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オートファゴソームの静電的成熟

中野, 沙緒里 東京大学 DOI:10.15083/0002002320

2021.10.13

概要

真核生物の大規模な分解機構であるオートファジーは、オートファゴソームというオルガネラによって分解基質がリソソームへ輸送される経路である。オートファゴソームは非常に動的なオルガネラである。膜小胞が細胞質成分を取り囲みながら伸長し、膜が閉鎖すると、二重膜のオートファゴソームが形成される。オートファゴソームはリソソームと融合しオートリソソームになる。隔離された細胞質成分はリソソーム内の分解酵素によって分解される。このようなオートファゴソームの形成過程において、オートファゴソームとリソソームの融合過程は厳密に制御されていると考えられる。なぜなら、未完成のオートファゴソーム中間体にリソソームが融合した場合、細胞質成分はリソソーム内に運搬されず、リソソーム内の酵素による分解を受けられない。オートファゴソーム中間体は膜が閉鎖して完成することで、オートファゴソームはリソソームと融合可能になる。従って、オートファゴソームはリソソームと融合できない形成途中の段階と、完成しリソソームと融合可能となった成熟段階との間で膜の閉鎖以外に膜の性質を大きく変化していると考えられる。

 STX17は成熟したオートファゴソームに特異的に局在するタンパク質である。STX17は形成途中のオートファゴソーム中間体には局在せず、完成したオートファゴソームにのみ局在する。STX17は成熟段階のオートファゴソームに特異的に局在することから、オートファゴソームの成熟に伴う何らかの性質変化を認識していると考えられる。STX17はオートファゴソームに局在するSNAREタンパク質であり、サイトゾル由来のSNAP29およびリソソーム上のVAMP8またはVAMP7とSANRE複合体を形成する。STX17が欠損すると、リソソームと未融合のオートファゴソームが蓄積するため、STX17はオートファゴソームとリソソームの融合に必要である。STX17はC末端側に膜貫通ドメインを持つテイルアンカータンパク質であり、オートファゴソームへの局在には膜貫通領域以降のC末端側が必要である。しかし、STX17がどのようにしてオートファゴソームの局在化時間を制御するか不明である。本研究はSTX17が成熟したオートファゴソームのみを認識する性質を利用し、オートファゴソームの成熟過程におこる膜の性質変化の実体を解明することを目的とした。

 まずSTX17がオートファゴソームに局在するために必要な分子内領域を探索した。STX17の2つの膜貫通ドメインは、ヘアピン構造を介した膜挿入に必要である。機能が未知であるC末端領域はSTX17のオートファゴソームへの局在に必要であるかどうか検討した。C末端領域のアミノ酸を全て欠損させた変異体は、オートファゴソームを含む全ての膜構造体に局在しなかったため、膜貫通ドメインに加えてSTX17のC末端領域はオートファゴソームを含む全ての膜構造体への局在に必要であると考えられた。

 テイルアンカータンパク質のオルガネラへの局在は膜貫通ドメインの疎水性度とC末端領域の正電荷アミノ酸によって制御される。ヒトのSTX17はC末端領域に7つの正電荷アミノ酸を含むため、STX17のC末端領域の正電荷アミノ酸がオートファゴソームへの局在に重要であるかどうかを検討した。7つの正電荷アミノ酸のうち、5つの正電荷アミノ酸欠損させるとオートファゴソームへの局在が有意に減少した。従って、C末端領域の正電荷アミノ酸はオートファゴソームへの局在に必要であることが示唆された。

 次に、STX17のC末端領域の正電荷アミノ酸のみでSTX17のオートファゴソームへの局在が十分かどうかを調べると、STX17は膜貫通ドメインとC末端領域の正電荷アミノ酸1つでオートファゴソームへ局在できることが示唆された。さらに、5つの正電荷アミノ酸はオートファゴソームへの局在効率を増加させることが示唆された。従って、STX17のオートファゴソームへの局在効率はC末端領域の正電荷アミノ酸の数に依存することが示唆された。

 STX17のC末端領域の正電荷量がオートファゴソーム局在を制御する機構として、オートファゴソーム膜上の脂質もしくはタンパク質の負電荷との静電的相互作用の可能性が考えられた。オートファゴソーム膜は他のオルガネラの膜に比べ、膜上の粒子密度が極めて低いことから、STX17はオートファゴソーム膜の負電荷脂質を認識している可能性を考えた。そこでリポソームを用いた膜挿入再構成実験により、STX17の負電荷膜選択性を調べることとした。STX17は負電荷リン脂質のホスファチジルセリンを多く含む負電荷量の多い膜に効率よく局在したことから、負電荷膜を好む性質、すなわち負電荷膜嗜好性を有することが示唆された。また、STX17の負電荷膜嗜好性はリン脂質の親水部(頭部)の選択性を有するかどうかを検証した。同じ負電荷量でリン酸化部位が異なるホスファチジルイノシトール3-リン酸(PI3P)、ホスファチジルイノシトール4-リン酸(PI4P)を含むリポソームに局在したため、STX17の負電荷膜嗜好性は脂質選択性が低いことが示唆された。

 融合準備期におけるオートファゴソーム膜が負電荷を獲得する、もしくは負電荷量を増加させるかどうかを検証した。既報の膜表面電荷検出プローブを用いて細胞膜やオルガネラの負電荷度を検出することができる。膜表面電荷検出プローブは正電荷アミノ酸のリジンを含む正電荷領域と膜挿入のためのファルネシル化部位配列を持つ人工配列タンパク質であり、リジンの数を変化させることにより膜の負電荷強度の違いを検出することが出来る。これらのプローブがオートファゴソームへ局在するかどうか調べると、最も強い正電荷をもつプローブは細胞膜に局在したがオートファゴソームに局在しなかったが、中程度の正電荷を持つプローブはオートファゴソームに局在した。従って、オートファゴソーム膜は細胞膜よりも弱い、中程度の負電荷を持つことが示唆された。さらに、生細胞タイムラプス解析から、オートファゴソーム中間体と比べて成熟したオートファゴソームおよびオートリソソームは強い負電荷膜へ変化することが明らかになった。

 STX17は負電荷リン脂質による負電荷膜嗜好性を持つことが示唆されたため、オートファゴソーム上で増加する負電荷量は特定の負電荷リン脂質の増加による可能性が考えられた。そこで、成熟したオートファゴソーム膜に豊富に存在する負電荷リン脂質を脂質プローブによるスクリーニングを行い探索した。その結果、オートファゴソーム形成後期に濃縮される負電荷脂質はPI4Pであることが示唆された。さらに、生細胞タイムラプス観察から、PI4Pは形成途中のオートファゴソーム中間体には存在せず、STX17がオートファゴソームへ局在する時間とほぼ同一であることが示唆された。これはリソソームとの融合前であることがわかった。以上の結果から、リソソームと融合前のオートファゴソームの成熟期においてPI4Pがオートファゴソーム膜上で増加することが明らかになった。

 オートファゴソーム膜のPI4PがSTX17のオートファゴソームへの局在に必要であるかどうかを調べた。SACM1L(以下SAC1)は小胞体や一部ゴルジ体に局在し、細胞膜やゴルジ体で合成されたPI4Pの脱リン酸化を担う。成熟オートファゴソーム単離液にSAC1タンパク質を加え、オートファゴソームのPI4Pを脱リン酸化した、PI4Pの消失したオートファゴソームにSTX17が局在するか調べた。ホスファターゼ不活型変異体を処理したオートファゴソームにSTX17は局在したが、活性型で処理したオートファゴソームへのSTX17の局在効率は有意に減少した。従って、オートファゴソームのPI4PがSTX17のオートファゴソームへの局在に必要であると考えられる。

 次に、オートファゴソームのPI4Pがオートファジーに重要であるかどうかを調べるために、細胞内でオートファゴソームのPI4Pを減少させる条件を検討した。PI4PはPIを基質として、PI4キナーゼによってイノシトール環の4位がリン酸化されることで新規に合成される。哺乳類では4種類のPI4キナーゼ(PI4KA, PI4KB, PI4K2A, PI4K2B)が同定された。そこで、siRNAを用いてPI4キナーゼノックダウン細胞を作製し、オートファゴソームのPI4Pが減少するかどうか調べた。その結果、PI4KBノックダウン細胞において、オートファゴソームのPI4Pが最も減少したためPI4KBはオートファゴソームのPI4P産生に寄与することが示唆された。

 PI4KBによるPI4P産生はオートファゴソームの負電荷を担うか調べると、PI4Bノックダウン細胞でオートファゴソームの負電荷量が有意に減少した。従って、オートファゴソームの負電荷の増加にPI4Pが寄与することが示唆された。さらに、オートファゴソームの負電荷量の増加がSTX17のオートファゴソームへの局在に必要かどうかを調べた。PI4KBノックダウン細胞でオートファゴソーム上のSTX17が有意に減少したため、PI4KBノックダウンによるPI4Pおよび膜の負電荷量の減少はSTX17のオートファゴソーム局在を阻害すると考えられる。従って、STX17のオートファゴソームへの局在はPI4KBによるPI4Pの産生に伴う膜の負電荷量の増加によって制御されることが示唆された。

 最後に、PI4KBノックダウン細胞におけるSTX17のオートファゴソームへの局在阻害がオートファジーに影響を与えるかどうかを検証するために、本研究室で開発された新規オートファジー活性評価プローブを用いてオートファジー活性を測定した。その結果、PI4KBノックダウン細胞は、STX17ノックダウン細胞と同様にオートファジー不全であることがわかった。従って、オートファゴソームが成熟期においてPI4Pによる負電荷を獲得することは、STX17のオートファゴソーム局在の制御を通して、オートファジーに重要であることが示唆された。

 本研究はオートファゴソームへの局在に必要なSXT17の分子内領域の探索から、C末端領域の正電荷アミノ酸がオートファゴソームへ局在するために必要であることを明らかにした。また、オートファゴソームは成熟期にPI4Pの濃縮によって膜の負電荷量が増加することを明らかにした。本研究はオートファゴソームの成熟時に生じる膜の物性変化を明らかにしたことで、リン脂質の負電荷が静電的相互作用によってタンパク質の局在制御を担うという全く新しい概念を提唱した。この概念はオートファゴソームのみならず他のオルガネラでも経時的な膜物性の変化が機能に重要である可能性を示唆する。

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