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大学・研究所にある論文を検索できる 「黒毛和種におけるセシウムの体内動態 ― 動態パラメータによる組織中Csの動的平衡予測に基づく食肉の除染法の提案 ―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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黒毛和種におけるセシウムの体内動態 ― 動態パラメータによる組織中Csの動的平衡予測に基づく食肉の除染法の提案 ―

島岡 千晶 北里大学

2021.07.20

概要

2 0 11 年 3 月 に 発 生 し た 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 事 故 ( F D N P PA ) に よ り 大 量 の 放 射 性 核 種 が 大 気 中 に 拡 散 さ れ 、 福 島 県 を 中 心 に 広 い 範囲 で 汚 染 が 確 認 さ れ た 。 福 島 県 の 畜 産 業 は 、 農 業 の 主 要 部 分 で あ っ た た め 、 2 0 11 年 の 畜 産 産 出 額 は 、 前 年 比 7 7.1% ま で 低 下 し た 。

F D N P PA に 起 因 す る 放 射 性 核 種 の う ち 、 131 I と 132 Te は 、 そ れ ぞ れ物 理 的 半 減 期 が 約 8 日 と 7 6.8 時 間 と 短 い た め 、中 長 期 的 な 被 ば く 影響 は 少 な い 。 一 方 、 137 Cs は 物 理 学 的 半 減 期 が 3 0 年 と 長 く 、 今 も な お 環 境 中 に 多 量 に 残 存 し て い る 。セ シ ウ ム ( C s ) は 、カ リ ウ ム ( K) と 同 様 の 化 学 的 特 性 の た め 、 生 体 に 取 り 込 ま れ る と 特 に 筋 肉 に 蓄 積 さ れ る こ と が 知 ら れ て い る 。 し た が っ て 、 過 剰 な 放 射 性 セ シ ウ ム ( 134 C s + 1 3 7 C s : R C s ) を 含 む 食 肉 を 人 が 摂 取 す る こ と に よ る 内 部 被 ば く が 問 題 と な る 。 そ の た め F D N P PA 以 降 は 、 食 品 中 の 放 射 性 物 質 の 新た な 基 準 値 が 設 定 さ れ 、牛 肉 を 含 む 一 般 食 品 は 1 0 0 B q / k g と な っ た 。 こ れ に 併 せ 、牛 用 飼 料 中 の R Cs の 最 大 許 容 値 は 1 00 B q / k g ( 粗 飼 料 は 水 分 含 有 量 8 0 % 、 そ の 他 飼 料 は 製 品 重 量 ) と な っ た 。
福 島 県 内 で は 、2 018 年 3 月 ま で に 警 戒 区 域 を 除 く 地 域 で の 除 染 は 終 了 し た 。 除 染 さ れ た 農 地 や 牧 草 地 の 拡 大 は 畜 産 復 興 へ の 希 望 に つ な が る 。 一 方 、 畜 産 物 の 出 荷 制 限 や 自 給 飼 料 の 利 用 制 限 に よ り 、 自 給 飼 料 の 利 用 や 放 牧 に よ っ て 飼 育 さ れ た 牛 を そ の ま ま 出 荷 で き る と は 限 ら ず 、 そ の 場 合 、 R C s を 含 ま な い 清 浄 飼 料 の 給 餌 ( 飼 い 直 し ) が必 要 と な る 。牛 の 筋 肉 中 R Cs 濃 度 は 血 液 中 R Cs 濃 度 か ら 推 定 し て い る の が 現 状 で あ る が 、 R Cs の 吸 収 と 消 失 が 血 液 に 比 べ 骨 格 筋 で は 遅い た め 、牛 の 動 的 平 衡 の 違 い に よ っ て そ の 比 率 に は ば ら つ き が あ る 。

そ こ で 、本 研 究 で は 、Cs の 体 内 動 態 ( P K ) パ ラ メ ー タ に 着 目 し 、RC s摂 取 量 と 生 体 試 料 中 R Cs 濃 度 と の 動 的 平 衡 の 関 係 の シ ミ ュ レ ー シ ョン を 行 っ た 。 こ れ ら の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 用 い る こ と で 、 食 肉 中 の R Cs を 可 能 な 限 り 低 減 す る 可 能 性 や そ の 条 件 を 導 き だ せ る 。 第 一 章で は 、 基 礎 的 な 情 報 を 得 る た め に 、 安 定 セ シ ウ ム ( 1 3 3 C s : S C s ) の 体 内 動 態 試 験 に よ っ て 牛 に お け る P K パ ラ メ ー タ を 明 ら か に し た 。 第 二章 で は 、 第 一 章 で 得 ら れ た P K パ ラ メ ー タ を 使 用 し て 、 RC s 摂 取 量 と 生 体 試 料 中 R Cs 濃 度 と の 動 的 平 衡 の 関 係 を 予 測 し た 。第 一 章 お よ び 第 二 章 の 結 果 を 踏 ま え て 、第 三 章 で は 食 肉 中 R Cs 濃 度 を 尿 中 R Cs 濃 度 か ら 推 定 し 、 汚 染 放 牧 地 を ふ く む 環 境 か ら の 飼 い 直 し に よ る 最 適 な 除 染 法 を 提 案 す る こ と を 目 的 と し た 。

第 一 章 黒 毛 和 種 に お け る 塩 化 セ シ ウ ム 単 回 投 与 後 の 安 定 セ シ ウ ムの 体 内 動 態
黒 毛 和 種 に お け る C s の PK パ ラ メ ー タ を 明 ら か に す る た め に 、黒毛 和 牛 2 0 頭 ( 雌 ) を 静 脈 内 投 与 群 ( IV ) と 経 口 投 与 群 ( P O ) の 2 群 に わ け 、 そ れ ぞ れ の 牛 に 塩 化 セ シ ウ ム ( 1 3 3 C s C l : 2 0 m g / k g ) を 投 与 し た 。生 体 試 料 中 S C s 濃 度 は I CP - MS で 測 定 し 、 そ れ ぞ れ の 経 時 的 変 化 を 投 与 前 か ら 投 与 後 最 大 1 82 日 ま で 追 跡 し た 。 血 液 、 血 漿 の 実 測 値 か ら そ れぞ れ の 血 中 濃 度 - 時 間 曲 線 下 面 積 ( A U C ) を 算 出 し 、 平 均 滞 留 時 間 ( M RT: 24 日 ) 、 生 物 学 的 利 用 率 ( F : 8 3 % ) 、 分 布 容 積 ( V d : 4 . 4 l / k g ) 、 ク リア ラ ン ス ( C L : 0 . 3 1 m l / mi n / k g ) を 明 ら か に し た 。 経 口 投 与 さ れ た S Cs は 静 脈 内 投 与 と ほ ぼ 同 様 の 分 布 お よ び 消 失 プ ロ フ ィ ー ル を 示 し た 。 バ ッ ク グ ラ ウ ン ド レ ベ ル ( B G ) を 考 慮 し た 体 内 動 態 解 析 に よ り 、 最 終的 な 消 失 相 ( β 相 ) の 生 物 学 的 半 減 期 は 約 3 0 日 で あ る と 算 出 し た 。投与 量 に 対 す る 尿 中 回 収 率 お よ び 糞 便 中 回 収 率 よ り 、 投 与 総 量 は 試 験 期 間 中 ( 1 8 2 日 間 ) で ほ ぼ 全 量 体 外 へ 排 泄 さ れ た と 推 定 さ れ た 。

第 二 章 黒毛和種 における 安定 セシウム 単回投与後の 体内動態 パラメータ を 用いた 反復摂取に 関わる セシウム の 体内動態予測
求 め ら れ た PK パ ラ メ ー タ か ら 、 任 意 の 反 復 摂 取 期 間 に お け る 組 織 中 Cs 濃 度 を 予 測 で き る 。S Cs を 21 日 間 あ る い は 2 8 日 間 反 復 摂 取 し た 場 合 の 動 態 を 予 想 し 、同 様 に 実 験 を 行 っ た RCs の 実 測 値 と 比 較 し た 。 S C s 単 回 投 与 か ら の 反 復 投 与 予 想 曲 線 は 反 復 摂 取 さ れ た R Cs 実 測 値 に ほ ぼ 一 致 し た 。 長 期 間 反 復 摂 取 で は β 相 の 生 物 学 的 半 減 期 の 5 倍 ( 約 1 50 日 ) 以 上 で 血 液 、尿 お よ び 筋 肉 に お い て 定 常 状 態 C s 濃 度 ( C s s ) の 9 8% 以 上 に 到 達 し 、 C s s の 比 は 血 液 : 尿 : 筋 肉 ≒ 1 : 7 : 1 9 と な っ た 。ま た 、一 日 あ た り の Cs 投 与 量 と 筋 肉 中 C ss の 比 を 示 す 移 行 係 数 は 2.2 × 1 0 - 2 と な り 、こ の 値 は 国 際 原 子 力 機 関 ( I A E A ) の 報 告 値 と 一 致 し た 。 さ ら に 、 反 復 摂 取 ( ば く 露 ) 期 間 の 長 期 化 に と も な い 飼 い 直 し 後 の α 相 の 短 縮 お よ び β 相 の 延 長 が 認 め ら れ た 。こ の こ と は 、長 期 間 ば く 露 に よ り R Cs の 生 物 学 的 半 減 期 が 見 か け 上 、 β 相 に 近 づ く こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ れ ら の こ と か ら 、 長 期 間 汚 染 環 境 中 で R Cs の ば く 露 を 受 け て い た 牛 の 最 適 な 飼 い 直 し 日 数 を 推 定 す る に は 、食 肉 の 安 全 性 を ふ ま え 、 β 相 の 生 物 学 的 半 減 期 (3 0 日 ) を 用 い る こ と が 望 ま し い と 考 え ら れ た 。 ま た 、 飼 い 直 し を 行 う 環 境 中 の BG も 考 慮 す る こ と が 適 切 と 考 え ら れ た 。

第 三 章 黒 毛 和 種 に お け る 生 体 試 料 か ら 食 肉 中 の 放 射 性 セ シ ウ ム 濃 度 の 推 定 と 除 染 法 の 提 案
各 組 織 で 明 ら か に さ れ た C s 濃 度 推 移 か ら 筋 肉 中 C s 濃 度 を 推 定 する た め の 最 適 な 生 体 試 料 と し て 、 血 液 と 尿 を 比 較 し た 。 尿 中 SC s 濃度 に 対 す る 筋 肉 中 SC s 濃 度 比 ( M / U 比 ) の 変 動 は 血 液 の 1 / 6 ~ 1 / 10 であ っ た 。 こ の こ と か ら 、 尿 中 R Cs 濃 度 か ら 食 肉 中 RC s 濃 度 を 推 定 し 、 飼 い 直 し に 必 要 な 日 数 の 算 出 法 を 検 討 し た 。 M / U 比 は 観 察 時 期 に よ り 変 動 し 、 定 常 状 態 に い た る ま で は 、 そ の 最 大 比 2 .7 に 近 づ く よ う に 漸 増 す る が 、 飼 い 直 し 後 は 急 速 に 上 昇 し た 。 短 期 的 観 察 で は 最 大 濃 度 比 は 約 8( 実 測 値 約 9) 、長 期 的 観 察 で は 約 7 と な り 、そ の 後の B G 収 束 は 5 .5 ま で 漸 減 す る と 推 定 さ れ た 。 そ こ で M /U 比 に 応 じ て 、 ま ず 飼 い 直 し 開 始 時 の 筋 肉 中 RC s 濃 度 を 推 定 し た 。 R Cs 汚 染 飼 料 反 復 期 間 が 150 日 ( 筋 肉 中 RC s 濃 度 が C ss に ほ ぼ 達 す る 日 数 ) 以 上 で は [ 尿 中 R Cs 濃 度 × 2 .7 ] 、1 50 日 未 満 で は [ 尿 中 R Cs 濃 度 × 9] の 式 から 筋 肉 中 R Cs 濃 度 を 算 出 可 能 と 考 え ら れ た 。 さ ら に 、 β 相 の 生 物 学 的 半 減 期 (3 0 日 ) を 利 用 し て 、 飼 い 直 し 日 数 は [ ( 3 0 / l n 2 ) × l n ( X / 出 荷 基 準 値 ) ] と 算 出 可 能 と な っ た 。 た だ し 、 尿 比 重 補 正 を 行 わ な い と M /U 比 の ば ら つ き は 大 き い 。 ゆ え に 、 よ り 最 適 な 飼 い 直 し 日 数 を 推 定 する た め に は 尿 比 重 補 正 は 必 須 と し た 。 ま た 、 出 荷 前 に は 確 実 に 出 荷基 準 値 を 下 回 っ て い る か ど う か を 確 認 す る た め に 、 食 肉 の 安 全 性 をふ ま え M /U 比 を 1 0 と し て 、 尿 中 R Cs 濃 度 が 食 肉 出 荷 基 準 値 の 1 / 1 0以 下 で あ れ ば 出 荷 基 準 を み た す と 考 え た 。

本 研 究 で は 、 黒 毛 和 種( 雌 成 牛 ) に お け る Cs の PK パ ラ メ ー タ を明 ら か に し 、Cs の 消 失 相 の 生 物 学 的 半 減 期 は 30 日 と な っ た 。ま た 、生 体 試 料 お よ び 食 肉 中 R Cs 濃 度 の 経 時 的 な 動 的 平 衡 予 測 と 移 行 係 数が 導 か れ 、 飼 い 直 し 期 間 の 推 定 も 可 能 と な っ た 。 以 上 の こ と か ら 、安 全 で 最 適 な 食 肉 の 除 染 法 の 提 案 が で き た と と も に 食 肉 資 源 の 確 保に つ な が る 提 言 を お こ な う こ と が で き た 。 本 研 究 で の 提 案 が 福 島 畜 産 の 再 構 築 に 貢 献 で き る こ と を 期 待 す る 。

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