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大学・研究所にある論文を検索できる 「原発性免疫不全症の実態調査及び新規治療法の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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原発性免疫不全症の実態調査及び新規治療法の開発

穂坂, 翔 筑波大学

2022.11.24

概要

背景:
原発性免疫不全症(Inborn Errors of Immunity; IEI)は免疫関連分子の異常により易感染性、易発がん性、自己免疫・自己炎症など多彩な症状を呈する疾患群であり、その多くは遺伝性疾患である。IEIの頻度は人種により異なるが、東アジアでは人口10万人あたり1-2人と報告され、希少疾患である。さらに、この頻度はIEI全体を包括したものであり、IEIの新規責任遺伝子は次々と発見されているため、疾患分類も複雑化している。よって国内でも専門施設は少なく、研究は進みにくい。本研究ではIEIに対する多角的な取り組みとして、前半では国内のIEIの実態の調査を明らかにする疫学調査を、後半ではIEIに対する新規治療法の開発を行う。本研究の成果はIEIの診療・研究に関する貴重な基礎データとなる。

<第一部>本邦における原発性免疫不全症の実態調査背景:
IEI全体の頻度については、報告により差が大きく、国内における全患者登録データベースも十分確立してないため、その実態はあまり知られていない。易感染性はIEIの中核症状の一つであり、その重症度は疾患や患者個人によって異なるが、造血細胞移植(stem cell transplantation; SCT)をはじめとした感染症治療・予防の種類や頻度などについてもやはり詳しくは知られていない。さらに、重症複合型免疫不全症(severe combined immunodeficiency; SCID)など、一部のIEIでは細胞性免疫不全により生ワクチン接種が禁忌とされるが、患者で実際に生ワクチンがどの程度回避されているかという報告はない。国内では2011年に石村らが全国のIEIの調査を行っているが、この時は主に自己免疫疾患や悪性疾患など、易感染性以外の免疫不全症状が注目されていた。さらに、次世代シーケンサ―の普及とともにIEIの原因遺伝子は飛躍的に増加し、2011年の時点で約160程度の原因遺伝子が報告されていたが、直近の分類では430もの原因遺伝子が報告されている。IEIの新規治療法を開発するにあたり、対象疾患の頻度や現状、遺伝子診断の実施率など、国内の実態の再確認が必要であると考えられた。

対象と方法:
2018年1月1日から12月31日までの1年間で診療した患者数を問う一次調査を、ランダムに抽出された全国の5つの診療科(小児科・内科・血液内科・膠原病内科・皮膚科)を標榜する病院・施設へ郵送した。一次調査の結果、一人以上の患者を診療していると回答した施設に対して郵送アンケートによる二次調査を行った。二次調査の内容として症例に関する一般的な項目(診断名、現年齢、診断時年齢、性別)、臨床症状や診断に至った兆候、これまでに行った感染症予防法や予防接種などに関して質問した。

結果:
全国12,517施設から1307名の患者が報告され回答率は診平均28%であった。2018年時点でIEIの頻度は人口10万人あたり2.2人と計算された。二次調査の結果、750名分の回答が得られ(回答率57%)、遺伝子診断がなされた患者は552名(74%)、SCTを施行されたのは128名(20%)であった。疾患カテゴリーに関しては自己炎症性疾患が最多であり、単独の遺伝子診断としては家族性地中海熱が最多であった。ワクチン接種歴について調査した結果、SCIDの26%、複合免疫不全症(combined immunodeficiency; CID)の54%で禁忌とされる生ワクチンが接種されていることが判明した。また、慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease; CGD)やメンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(mendelian susceptibility to mycobacterial disease; MSMD)では一般的にBCGが禁忌とされているが、本調査結果からはCGDの48%,MSMDの82%でBCGが接種されていること、さらにその中でCGDの25%、MSMDの55%もの患者が有害事象であるBCG感染症を発症していたことが判明した。

小括:
10年ぶりとなるIEIに関する全国調査を行い、本邦におけるIEIの頻度は2.2人/10万人と推計された。SCTを行った患者は20%報告され、ドナー検索や移植種片対宿主病(graft versus host disease; GVHD)などの問題を考えるとやはり遺伝子治療の需要が高い領域であると考えられた。自己炎症性疾患など、成人期に診断される疾患の頻度が増加していた。また、相当数のIEI患者が禁忌である生ワクチンあるいはBCGを接種されているという現状が明らかになり、早期診断・治療の重要性が改めて確認された。

<第二部>原発性免疫不全症に対する新規治療法の開発
背景:易感染性はIEIの中核症状の一つであり、重症度は疾患や患者個人によって異なるが、多くの患者が何らかの治療または予防的措置を必要とする。なかでもSCIDは、生後早期に重篤な感染症による致死的な経過をたどることが多い、IEIの代表的疾患である。患者は乳児期にSCTを必要とするが、GVHDや、適合ドナーがみつかりにくいなどの問題もある。SCIDは遺伝子治療の対象としてすでに1990年代から注目されてきた。初期の遺伝子治療ではレトロウィルスベクターを用いてT細胞機能の再構築に成功するという成果が得られたが、その後T細胞性腫瘍を発症するという重篤な有害事象が相次ぎウィルスベクターがゲノムに挿入されことによる遺伝毒性:genetic toxicityが重要視されるようになった。今回、ゲノム非挿入型のRNAウィルスであるセンダイウィルスに注目し、センダイウィルスベクター(SRV)を利用した遺伝毒性を排除した新規遺伝子治療法の着想に至った。

対象と方法:
SRVをIEI遺伝子治療に応用するため、疾患モデルとしてX-SCID(IL2RG欠損症)を選択した。ヒトIL2RGを欠損している細胞株ED40515を使用して、IL2RGの発現解析、および下流のJAK/STAT経路の活性化を評価することによりIL2RGの機能解析を行った。ヒト、マウス造血前駆細胞を用いて遺伝子導入実験や、colony forming cell(CFC) assay、マウスへの移植実験を行った。SRVの造血前駆細胞への影響を解析するため、GFP+/-細胞を回収しRNAシーケンスを行った。

結果:
ヒトT細胞由来ED40515にSRVを感染させ、GFPやhIL2RGタンパクが高レベルで発現していることを確認した。また、STAT5リン酸化をウェスタンブロットで確認し、機能的なレセプターを発現していることが認められた。SRVで遺伝子導入した細胞はCFC assayでも血球への分化が認められ、成熟したGFP陽性コロニーの形成を認めた。一方で、マウス・ヒト造血幹細胞ともに、SRV感染後に免疫不全マウスへ移植した場合、レシピエント体内での長期生着は確認されなかった。RNAシーケンスの結果、ヒト造血幹細胞ではSRV感染によりアポトーシス関連分子をはじめとした複数の経路の遺伝子発現が亢進していることが判明した。一方、1本鎖RNAウィルスに対する免疫応答であるIRF-3、IFNβなどの遺伝子発現は亢進していなかった。

小括:
SRVのIEI遺伝子治療への応用に向けて有用な結果が多く得られたが、一方で造血幹細胞などナイーブな細胞への生体内での負の影響も認められた。RNAシーケンスの結果からは、既報とは異なる未知の免疫反応が惹起されている可能性が示された。SRVによるタンパク発現は非常に強力であるため、発現量をさらに落としたベクターを用いて検証を続けることが重要だと考えられた。

総括、結論:
本研究の第一部、第二部を通して以下の重要な知見が得られた。
1. 本邦におけるIEIの有病率や疾患の分布など、全体像を把握することができた。これらのデータは今後IEIの疫学調査の基盤となることが予想される。
2. 本邦において相当数のIEI患者が、禁忌とされる生ワクチンやBCGを接種されていることが判明した。ワクチンそのものを廃止することは現実的でないので、IEI患者の早期診断・早期治療の重要性が浮き彫りになったと考える。
3. 機能的なサイトカインレセプターの発現や、高い効率での造血幹細胞への遺伝子導入など、SRVのIEI遺伝子治療への応用の可能性が示された。一方、細胞株とは異なり造血幹細胞などのナイーブな細胞はSRVによる免疫反応の惹起あるいは細胞死の誘導が課題となり、今後の研究課題が明らかになった。

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