リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「腎疾患治療法確立に向けた新規腎病態進展関連因子の探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

腎疾患治療法確立に向けた新規腎病態進展関連因子の探索

三宅, 芳明 大阪大学

2022.03.24

概要

腎臓は、血液濾過による尿生成や、赤血球の産生制御ホルモンであるエリスロポエチンの産生、カルシウム・リン代謝の調節等の多くの機能を有し、生命維持において必要不可欠な臓器である。我が国において、慢性腎臓病(Chronic kidney disease; CKD)患者は1,330万人いるとされ、新たな国民病として注目されている。CKDが進行すると末期腎不全に至り、透析導入による患者のQOLの低下や、国民医療費の圧迫が大きな問題となっている。他方、急性腎障害(Acute kidney injury; AKI)は急激に腎機能が低下した状態を指し、虚血や腎毒性物質等により発症する。AKIは、原因の除去により腎機能が回復する一過性の病態と考えられてきたが、AKIを発症した患者の多くが将来的にCKDとなり、末期腎不全に至ることが報告されている。CKD及びAKIを含め、多くの腎疾患の病態形成機構には不明な点が多く、新たな腎病態関連因子の探索が重要である。本研究では、腎線維芽細胞及び尿細管上皮細胞で発現するPBX/Knotted Homeobox 2(PKNOX2)、ポドサイトで発現するold astrocyte specifically induced substance(OASIS)に着目し、腎病態形成機構の解明を目指した。

 第一章では、腎臓の線維化進展における転写因子PKNOX2の役割を追究した。腎線維化は全ての腎疾患の最終共通経路であり、線維化の機序を理解することは、末期腎不全に対する新規治療法の開発に繋がると期待される。著者らは、マウス線維化腎における遺伝子発現をDNA microarrayにより解析し、Pknox2が発現上昇することを見出した。PKNOX2は、three amino acid loop extension(TALE)ファミリーに属するホメオドメインタンパク質である。PKNOX2はこれまで、胃がん細胞の増殖、遊走を制御することでがん進展を抑制することや、マウスの前肢形成に関与すること等が報告されているが、腎臓における発現様式や機能は全く明らかとなっていない。まず初めに、マウスにunilateral ureteral obstruction(UUO)処置を施すことで腎線維化を惹起させ、線維化腎におけるPKNOX2の発現を評価した。その結果、UUO処置後経時的にPKNOX2の発現量が増加することが明らかとなった。次に、PKNOX2発現細胞の同定を目的に免疫染色を実施した。その結果、線維化腎において、PKNOX2陽性の筋線維芽細胞の割合が上昇する一方で、PKNOX2陽性の尿細管上皮細胞の割合が低下していることが明らかとなった。よって、筋線維芽細胞及び尿細管上皮細胞で発現するPKNOX2が腎線維化に寄与することが示唆された。そこで、線維芽細胞におけるPKNOX2の機能を検討すべく、レンチウイルスベクターを用いてラット株化腎線維芽細胞(NRK49F細胞)におけるPKNOX2発現抑制系を構築し、各種解析を実施した。その結果、PKNOX2の発現抑制により、筋線維芽細胞のマーカーであり、TGF-β1処置により誘導されるα-SMAの発現が減少したことから、線維芽細胞で発現するPKNOX2は、筋線維芽細胞への分化に関与している可能性が示された。また、PKNOX2が腎線維芽細胞の遊走及び生存に関与することが明らかとなった。最後に、尿細管上皮細胞におけるPKNOX2の機能を検討すべく、ヒト近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)を用いた検討を実施した。その結果、尿細管上皮細胞におけるPKNOX2の発現抑制は細胞死を誘導することが明らかとなり、線維化腎の尿細管上皮細胞で発現低下するPKNOX2は尿細管上皮細胞の細胞死を誘導することで腎線維化進展に寄与している可能性が示された。これらの結果から、筋線維芽細胞及び尿細管上皮細胞で発現するPKNOX2が、腎線維化進展に寄与している可能性が示された。

 第二章では、ポドサイトにおける転写因子OASISが腎恒常性に与える影響について評価した。ポドサイトが障害を受けると、糸球体は濾過装置としての働きを失い、タンパク尿が生じ腎機能は低下していく。糖尿病性腎症(DN)や糸球体腎炎等の多くの腎疾患においてポドサイト障害が認められていることから、ポドサイト障害が生じる分子メカニズムの解明が新たな腎疾患治療法の開発に繋がる可能性がある。著者らは近年、線維芽細胞で発現するOASISが腎線維化を悪化させることを明らかとし、またOASISが糸球体において主にポドサイトで発現していることを見出した。そこでまず初めに、ポドサイト障害を惹起することが報告されているlipopolysaccharide(LPS)を用いて、ポドサイトで発現するOASISと病態との関連を検討した。その結果、ポドサイトにおいてOASISはLPS/TLR4シグナルにより発現誘導を受けることが明らかとなり、OASISがポドサイト障害に関与する可能性が示された。次に、ポドサイトにおけるOASISの病態学的意義を明らかにすべく、ポドサイト特異的OASISノックアウトマウス(OASIS cKOマウス)にLPSを投与し、病態を解析した。腎障害の指標となる尿中アルブミン/クレアチニン比を測定したが、予想に反して、LPS投与群において、OASIS cKOマウスと対照群との間で有意な差は認められなかった。その一方で、腎機能の指標となる血清クレアチニン値に関しては、LPS投与による上昇がOASIS cKOマウスでは有意に抑制されていた。また、OASIS cKOマウスでは、LPS投与によるポドサイト障害には差が認められなかった一方で、尿細管の障害が抑制されていることが明らかとなった。さらに、LPS投与モデルと同様にDNモデルにおいても、ポドサイトのOASIS欠損は、ポドサイトの障害には大きな影響を与えない一方で、尿細管の障害を抑制した。これまでの検討から、病態時にポドサイトで発現上昇するOASISは、ポドサイト自身には大きな影響を与えない一方で、尿細管の障害を介して腎病態進展に寄与している可能性が示された。そこで、腎病態時のポドサイトにおいて、転写因子であるOASISが何らかの分泌タンパクの発現を制御し、その分泌タンパクが尿細管の障害に関与する可能性を想起した。そこで、DNA microarrayを用いてポドサイトにおけるOASISの下流因子の探索を試み、PRKCIを見出した。また、LPS投与を施したOASIS cKOマウスでは、ポドサイトで産生増加したPRKCIが尿中を介して尿細管上皮細胞に作用し、尿細管障害に対して保護的に機能している可能性が示された。さらに、生体におけるポドサイトのOASISの機能をより詳細に検討すべく、ポドサイト特異的OASIS過剰発現マウスを用いた検討を実施した。その結果、ポドサイトにおけるOASISの過剰発現は、アルブミン尿の増加やポドサイトの足突起の消失に加えて、尿細管障害や腎線維化をもたらすことが明らかとなった。最後に、ヒトにおいてもポドサイトのOASISが病態進展に関与しているか調べるために、腎疾患患者の検体を用いた検討を行った。なお、LPS投与による腎障害は、微小変化型ネフローゼ(minimal change nephrotic syndrome; MCNS)の病態の一部を反映していることが報告されている。そこで、MCNS及びDN患者の腎組織切片を用いて免疫染色を実施したところ、MCNS、DN患者の糸球体において、OASIS陽性のポドサイトの割合が上昇することが明らかとなった。よって、ヒトにおいても、ポドサイトのOASISが病態進展に寄与している可能性が示された。

 腎機能の低下により、末期腎不全に至る患者数は世界的に増加傾向にあり、問題視されている。しかしながら、腎疾患の病態形成機構には不明な点が多く、その治療効果は限定的である。本研究結果は、腎病態進展機構の一端を解明し、新規腎疾患治療法確立の一助となるものである。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る