政策目標未達成下における日本産加工食品の輸出打開策に関する実証的研究 ―「伝統食品」と「食肉加工品」を対象に―
概要
少子高齢化社会の進展とともに,日本国内の食市場の規模縮小が懸念される。一方,中国をはじめとした新興国を中心に,世界の食市場は拡大が見込まれている。そのため,日本の食品産業が維持・発展のためには輸出の強化が不可欠である。
農林水産省は,2019 年までの農林水産物・食品の輸出目標額を1兆円に掲げ,その達成のために「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」(以下,「2013 年戦略」)を策定した。この戦略では,「重点 8 品目」を設け,それぞれの輸出目標金額と示すとともに,輸出拡大が見込まれる国・地域を示した。このうち加工食品は最大の 5,000 億円を占め,特に重要な位置にある。そして,首相官邸も 2016 年に「農林水産業の輸出強力化戦略」(以下,「2016年戦略」)を打ち出し,加工食品の輸出拡大に関して,ア.世界の料理界での日本食材の活用推進および日本の「食文化・食産業」の海外展開との一体的な推進,イ.輸出先国・地域の食品安全規制や表示規制等に関する情報提供,ウ.事業者による対応の推進,重点品目(みそ,醬油,ソース混合調味料,清涼飲料水,菓子)に関する戦略的な取り組みの支援という 3 点の方向性を示した。
ところが,目標の達成年次が近づくなか,「重点 8 品目」の中で目標達成する品目が出現する一方,牽引役を期待された加工食品は 2018 年で 3,101 億円(目標達成率 62%)と,達成できない可能性が高い。この実情を踏まえると,2016 年戦略において日本政府が打ち出した加工食品に関する輸出戦略(以下,ビジョン)には,評価できる一方,不十分な部分も存在することが一因になっていると考えられる。とりわけ,上記の戦略の内容をみると,みそ,醤油等の調味料に代表される伝統食品(以下,伝統食品)と食肉加工品に代表される近代食品において顕著と推察される。それは,後述するように,両品目には大きな可能性が秘められているものの,有益な言及がなされていないからである。例えば,ビジョンでは,伝統食品に関連する項目として調味料の部分で言及があるものの,「日本食レストラン等の業務用需要での強みを生かし,日本食・文化の普及と一体となってプロモーションを強化する」との内容がわずかに明示されているだけとなっている。そして,食肉加工品については目標金額さえ示されていない。
輸出拡大を実現するには,多くの輸出主体ならびに潜在的輸出主体の多くが参考にする国の指針たるビジョンの内容をより有益かつ説得力あるものにすることが不可欠である。そのためには大きな可能性がある品目を対象に,有益と考えられる具体的な企業行動の内容を明示すると共に,なぜそのようになっているかの理由や対応策も明示することが望まれる。