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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における健康関連quality of lifeは肺動脈血栓内膜摘除術とバルーン肺動脈形成術によって同等に改善する。」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における健康関連quality of lifeは肺動脈血栓内膜摘除術とバルーン肺動脈形成術によって同等に改善する。

Tamada, Naoki 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景】
慢性血栓塞栓性肺高血圧症は器質化した血栓により肺動脈が狭窄・閉塞し、肺血管抵抗上昇から肺高血圧症並びに右心不全を来す病態である。未治療の状態では非常に予後不良で、平均肺動脈圧の上昇に伴い予後不良であることが過去の研究から示されている。肺動脈血栓内膜摘除術は器質化血栓を開胸手術で取り除くことにより、平均肺動脈圧や肺血管抵抗といった血行動態指標や 6 分間歩行距離などの運動耐容能指標の改善、更に予後をも改善させることが報告されており慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する第一選択となっている。しかし、器質化血栓が肺動脈末梢に限局する症例や、高齢者もしくは併存症のため開胸手術適応外とされる症例も少なくなく、そのような症例を対象に近年日本を中心にバルーン肺動脈形成術が行われるようになり、肺動脈血栓内膜摘除術と同様に血行動態、運動態容能、予後を改善させることが明らかとなっている。肺動脈血栓内膜摘除術およびバルーン肺動脈形成術といった侵襲的治療の発達により、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の臨床的アウトカムは近年改善をみせているが、quality of life (QOL)に関する研究は限定的である。

健康関連QOL は幅広いQOL の概念の中における、疾患および疾患に対する医学的介入に影響をうけるQOL のことを指す。健康関連 QOL は主観的指標であり、前述の血行動態や運動耐容能といった客観的指標とは一線を画する重要な臨床的指標であると言える。これまでの研究で、慢性血栓塞栓性肺高血圧症において肺動脈血栓内膜摘除術もしくはバルーン肺動脈形成術の施行によってそれぞれ治療前後で有意に健康関連QOL 指標を改善させたという報告があるが、同一研究において肺動脈血栓内膜摘除術群とバルーン肺動脈形成術群の健康関連QOL 指標の改善度を比較したものはない。本研究では、神戸大学医学部附属病院にて慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断を受け、肺動脈血栓内膜摘除術もしくはバルーン肺動脈形成術のいずれかを施行された症例において、治療前後の健康関連 QOL 指標の改善度の差が見られるかどうかを検討した。

【方法】
2014 年 1 月から 2016 年 12 月までの間に神戸大学医学部附属病院で慢性血栓塞栓性肺高血圧症と診断された 48 例を対象とした。慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断は病歴、身体所見、心電図、心エコー図、胸部 CT、肺換気血流シンチグラフィー、右心カテーテル、肺動脈造影の結果を総合的に判断し、ガイドラインに沿い行なった。

治療方針は、循環器内科および心臓血管外科の合同カンファレンスで決定した。肺動脈血栓内膜摘除術の適応は WHO 機能分類II 度から IV 度で、肺動脈造影所見上外科的に血栓が除去可能かつ開胸手術に耐えうるものとした。バルーン肺動脈形成術は肺動脈血栓内膜摘除術が不可能な患者に考慮した。

健康関連QOL 尺度としては、Medical Outcome Study 36-Item Short-Form Health Survey (SF-36)を使用した。SF-36 の質問票は 36 の質問項目から構成され、全て回答することにより 8 つの下位尺度と 2 つのサマリースコアを算出することができる。下位尺度には、身体機能 (Physical functioning: PF)・日常役割機能 (身体) (Role physical: RP)、身体の痛み (Bodily pain: BP)、全体的健康感(General health: GH)、活力 (Vitality: VT)、社会生活機能 (Social functioning: SF)、日常役割機能 (精神) (Role emotional: RE)、心の健康 (Mental health: MH)で構成される。これら 8 つの下位尺度から身体的側面の QOL サマリースコア (Physical component summary: PCS)および精神的側面の QOL サマリースコア (Mental component summary: MCS)を算出することができる。全ての下位尺度はまず素点として算出され、更に日本国民の平均値が 50、標準偏差が 10 となるように偏差値化することできるため日本国民標準値との比較ができる。2 つのサマリースコアについては算出時点で偏差値化されおり、素点は存在しない。本研究では被験者に診断時および侵襲的治療終了後の 2 回にわたり質問票を配布し、回答を得た。

健康関連QOL 以外の臨床的指標としては、WHO 機能分類・右心カテーテルによる肺動脈圧、心拍出量、肺血管抵抗・動脈血および混合静脈血酸素飽和度・運動耐容能・呼吸機能検査・脳性利尿ペプチド (BNP)の測定を診断時および侵襲的治療終了後の 2 回にわたり行なった。

【結果】
48 例のうち、15 例が肺動脈血栓内膜摘除術、30 例がバルーン肺動脈形成術の適応と判 断・治療された。3 例はいずれの侵襲的治療の適応とも判断されず薬物治療が行われた。バルーン肺動脈形成術で治療された 30 例のうち、6 例が治療前後で健康関連QOL の回答を得ることができなかったため、最終的に肺動脈血栓内膜摘除術で治療された 15 例およびバルーン肺動脈形成術で治療された 24 例について治療前後での解析を後ろ向きに行った。

まず背景因子であるが、5 例のバルーン肺動脈形成術施行例が基本的には肺動脈血栓内膜摘除術の適応とされる中枢型に分類された。5 例のうち 2 例は 75 歳以上の高齢者であるため、3 例は肺動脈血栓内膜摘除術を拒否されたため、最終的にバルーン肺動脈形成術が施行された。両群ともに年齢・男女比・肺血管拡張薬使用頻度・在宅酸素療法使用頻度に統計学的有意差は認めなかった。肺動脈血栓内膜摘除術群で有意に肺動脈圧・肺血管抵抗が高く、 6 分間歩行距離が短かった。

健康関連QOL 以外の臨床的指標における各治療方法の効果であるが、肺動脈血栓内膜摘除術群およびバルーン肺動脈形成術群ともに WHO 機能分類、平均肺動脈圧・肺血管抵抗・心係数などの血行動態、動脈血酸素飽和度、混合静脈血酸素飽和度、6 分間歩行距離、脳性利尿ペプチドの有意改善を認めた。最大酸素摂取量および VE/VCO2 という心肺運動負荷試験結果についてはバルーン肺動脈形成術群にて有意改善を認め、肺動脈血栓内膜摘除術群においては改善傾向を認めた。

次に健康関連QOL についてであるが、両群ともにほとんどの指標において著明な低値を認めた。特に、身体機能・日常役割機能 (身体)・全体的健康感・社会生活機能・日常役割機能 (精神)・身体的側面の QOL サマリースコアの平均値は両群ともに国民平均より 1 標準偏差以上の低値を認めた。身体の痛み・活力・心の健康は国民平均より 1 標準偏差以下の低値であり、精神的側面のQOL サマリースコアはほぼ国民平均と同等の値であった。肺動脈血栓内膜摘除術により身体機能・全体的健康感・活力・心の健康・身体的側面の QOL サマリースコアは有意に改善を認め、日常役割機能 (身体)・社会生活機能・日常役割機能 (精神)は改善傾向に留まった。バルーン肺動脈形成術では、身体の痛みと精神的側面の QOL サマリースコアを除くすべての値が有意に改善した。侵襲的治療前後における健康関連 QOL の差が肺動脈血栓内膜摘除術群とバルーン肺動脈形成術群の間で有意差を認めるかどうか検討したが、いずれの値も有意差は認めなかった。

【考察】
本研究は慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対して肺動脈血栓内膜摘除術もしくはバルーン肺動脈形成術を施行した患者における健康関連 QOL の改善度を後ろ向きに検討したものであ る。いずれの治療方法も右心カテーテル検査による血行動態・動脈血酸素飽和度・混合静脈血酸素飽和度・6 分間歩行距離・脳性利尿ペプチドを有意に改善した。これらの結果は過去の研究結果と一致し、本研究における患者群が過去の研究同様に適切に治療選択され、十分な治療を受けたことを示すものであると考える。

健康関連QOL スコアについてであるが、身体機能・全体的健康感・活力・心の健康・身体的側面のQOL サマリースコアは両群有意改善を認めた。一方で日常役割機能 (身体)・社会生活機能・日常役割機能 (精神)はバルーン肺動脈形成術群でのみ有意改善を認めた。肺動脈血栓内膜摘除術群ではこれらの値は改善傾向を認めるのみであったが、それはサンプル数の問題であったと考える。侵襲的治療前後における健康関連QOL の差は両群で有意差を認めなかった。過去の研究で慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における健康関連QOL を取り扱ったものは数少ないが、これまでの研究で肺動脈血栓内膜摘除術もしくはバルーン肺動脈形成術がそれぞれ健康関連QOL を改善させるということは判明しており、本研究の結果と合致する。しかし、同一研究内で両治療による健康関連QOL の改善効果を比較検討したものは本研究が初めてである。バルーン肺動脈形成術は比較的新しい治療方法である。かつて慢性血栓塞栓性肺高血圧症における治療方法が薬物治療と肺動脈血栓内膜摘除術しかなかった時代では、外科的治療適応外の症例において血行動態・運動耐容能はもちろん予後・QOL を劇的に改善させる方法はなかった。しかし、バルーン肺動脈形成術の発展により、かつてであれば外科的治療適応外の症例でも血管内治療により血行動態・運動耐容能・予後を改善させることができるということが報告されるようになってきた。本研究はそれに加えて、外科的治療適応外の症例において健康関連QOL を血管内治療により外科的治療と同等に改善させることができることを示すものである。

本研究の問題点として、後ろ向きかつ単一施設で症例数が少ないことである。さらに、後ろ向き研究のため、背景因子として肺動脈血栓内膜摘除術群とバルーン肺動脈形成術群との間で血行動態・運動耐容能に有意差を認め、選択バイアスが生じている可能性があることである。今後前向きかつ多施設での検討が望まれる。

【結論】
肺動脈血栓内膜摘除術とバルーン肺動脈形成術は同等に慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の健康関連QOL を改善する。

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