。また、I型IFNの受容体鎖である、IFNAR1の発現抑制によっても、CagA発現細胞上清による増殖促進効果は抑えられた。次に、IFNα17の細胞増殖亢進能がSTAT1を介するものであるか否かを検討するため、siRNAを用いてSTAT1の発現を抑制したところ、STAT1発現抑制下ではIFNα17による増殖の促進は認められなかった。以上の結果から、CagA発現細胞上清による増殖の促進と一致して、IFNα17の細胞増殖誘導能はSTAT1を介するシグナルであることが示された。

GES-1細胞以外の胃上皮細胞におけるCagA発現細胞上清の細胞増殖能への影響を検討するため、ヒト胃がん細胞株、MKN28細胞、MKN7細胞、MKN74細胞、AGS細胞、およびMKN45細胞を用いて、GES-1細胞から回収したCagA発現細胞上清を添加し、MTSアッセイを行った。その結果、MKN28細胞、MKN7細胞、およびMKN74細胞ではCagA発現細胞上清による有意な細胞増殖の促進が見られた一方で、AGS細胞およびMKN45細胞ではCagA発現細胞上清による増殖の促進は認められなかった。また、IFNα17の添加によっても同様に、MKN28細胞では増殖が促進し、AGS細胞では増殖は促進しないことから、CagA発現細胞上清による細胞増殖の有無と、IFN17による細胞増殖の有無が一致することが示唆された。
そこで、これらの胃がん細胞株におけるIFNα17応答性の差異が、胃がん細胞に見られる遺伝子変異に起因する可能性を検討した。各種データベース(TCGA、CCLE、Drive)を用いて、14種類の胃がん細胞株について、STAT1ノックダウンによる生存への影響の有無と、胃がんで高頻度に検出される18の遺伝子変異の有無の相関表を作成した。その結果、STAT1ノックダウンにより生存への影響を受けた細胞の多くがTP53の変異をもつことが明らかとなった。また、本研究で使用した胃がん細胞株についても、CagA発現細胞上清により増殖が促進した細胞はTP53のDNA結合領域に変異が認められ、増殖の促進が見られなかった細胞は同領域に変異がないことが確認された。従って、胃がん細胞におけるSTAT1を介した細胞増殖能の亢進には、p53の機能低下が必要であることが推察された。
この仮説を検証するために、IFNα17による細胞増殖の促進が見られなかったAGS細胞について、TP53ノックアウトによるIFNα17に対する応答性の変化を検討した。その結果、TP53ノックアウトAGS細胞では、IFNα17により有意に細胞増殖が促進された。さらに、TP53ノックアウトAGS細胞にSTAT1の発現抑制を行なったところ、IFNα17による増殖の促進は抑えられた。従って、胃がん細胞株(AGS細胞)においてIFNα17-STAT1シグナルによる細胞増殖の促進が誘導されるか否かは、機能的p53の有無に起因することが示された。

 以上一連の結果から、CagA発現細胞がIFNα17の分泌を介してSTAT1を活性化し、細胞増殖を促進する可能性が示唆された。さらに、IFNα17-STT1シグナルによる細胞増殖の促進はTP53変異に依存的であることが示唆された。本研究結果より、CagAは既知の細胞自律的な発がん活性に加え、細胞非自律的な細胞増殖促進活性を示すことで、胃がん発症に重要な役割を果たすと考えられる。

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