紫外線照射下での芳香族硫黄化合物の分解による液体燃料からの脱硫
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Desulfurization from Liquid Fuels by
Decomposition of Aromatic Sulfur Compounds
under Ultraviolet Irradiation
篠﨑, 貴旭
https://hdl.handle.net/2324/6787401
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(理学), 課程博士
バージョン:
権利関係:
(様式3)
氏
名
:篠﨑
貴旭
論 文 名
:Desulfurization from Liquid Fuels by Decomposition of Aromatic Sulfur
Compounds under Ultraviolet Irradiation
(紫外線照射下での芳香族硫黄化合物の分解による液体燃料からの脱硫)
区
:
分
甲
論
文
内
容
の
要
旨
動植物を起源とする化石燃料には一定の割合で硫黄化合物が含まれている。例えば原油には数%
の硫黄が含まれており,そのまま燃料に用いると様々な問題が生じる。自動車の観点からは三元触
媒の被毒や燃費の低下を引き起こし,環境の観点からは燃焼の際に生じる二酸化硫黄によって酸性
雨などの大気汚染の原因となる。一般的に石油からの脱硫は,10 mg/L 以下にまで低減する水素化
脱硫法が広く用いられているが,ジベンゾチオフェン類 (DBT 類) などの芳香族硫黄化合物は,難
脱硫性物質として知られており,置換基を多く有する DBT 類ほど脱硫率が低下するとされている。
これらの化合物の脱硫には高温 (250—400 °C),高圧 (5—100 atm) 条件下の触媒プロセスが必要で
あり,環境負荷やコストの低減の観点から,効率的な脱硫法の開発が求められている。
著者らは室温,大気圧,無触媒,添加剤フリー条件下で DBT 類の C—S 結合の切断を目的とし,
DBT 類中に含まれる硫黄分は硫黄 (単体) として,残りの炭化水素類は燃料として再利用できるモ
デルを確立し,環境負荷が少ない新規脱硫法の開発を行った。
モデル溶液としてシクロヘキサンに DBT 類を溶解させ,室温および大気圧条件下で紫外線を照
射したところ,4,6-DMDBT や 4-MDBT の方が DBT よりも減少率は大きく,4,6-DMDBT の分解
率は 14 時間で 100% に達し,DBT,4-MDBT の分解率は 16 時間で 100% に達した。この傾向
は,アルキル基の置換によって脱硫率が大幅に低下する水素化脱硫法とは大きく異なる結果となっ
た。また,分解するに伴って黄色の沈殿物が析出した。この沈殿物を濾別し,高速液体クロマトグ
ラフ及び大気圧固体試料プローブで分析を行った。その結果,析出した沈殿物は硫黄の同素体 (Sn)
であることが明らかとなった。加えて,重水素標識実験により,DBT の炭化水素部分の分解物の同
定を行った。DBT-d8 を含む溶液に紫外線を 24 時間照射後,ガスクロマトグラフィー質量分析法
で分析したところ,ベンゼン-d4 が検出された。これらの結果から,従来よりも温和な条件下 (室温,
大気圧,無触媒,添加剤フリー) で DBT 類を分解することができ,DBT 類中の硫黄分は硫黄の同
素体 (Sn) として,炭化水素部分の分解物の一部としてベンゼンを検出することに初めて成功した。
また,紫外線照射による分解反応の反応速度を調査したところ,擬一次反応であることを明らかに
した。さらに,密度汎関数計算を用いて,紫外線照射による分解機構を提唱した。