暑熱ストレス耐性は2000年代から低下傾向：乳量や体細胞の変化から個体ごとに調査

概要

暑熱ストレス耐性は2000年代から低下傾向：乳量や
体細胞の変化から個体ごとに調査
著者
雑誌名
巻
号
ページ
発行年
URL

萩谷 功一
デーリィマン
70
8
72-73
2020-08
http://id.nii.ac.jp/1588/00004658/

暑熱ストレス耐性は
2000 年代から低下傾向
乳量や体細胞の変化から個体ごとに調査
帯広畜産大学生命食料科学研究部門准教授萩谷

kg
28
27

図2個体別の暑熱ストレス耐性
I
I
l
l

・・・岨曲目・・

II

今月は暑熱ス ト レス

26 I

、、

... _

25
乳
量24
ーーー晒種雄牛Aの娘牛平均
．．，．種雄牛Bの娘午平均

22

功一

THIに対する乳量の変化（泉ら、2019)

21
20
57

59

61

63

65
THI

述べる。（筆者）

康にも及ぶことを考えると、 暑熱
視できない。

健康面と生産性、個体ごとに
影響の表れ方が異なる

四ーー暑熱グループ1
・・・暑熱グループ2
．・・・・・暑熱グループ3
、
咽翻偶蹄暑熱グ ループ4
翻噛翻暑熱グループ5

5
L

乳量に加え繁殖成績など
損失無視できない

個々の乳牛の暑熱ストレス耐性
の違いは、 暑熱下における乳量の

-2

低下量や体細胞スコアの上昇量を
41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83
THI

先月号 では暑熱ストレス

比較することが目安になる。 図 2
に暑熱ストレス耐性の違いのイメ
ー

の影響が表れるまで、 乳量で3日

介する。 ここでいう慣れとは、 冷

は、 いずれもTHI60～65辺りに

間、 体細胞スコアで8、 9日間の

涼な地域の乳牛と比較し、 温暖な

関値があり、 これを超えた際の低

種雄牛AとBの娘 午 はそれぞ

タイムラグがあること、 THI（温

地域で飼養されている乳牛の暑熱

下量に大きな違いはないように見

れ、 暑熱ストレスがない場合、 1

える（図 1 ）。

－

ジを示した。

日当たり平均27kgと28kgの乳量

湿度指数、 6月号80～s1； 参照）

ストレスの関値が高い、 あるいは

については60～65辺りに関値（し

影響の表れ方が緩やかであるな

地域差があるなら、 個々の乳牛

を期待できる。 しかしながら、 両

きいち）があり、 それを超えると

ど、 地域によって暑熱ストレスの

の暑熱ストレス耐性を推定する際

者の暑熱ストレス耐性が異なるた

暑熱ストレスの影響が表れること

影響の表れ方が異なるという意味

は、その差を補正する必要がある。

め、暑熱環境下において種雄牛A、

を述べた。

である

しかし、 暑熱ストレスが大きい地

Bそれぞれの娘牛の乳量が逆転す

調査に当たり、 近年の8月の平

域ほど関値が高い、 あるいは関値

る。 具体的には、 暑熱ストレスの

について説明する前に、 まず、 暑

均THIと牛群検定記録数を目安と

を超えた際の低下量が緩やかであ

ない環境ではBの娘午が優れてい

熱環境への慣れが数値に影響する

して全国を5つの暑熱グル ー プに

るといった傾向は認められなかっ

るが、 THii;r i68を超え る環境下

可能性について調査した結果を紹

区分した（表）。 各グルー プの乳量

た。 舎内送風、 屋根への散水、 屋

ではAの娘牛の方 が乳量は多い口

個々の乳牛の暑熱ストレス耐性

D

地域別暑熱グループ（泉ら、2019)

表

ープ
グル熱

丹
平8均
HI
Tの

気温 の 目 安
（相 対 湿度 7 0%)

1

67未満

20℃未満

2

67

3

68～72

暑

4

73～77
78以上

DAI附

2

記録数

平均（k日 乳） 量
g

釧路、 根室

4,571,840

27.7

20～21℃

網走、宗谷

3,028,285

25.1

21～24℃

石狩 、 十勝など上記以外の北海道

2,434,354

26.9

25～27℃

東北地方、茨 城 、 栃木 、 群馬 、 埼玉 、
新潟、 長野、 山梨

1,399,491

千葉 、 東京 、 神奈川 、 新潟を除く
北陸、山梨、長野を除く甲信・東海、
近畿以西

2,102,511

28℃以上

67

ストレスによる経済的な影響は無

1
一

乳最の低下量

く際の考え方について

72

、 ...

5
仏

遺伝的改良を行ってい

、 ‘・ ‘

23

kg
0

耐性の個体差と、 今後

...

l
l
I

55

図1

h

主な地域

28

27.8

根断熱など暑熱対策は地域より

暑熱ストレス耐性を数値化する場

も、 むしろ酪農家ごとに異なる 口

合、 種雄牛AとBそれぞれについ

そのため、 個々の乳牛の暑熱スト

て、 暑熱環境下における乳量の低

レス耐性を推定する際、 地域の違

下量（直線の傾き）を指標とするこ

いによって関値や低下量を補正す

とができる。

る必要はないと推察した。
図1の縦軸から乳量低下量を読

この例において、 種雄牛AはB
よりも暑熱ストレス耐性が高い。

み取ると、 乳量に対する暑熱スト

耐性の評価に当たり、 乳量に対す

レスの影響はそれほど大きくない

る影響の大きさを目安としたが、

と思われるかもしれない。しかし、

体細胞スコアについても乳量と同

影響は乳量だけでなく繁殖性や健

様に上昇量を暑熱ストレス耐性の

kg国2個体別の暑熱ストレス耐性の遣いのイメ
29

23

19)

．・輔，種雄午B の娘牛平均

21
20

55

57

59

61

63

65

THI

67

康にも及ぶことを考えると、 暑熱

73

75

-0.1
1990

下量に大き な違 い は な い ように見
える（図1)
地域差があるなら、 個々の乳牛
の暑熱ストレス耐性を推定する際
は、その差を補正する必要がある。
しかし、 暑熱ストレスが大きい地
域ほど関値が高 い 、 ある い は闇値
を超えた際の低下量が緩やかで、 あ
ると い った傾向は認められ なかっ
た。 舎内送風、 屋根への散水、 屋
根断熱 など暑熱 対策は地 域より
も、 むしろ酪農家ごとに異なる 。
そのため、 個々の乳牛の暑熱スト
レス耐性を推定する際、 地域の違
い によっ

て関値や低下量を補正す

る必要 はな い と推察した。

家畜改良センタ ー が中心となり、 種

性の種雄牛ランキングは、 それぞ

雄牛の暑熱ストレス耐性に関する

れ順位が異なることが分かつてき

遺伝的能力評価値を公表できる よ

た。 このことから、 暑熱ストレス

う準備を進めている。 特に西日本

の影響が乳量をはじめとした 生産

など、 夏季の暑熱ストレスが厳し

の違 い は、 暑熱下における乳量の

形質に表れやす い 個体と、

体細胞

し、環境にお い て、 ストレス耐性が

低下量や体細胞スコアの上昇量を

など健康面に表れやす い 個体が存

高 い 種雄牛を優先的に使用するこ

比較することが目安になる。 図2

在すると考えて い る。

とで暑熱ストレスの影響を遺伝的
な側面から改善できるようになる

ージを示した。
種雄牛AとBの娘 牛 はそれぞ

評価値の公表へ
家畜改良センタ ー が準備申

れ、 暑熱ストレスが な い 場合、 1
日当たり平均27kgと28kgの乳量

乳量と暑熱ストレス耐性との聞

を期待できる。 しかしながら、 両

には、 遺伝的にマイナスの相関関

者の暑熱ストレス耐性が異なるた

係があることが明らかになってい

め、暑熱環境下にお い て種雄牛A、

る。 このことは、 暑熱ストレス耐

Bそれぞれの娘牛の乳量が逆転す

性に配慮すること なく乳量を改良

る。 具体的には、 暑熱ストレスの

し続けると徐々に乳牛の暑熱スト

な い 環境ではBの娘牛が優れてい

レス耐性が低下する可能性がある

る が、 THiiJl68を超える 環境下

ことを意味する。

ではAの娘牛の方が乳量は多 い 。

そこで、 1990年から2012年ま

暑熱ストレス耐性を数値化する場

でに生まれた個体について、 暑熱

それぞれにつ い

ストレス耐性に関する遺伝的能力

て、 暑熱環境下における乳量の低

の推移を確認した。 暑熱ストレス

下量（直線の傾き）を指標とするこ

耐性は、 2000守牟代になって種雄

とカ3できる。

牛に低下傾向が 表れ、 続いて雌牛

合、 種雄牛AとB

種雄牛AはB

も低下した（図3）。 種雄牛の遺伝

よりも暑熱ストレス耐性が高い。

的能力が娘牛に伝わる ため、 まず

み取ると、 乳量に対する暑熱スト

耐性の評価に当たり、 乳量に対す

種雄牛の暑熱ストレス耐性が低下

る影響の大きさを目安としたが、

し、

体細胞スコアについても乳量と同

たと考える。

と思われるかもしれな い 。 しかし、
影響は乳量だけでなく繁殖性や健

10

目安として 表した暑熱ストレス耐

図1の縦軸から乳量低下量を読
レスの影響はそれほど大きくない

05

気温が上昇傾向にある中、 乳牛の

指標にできる。

に暑熱ストレス耐性の違 い のイメ
HI60～65辺りに

生年

きな い 問題である。そこで現在、（独）

個々の乳牛の暑熱ストレス耐性

閥値があり、 これを超えた際の低

2000

析の結果、 乳量と体細細スコアを

健康面と生産性、個体ごとに
影響の表れ方が異なる

い ずれもT

95

暑熱ストレス耐性の低下は無視で

視できな い 。

は、

71

しかし、 筆者らによる最新の分

ストレスによる経済的な影響は無

3 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83

69

ーーー雌
・ーーー雄

F－D
nU
－
AU

功一

圃醐帽・種雄牛Aの娘牛平均

22

』司

24

．
、
、
、．
．
．
‘
、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
，
，
、
、

25

AU

乳
量

EU

26

図3暑熱ストレス耐性に関する遺伝的動向（Maら、2019)

nu
，AU
A

部門准教授萩谷

27 I

AU

5ごとに調査

、

0.15

’I

ら低下傾向

I ・”・・・圃，．、

ジ
熱ストレス耐 性推定育種 価
同省

28

ー

この例にお い て、

様に上昇量を暑熱ストレス耐性の

1 世代後の雌牛に傾向が 表れ

地球温暖化により、 日本全体の

ことを期待したい。
［参考文献｝
泉慶 一郎 ・ 高木文乃 ・ 大津剛史 ・ 山
崎武志・萩苔功 一（2019）「ホルス タ
イン種の暑熱ストレ スにおけるしき
し E 値の地域差に関する検討j『日本畜
産学会第125回大会講演要旨』pp.155
Ma Zhuowei ·安宅倭 ・ 大津剛史 －
山崎武志・JI[上純平 ・ 萩谷功一（2019)
「ホルスタイン種の暑熱ストレス耐性
に関する遺伝的趨勢」『日本畜産学会
第 126回大会講演要旨』pp.95

プロフィル
はぎや

こういち

1970年生まれ、 札幌市出身。93
年帯広畜産大学畜産学部家畜生産
学科卒業。94 ～98年欄十勝家畜
人工授精所入り 、 この間 、 帯広畜産
大学大学院修了 、 98 ～ 2001年岩
手大学連合大学院連合農学研究科
修了 、 同年肘）日本ホルスタイン登
録協会北海道支局入り。 ...