New Methods for the Construction of Polycyclic Skeleton Directed toward Daphniphyllum Alkaloid Synthesis [an abstract of entire text]
概要
ユズリハアルカロイドはユズリハ属の植物から単離される天然物であり、複雑な縮環骨格を有することから、全合成の標的化合物としての研究が盛んに行われている。これまでに330種類を超えるユズリハアルカロイドが報告されているが、それらに広く共通する特徴的な構造として[7-5-5]三環性炭素骨格がある(Figure1)。この骨格を有する天然物の全合成例がいくつか報告されているが、それらはすべて[7-5-5]三環性炭素骨格を全合成の終盤に構築する戦略を採用している。このような背景のもと、本学位論文はユズリハアルカロイドの包括的な合成を指向した、[7-5-5]三環性炭素骨格を初期に構築する合成手法の開発について述べたものである。以下にその概要を示す。
1. [7-5-5]三環性炭素骨格の新規構築法の開発
申請者はジビニルシクロプロパン転位とシクロペンタジェニルアニオンの分子内環化反応を鍵反応とした[7-5-5]三環性炭素骨格の新規構築法を開発した(Scheme1)。市販のケトニトリル1を4工程の変換によって3員環ニトリル2へと誘導し、シクロペンテノン(3)との共役付加反応によってケトン4を得た。ケトン4を2工程でェノン5に変換した後、これを加熱することでジビニルシクロプロパン転位反応が進行し、望みの[7-5]二環性化合物6が得られた。さらに、3工程の変換によって二炭素側鎖の導入とシリルェノールェーテル化を行い、化合物7へと導いた。これにLHMDSを作用させると、反応系中でシクロペンタジェニルアニオン8の生成、および分子内アルキル化反応が進行した。得られた生成物を低温条件下、メタンスルホン酸で処理することによって、目的の[7-5-5]三環性炭素骨格を有する化合物10が得られた。
2. ユズリハアルカロイドの全合成研究
第1章で述べた[7-5-5]三環性炭素骨格の新規構築法を応用し、ユズリハアルカロイドの全合成研究に着手した(Scheme2)。3員環ニトリル11を高度に官能基化されたジビニルシクロプロパン12へと誘導し、これをPd(dba)2およびdppp共存下で加熱した。これによってπ-アリルパラジウム種13を経由した形式的ジビニルシクロプロパン転位が進行し、[7-5]二環性化合物14を得た。ニトリル14から、位置および立体選択的な共役付加反応による7員環上の二連続四級炭素の構築とシリルェノールェーテル化を経て、シクロペンタジェン15を合成した。これに対してKHMDSを作用させるとシクロペンタジェニルアニオンの分子内アルキル化が進行したが、望みの[7-5-5]三環性化合物ではなく、[7-5-4]三環性化合物16が得られた。しかし、これをトルェン溶媒中で加熱すると、形式的[1,5]-シグマトロピー転位が進行し、最後にTBAFで処理することによってcaldaphnidine Bの[7-5-5]三環性炭素骨格に相当する化合物18aおよび18bの合成に成功した。これらの化合物は、ホモプレニル基およびシアノ基を足掛かりとして2つの6員環を形成することで、caldaphnidine Bへと誘導可能な中間体とみなすことができる。