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大学・研究所にある論文を検索できる 「心房細動に対するカテーテルアブレーション周術期に発症する冠攣縮性狭心症の原因と予防に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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心房細動に対するカテーテルアブレーション周術期に発症する冠攣縮性狭心症の原因と予防に関する研究

Nakamura, Toshihiro 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景】
⼈⼝の⾼齢化に伴い⼼房細動を持つ患者数は増加の⼀途をたどっている。特に動悸や⼼不全などの有症候性の⼼房細動に対しては抗不整脈薬よりも⼼臓内にカテーテルを挿⼊して⾏う経⽪的カテーテル⼼筋焼灼術(カテーテルアブレーション)の効果が⾼い事が様々な研究で⽰されている。⼼房細動のカテーテルアブレーション治療において、左⼼房につながる肺静脈が⼼房細動の起源、持続の要因となっている事が多く、⾼周波カテーテルを挿⼊し肺静脈周囲を通電する事による肺静脈電気的隔離術が標準的治療法となっている。近年、⾼周波カテーテル以外にもバルーンテクノロジーが応⽤されるようになり、冷凍凝固バルーンアブレーション(クライオアブレーション)、⾼周波ホットバルーンアブレーション、そして、内視鏡レーザーバルーンアブレーションによる肺静脈隔離術も⾏われている。最近ではカテーテルアブレーションによる⽣命予後の改善効果も報告されており、今後も⼼房細動に対するカテーテルアブレーションの数は確実に増加すると考えられる。⼀⽅で、⼼タンポナーデ、⾎栓塞栓症、⾷道合併症などのカテーテルアブレーション治療に伴う合併症も存在し、それぞれの合併症の機序や予防に関して多くの基礎、臨床研究が⾏われている。冠攣縮性狭⼼症は、⼼臓の表⾯を⾛⾏する⽐較的太い冠動脈が⼀過性に異常に収縮した状態で起こる⼼筋虚⾎と定義され、⽣命予後は⼀般によいとされているが,冠動脈の器質的狭窄に冠攣縮を合併した場合や,冠攣縮が不安定化した場合には,急性⼼筋梗塞や突然死を起こすことも知られている。⼼房細動のカテーテルアブレーションの数が増加するに伴い、アブレーション周術期に冠攣縮発作が起こる事が症例報告として報告されている。しかしその頻度、発症様式やタイミング、重症度などを⼤規模な患者数での検討は⾏われていない。我々の研究の⽬的は、⼼房細動アブレーション治療中、治療後 24 時間以内に冠攣縮狭⼼症が発症した患者の詳細なデータを多施設で収集、解析し、今後アブレーション⼿技に関連した冠攣縮狭⼼症の発症予防につなげる事である。

【⽅法】
本邦における 15 施設において⼼房細動に対するカテーテルアブレーション治療を施⾏された 22,232 例を後⽅的に解析した。本研究において⼼房細動アブレーション治療に関連した冠攣縮性狭⼼症発作とは、カテーテルアブレーション治療中、治療後 24 時間以内に 12 誘導⼼電図で、新規の虚⾎性変化が記録され、かつこれが硝酸薬投与で速やかに改善が認められた場合と定義した。術中に起こる冠攣縮発作は、冠動脈に空気が混⼊する空気塞栓との鑑別が重要となるが、本研究においては以下の点に留意し冠動脈の空気塞栓の除外を⾏った。

1. 冠動脈造影検査を施⾏した症例では冠動脈に air が無い事。
2. 透視画像で左⼼房や⼼室などに air が無い事。
3. 硝酸薬投与で速やかに⼼電図変化(ST 上昇など)が改善した事。
なお、ST 上昇などの⼼電図変化があっても硝酸薬投与前に⾃然に改善した症例は空気塞栓との鑑別が困難なため本研究からは除外した。

【結果】
アブレーション中に冠攣縮を発症したのは 42 例/22,232 例 (0.19%)であった。その内、7例で重症化(⼼肺停⽌)を認めた。図1は冠攣縮発作が発症したタイミングを⽰す。42 例中、アブレーション治療中に発症した症例が 21 例 (⾼周波カテーテルによる肺静脈隔離: 11 例、クライオバルーンカテーテルによる肺静脈隔離:9 例、三尖弁下⼤静脈間峡部アブレーション:2 例)、アブレーション治療前に⽣じたものが 9 例 (⼼房中隔穿刺後:5 例、⼼腔内エコー挿⼊中:1 例、鎮静後:1 例、⼼房細動誘発中:1 例、⿏径部穿刺後:1 例)、アブレーション治療後に⽣じたものが 12 例 (イソプロテレノール投与後:4 例、⿏径部圧迫⽌⾎中:3 例、電気的除細動後:2 例、⼼房頻拍のマッピング中:1 例、病棟へ帰室中:1 例、病棟帰室後:1 例)であった。

冠攣縮発症時の⼼電図変化としては、33 例/42 例で下壁誘導の ST 上昇を認めた。緊急冠動脈造影検査を施⾏した 37 例の内、右冠動脈に閉塞/狭窄を認めた症例が 23 例、左冠動脈に閉塞/狭窄を認めた症例が 9 例、狭窄を認めなかった症例が 8 例存在した。肺静脈隔離中に冠攣縮を⽣じた症例では、クライオアブレーションを施⾏した症例は⾼周波アブレーション、ホットバルーンアブレーション、レーザーバルーンアブレーションを施⾏した症例に⽐べて有意に発⽣率が⾼かった (クライオ:11 例/3,288 例[0.34%], ⾼周波:8 例/18,596例 [0.04%], ホット:0 例/237 例 [0%], レーザー:0 例/111 例 [0%]; P<0.001)(図 2)。
また、肺静脈隔離中に冠攣縮発作を発症した症例において、治療中の肺静脈の分布としては、⾼周波アブレーション、クライオアブレーション両群において左上肺静脈を治療中に発症した症例が最も多かった(⾼周波:6/8 例、クライオ:7/11 例)(図3)。重症化(⼼肺停⽌)症例については、⾮重症化症例と⽐べると、持続性⼼房細動の割合が有意に⾼く(重症化症例:85%、⾮重症化症例:33%; p = 0.027)、冠動脈造影検査にて閉塞/⾼度狭窄所⾒を認める症例が有意に多かった(重症化症例:100%、⾮重症化症例:35%; p = 0.027)。

【考察】
冠動脈硬化症、薬剤溶出性ステント留置後、喫煙歴といった冠攣縮発作を誘発する危険因⼦は、以前より報告されている。しかし、本研究においては、冠攣縮を発症した患者群でこのような危険因⼦を持つ症例は少なかった。したがって、⼼房細動に対するカテーテルアブレーション周術期に発⽣する冠攣縮発作は、事前の患者背景からは予測が難しいと推察された。
冠攣縮発作が⽣じたタイミングとしては、⼼房中隔穿刺後、肺静脈隔離中、イソプロテレノール投与後、⿏径部圧迫⽌⾎中など⾃律神経系への影響を及ぼす⼿技の最中が多い傾向にあった。過去の報告ではカテーテルアブレーションにより⾃律神経の緊張を誘発し得ることや、肺静脈隔離術により肺静脈近傍の⾃律神経叢を修飾して⽣じる迷⾛神経反応は、⾼周波アブレーションと⽐べるとクライオアブレーションで多く⽣じ、左肺静脈を右肺静脈に先⾏して治療すると、有意に迷⾛神経反応が⽣じる事などが⽰されている。これらを考慮すると、カテーテルアブレーション治療⼿技による⾃律神経系への影響が、周術期の冠攣縮発作の発症に最も⼤きく影響していると推察された。その他の要因として、α2-受容体刺激薬 (デクスメデトミジン)による⾎管収縮作⽤が冠攣縮を誘発するという報告がある。本研究においては、冠攣縮を発症した症例の 86%でデクスメデトミジンが使⽤されていた。
今回の研究結果を踏まえ、冠攣縮の既往のある症例、あるいはクライオアブレーションを施⾏する症例において、冠動脈拡張薬であるニトログリセリンあるいはニコランジルの投与が冠攣縮発症予防の⼀つの選択肢であると考える。また、鎮静剤についてはデクスメデトミジンの使⽤は避け、プロポフォールを使⽤することも検討する。さらに、左肺静脈隔離中には冠攣縮発作が起こりやすい事から、持続的な⼼電図モニタリング、特に下壁誘導の ST 上昇に留意する必要があると考えられた。

・本研究の制約
本研究は後⽅的観察研究であるため、各症例の病歴や⼿技情報の⼀部が損なわれている可能性がある。また、冠攣縮発症例に対して急性期に冠攣縮誘発試験は⾏っていない。冠攣縮発作の発⽣率には⼈種差があることが以前より知られており、欧⽶⼈と⽐べて、アジア⼈の⽅が冠攣縮発症時に冠動脈多枝病変となる割合が⾼く、冠攣縮誘発試験における誘発性も⾼いという報告がある。本研究が⽰した冠攣縮発作の発症率に関しては⼈種により異なる可能性がある。

【結論】
⼼房細動アブレーション周術期における冠攣縮発作の発⽣率は 0.19%と稀であるが、⼼肺停⽌など重症化する症例も認めた。冠攣縮発作の発症タイミングとしては左肺静脈通電中や、クライオバルーン使⽤時の発症が多かったが、薬剤投与や圧迫⽌⾎中でも冠攣縮の発症を認めており常に注意が必要と考えられた。発症時には迅速な硝酸薬投与が推奨される。

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