Study on the clinical outcome and molecular changes of precursor-targeted immune-mediated anemia treated with splenectomy [an abstract of entire text]
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Study on the clinical outcome and molecular changes of precursor-targeted immune-mediated anemia treated with
splenectomy [an abstract of entire text]
須田, 芽伊
北海道大学. 博士(獣医学) 甲第15654号
2023-09-25
http://hdl.handle.net/2115/90998
Type
theses (doctoral - abstract of entire text)
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Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
学位論⽂内容の要約
学位論⽂題⽬
Study on the clinical outcome and molecular changes
of precursor-targeted immune-mediated anemia
treated with splenectomy
(Precursor-targeted immune-mediated anemia に
対する脾臓摘出術の臨床的有⽤性および
分⼦⽣物学的変化に関する研究)
獣医学院
博⼠(獣医学)
⽒名
須⽥(菅原)
芽伊
Precursor-targeted immune-mediated anemia (PIMA)に対する
脾臓摘出術の臨床的有用性および分子生物学的変化に関する研究
【背景】
慢性的に非再生性貧血を呈する犬の骨髄像の一つとして、赤芽球過形成や成熟停止
を特徴とする無効造血が報告されている。このような症例に対する詳細な病態解明は
なされていないものの、免疫抑制療法が一定の効果を示すことから免疫異常がその原
因であると推測されている。従来、本疾患は非再生性貧血に加え免疫介在性溶血性貧
血(Immune-mediated hemolytic anemia, IMHA)に特徴的な臨床検査所見を有する症例
が一定数存在したことから、非再生性免疫介在性貧血(Non-regenerative immunemediated anemia, NRIMA)と定義されていた。一方、IMHA の所見に乏しい非再生性貧
血のみを呈した犬ではマクロファージによる赤芽球貪食像が高頻度に観察されるとい
う知見に基づき、赤血球前駆細胞に対する免疫異常に限定した precursor-targeted
immune-mediated anemia (PIMA)という疾患概念が近年提唱された。現時点で PIMA は
主に赤芽球に対する免疫反応、NRIMA は赤芽球から赤血球まで幅広い分化段階に対す
る免疫反応と理解されている。本研究では近年提唱された診断基準に従い PIMA と診断
された症例を対象に研究を行った。
過去の報告では、PIMA/NRIMA 罹患犬は免疫抑制療法により 50-88%が中央値 14-
31 日までに赤血球再生像が認められ、このうち半数以上が寛解を達成したとされてい
る。しかしながら、これらの報告には免疫抑制療法が奏功せず、3 ヶ月以内に安楽死
された犬も多く含まれており、長期間治療を継続した場合の予後については情報が不
足している。一方、長期間の免疫抑制療法の実施は、合併症や副作用の問題、さらに
は通院回数の増加や複数回の輸血に伴うオーナーの経済的な負担の増大など多くの問
題があることは否定できない。このような観点から、北海道大学動物医療センターで
は、免疫抑制療法に反応を示さない PIMA 症例に対して、代替療法として脾臓摘出術
(脾摘)を実施し、一定の効果を経験してきた。本研究は PIMA の治療法として脾摘に
焦点を当て、Ⅰ.従来の治療法である免疫抑制療法への反応性や有害事象を明らかにす
ること、Ⅱ.脾摘の治療効果を明らかにすること、Ⅲ.脾摘前後の血清蛋白質の変化およ
び脾臓における遺伝子発現について網羅的に検討することを目的とした。
【材料と方法】
I.
北海道大学動物医療センターにおいて PIMA と診断した犬のうち、免疫抑制療法を
3 ヶ月以上継続した症例(n=27)に限定して治療効果に影響を与える因子と治療反
応を示すまでに要する期間を調査した。また、観察期間中に PIMA と診断した全症
例を対象とし免疫抑制療法中に生じる有害事象を回顧的に調査した。
II.
脾摘を実施した PIMA 症例(n=20)の予後を回顧的に調査した。
III. PIMA 罹患犬(n=15)と健常犬(n=3)の脾臓を用いてトランスクリプトーム解析、
PIMA
罹患犬(n=4)の脾摘前後のペア血清を用いてプロテオミクス解析を実施した。トラ
ンスクリプトーム解析で抽出された候補遺伝子に関して PIMA 症例の脾臓(n=21)、
PIMA 以外の疾患で髄外造血が確認された対照症例の脾臓(n=3)、健常犬の脾臓
(n=3)を用いて免疫組織化学を実施した。
【結果】
I.
3 ヶ月以上治療を継続した症例群において Erythroid-maturation ratio(EMR)が
0.17 未満であることは、治療反応に対する正の予後予測因子である可能性が示さ
れ、60 日以上治療を継続した場合に非反応群から反応群へと移行する症例はわず
かであることが明らかとなった。さらに、PIMA 罹患犬全症例で免疫抑制療法の有
害事象を調査したところ、膵炎および肺炎は全治療期間にわたり発生し、膿瘍な
どの感染症は免疫抑制療法を長期間行っている犬でより多く発生する傾向が示さ
れた。
II.
脾摘を実施した 20 頭中、18 頭で長期的な経過観察が可能であった。18 頭中 15 頭
は術後、免疫抑制療法の中止および輸血依存の離脱が出来、治療が奏功したと考
えられた。また、術後観察期間(中央値 301 日)で脾臓摘出術の合併症は認められ
なかった。これらの結果から、犬が免疫抑制療法に反応しない場合、脾摘が PIMA
に対する有効な治療戦略である可能性が示された。
III. PIMA 罹患犬の脾臓では 1,385 の発現変動遺伝子が検出され、炎症関連タンパク質
である S100A12、S100A8、S100A9 などの 707 遺伝子の発現が対象と比べて高い値
であった。さらに、免疫組織化学的手法により、PIMA 発症犬では S100A8/A9 蛋白
質の発現量が健常犬に比べ有意に高いことが確認された。血清プロテオーム解析
では、脾摘前後の同一個体のサンプル間で 22 種の蛋白質発現に有意差が認めら
れ、パスウェイ解析により脾摘前のレクチン経路を主とした補体活性化が示唆さ
れた。
【考察】
本研究により、PIMA の治療に対する知見として、60 日以上にわたる免疫抑制療法に
反応を示さない場合は有害事象発生の観点から積極的な代替療法の考慮が望まれるこ
とが明らかとなった。その代替療法として、脾摘は奏効率が高く、長期的な予後が期
待できる有効な治療法となり得ることが回顧的研究により示された。さらに脾臓を用
いた網羅的な遺伝子解析や脾摘前・後の血清を用いた血清中蛋白質の網羅的解析によ
り S100A8/A9 の過剰発現や脾摘前におけるレクチン経路の活性化が PIMA の病態に関与
している可能性が示された。 ...